5 冒険者復帰!
退院から一週間が経過したこの日、俺はカタナを手にギルドへ足を運んでいた。
怪我は完治した。全治二週間。今日から冒険者復帰である。
「えーっとアリサは……まだ来てねえか」
周囲を見渡してみたが、アリサの姿は見えない。
今日、アリサとは現地集合の約束をしているのだけれど、まだ来ていないようだった。
まあ約束の時間まであと15分程ある訳だし、ゆっくりと待っていよう。
そう考えながら、壁に背を預けたところで見覚えのある顔を見かけた。
そして向こうも俺を見て、こちらに歩み寄ってくる。
「どうもどうもクルージさん。今日から復帰ですか」
歩み寄ってきたのは……この前病室にアレックスからの遺言を告げに来たルークだ。
「ああ。えーっと、確かルークさん、だったよな? この前の見舞いのお菓子すげえうまかった。ありがとう」
「いえいえ、安物ですよ」
嘘付くなよ。後でパッケージ調べたらすげえいい所のだったじゃねえか。
びっくりしたよね。ほぼ赤の他人へのお見舞い品として持ってくる様な物じゃないよね、って位高級品だった。俺とアリサでバクバク食って食べ終わってから割と真剣に後悔したもん。
なんだろうか。ルークは普通にSランクの依頼を受ける様な冒険者みたいだけど、そういうのをずっと続けていたらあの高級品を安物って言える様になるのか? すげえな。
まあそれはさておき。
ルークは軽く周囲を見渡してから言う。
「今日はお一人ですか?」
「いや、アリサを待ってる」
「ああ、なるほど」
ルークは少し残念そうに言う。
「……どうした? 急にそんな事聞いて」
「いえ、もし今日あなたがフリーなら一緒にどうかなと思ったんです。結局あれから俺はまだフリーなもんで」
「アレか? 幸運スキル狙いって所か?」
「ご明察」
ルークは隠す素振りもなく言う。
「正直だな」
「そりゃそうでしょう。基本的にパーティというのは利害の一致や、足りないものを補い合う為に組むものですから。パーティーに剣士が欲しければ声を掛ける。魔術師が欲しければ声を掛ける。そして俺は今運気が欲しかった。そんだけです。別に隠す必要はないでしょう?」
「……まあ確かに、言われてみりゃそうか」
確かにそれがパーティを組む際の真っ当な理由だと言えるだろう。
だから俺はアレックスにパーティーに誘われ、結果が残せず解雇された訳だ。
そう考えると俺とアリサの様なパーティーの組み方は結構珍しい部類であると言えるだろう。
もっとも俺達も、俺は実力でアリサは運気。それぞれの足りない所を補っていると言えるかもしれないけれど。
……ちょっとまて、補えるのか本当に。
ここ最近の俺の運気はどこかおかしい。
なんというか……平凡。普通。特別秀でていない。
原因は分からないけれど……間違いなくそんな感じなんだ。
そんな状態でアリサの不運スキルをどうにかできるのだろうか?
いや、でもこの一週間の中で何度かアリサに会ったけど、そこで何か悪い事が起きた訳でもないし……駄目だ。何度考えても良く分からねえ。
「……どうしました?」
俺がそうやって少し思考の海に沈んでいるのを見て、ルークが首を傾げていた。
「あ、いや、なんでもねえよ、なんでもねえ」
「? ならいいんですが」
そう言ったルークは一拍空けてから言う。
「まあとにかく、あなたのスキルは通常補えない物を補える。故にあなたをパーティーに誘いたい人も大勢います。多分私が今そうした様に、今日は勧誘ラッシュになるかと思いますよ」
「えぇ……」
「ほら、もうあなたが来た事を聞いて人が押し寄せてきてますよ」
言われてルークが指を刺す方向に視線を向けると、確かに……何人もの冒険者がこちらに向かってくる!?
「おいそこのアンタ! 俺とパーティー組まねえか!?」
「俺の探索スキルとお前のSSランクの幸運スキルがありゃ一攫千金も夢じゃねえ! 組もうぜ!」
「誰だコイツを疫病神だとか言ってシカトしてた奴は! なあ俺とパーティー組もうぜ!」
「え? なにこの騒ぎ。良くわかんねえけど便乗しとこ! はい! 俺もパーティー組みたい!」
なんかすげえ勢いで集まってくる!?
つーか俺がちゃんと聞き取れた三人! お前らこの前俺が声掛けた奴だよな!? 別にもう気にしてねえけどもうちょっと謙虚さを持ち合わせねえ!? 手の平すげえ勢いで返してるけど!? クルクルしてるけど!?
つーか最後に聞き取れた奴に至ってはもうノリと勢いしかないじゃん。足りない所を補うパーティー結成論はどこいったの!?
「はいストップストップ! 全員落着け! 俺もうパーティー組んでんだっての!」
「知ってる! あのSSの不運スキルの奴だろ!? それなら俺と組んだ方が!」
「俺と組んだ方が絶対にメリットがある!」
「あーくそ! メリットとかそういう話じゃねえんだよオイ!」
「じゃあなんだ!?」
「え、そりゃお前……」
え? なにこれ。発表しなきゃならない流れなの?
だって俺がアリサと組んでる理由とか……アレだぜ?
俺の存在を肯定してくれたアリサに何かしてあげたいとか……そんなんだぜ?
これ発表すんの? それってすげえ羞恥プレイじゃね?
「あ、分かった!」
俺が黙り込んでいると、さっき一人だけノリと勢いでやってきた奴が言う。
「下心だ!」
なんか全然違うけど、その……全くないとは絶対に否定できねえ回答きやがった!
「「「ああ~」」」
そして皆さんそれで納得してるぅ!?
手の平にポンと拳置いて納得しいてるぅ!?
そして連中の内の一人が俺の肩にポンと手を置いて言う。
「まあ、その……なんだ。邪魔して悪かったな」
そして此処に来てなんだその謙虚さ! さっきの勢いどこ言ったんだよ!
「あーうん、まあそういう所も……あるし。悪い。また機会あったらパーティー組もうな」
とりあえずもう面倒だったので、そういう風に話を終わらせておく事にした。
こういう風に言っておけば終わらせられる確信があり、言わなければふりだしに戻る様な気がしたから。
……それに全く違わなくもないと思うから。
そりゃね、流石に優越感的な物が全くないわけがないよ。アリサはなんというか……冗談みたいに可愛いし。
「おう、じゃあまたの機会な。そんな訳でお前ら撤収!」
そして戦闘にいた男の掛け声で、集まっていた冒険者達はこの場から散っていく。
……おい誰だお幸せにとか言った奴。ありがとう。
「……あなた、本気でそんな理由であの子とパーティーを組んだんですか。見損ないましたよ」
「あの、ルークさん? なんでアンタまで純度100パーセントで情報受け取ってんの? そういうポジションなのお前も」
「冗談ですよ。ハハハ、お幸せに」
「本当に冗談だと思ってる!?」
でもありがとう。
と、そんなやり取りをしていた時だった。
「あ、クルージさん! お待たせしました!」
アリサがギルドへやってきたのは。
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