【67話】久しぶりのヴラー村


 魔族船で数週間波に揺られ辿り着いた港町から、さらに数時間ほど馬車で走ったその日の夜、ついに俺達はヴラー村へと帰還した。


 それにしても流石にこちらの馬車は早いな。

向こうの大陸では数日程かかるはずの距離でも、魔大陸にいる八本足の馬にかかれば一日とかからない。

まさに超特急ってやつだ、種族としての自力の違いを感じる。


 ちなみに村では既に連絡が行っていたのか、入口の所でウルベルト父さんやベルニーニ母さん、グレイグ兄さんなどが出迎えてくれていた。

他の村人も勢ぞろいで待ち構えてくれていて、ディーやサーニャの両親もそこに並んでいるのが良く見える。


「みんなー! ただいまー!」

「帰ったぞ親父ぃ!! 腹減ったから何かくれぇ!」

「お父さんお母さん、ただいまぁー」


 俺達はそれぞれの親の下へ駆けていき、挨拶を交わす。

半年しか離れて居なかったのに、なんだか村がとても懐かしく感じる。


「よく無事で帰って来たな、さすがは俺の息子だ」

「お帰りなさいルーケイド。お父さんはこう言ってるけど、毎日あなたの事を心配していたのよ?」

「久しぶりだねルー、旅は楽しかったかい? 後でその話を僕たちにも聞かせてくれよ。それと父さんが心配していたのは本当だ、毎日過剰な程の訓練で不安を誤魔化していたみたいだからね」


 家族の皆がそれぞれ思い思いの言葉を口にし、俺を歓迎する。


 まさかそこまで心配していたなんてね。

実際に勇者と戦いその力を知った父さんからしたら、あんなヤバイ奴に会いに行くなんて気が気じゃないだろうけど。


「心配してくれてありがとう父さん。確かに勇者はとんでもない奴だったよ、傍にヴラド伯父さんが居なかったら、確実に殺されていたのは間違いない」


 今なら皆が旅に条件を出した理由も、父さんが悩みに悩んでいた理由も分かる。

もし条件を気にせずに伯父さんとの連絡も待たず、俺の勝手な判断で行動していたら、成す術もなかったところだ。


 俺達の為を思って心配してくれた家族や村に、感謝の念が沸く。


「なにっ!? あの殺人鬼ともう遭遇したのかっ!? どういう事だヴラド!! なんの為にお前がついていたの思っているのだっ!!」

「う、うむ。まあなんというか、偶然出会ってしまったというか、まさかあの場に勇者までもが現れるとは思わなかった、というかのぉ……。すまんかった」


 勇者という言葉に反応した父さんがヴラド伯父さんに食ってかかり、憤怒の形相でその胸倉をつかみあげる。

あれ、まだこの情報は伝わって無かったのかな?


 しかしこの件に関して伯父さんに非はない。

あえて誰が悪いのかと議論するなら、それは撤退命令を無視してまで戦いに参加した俺の判断が悪いのだ。

これで死んでいたら目も当てられない。


 だが生き残ったのは事実だし、ああいう超越者も居るんだって身に染みて分かったから、俺自身はこれで良かったとも思っているけど。


「落ち着いてくれ父さん。出会ったといっても実際には無傷だったし、俺達が撤退するための時間は伯父さんが余裕をもって稼いでくれた。だからそんな事よりも、今は再会を喜ぼうよ」

「……そうか、そうだな。お前の言う通りだ。改めて、よく帰って来てくれたな我が息子よ。あとでお前の旅の話を、ゆっくりと聞かせてくれ」


 そう言って父さんは俺を抱きしめた。



──☆☆☆──



 旅に出た俺達の歓迎が行われた後、一旦村の皆はその場で解散し、それぞれの家へと戻っていった。

ヴラド伯父さんとその部下の人達はアマイモン家へと招待され、今は家族全員の意見を交えて旅の成果について語っているところだ。


「なるほど。それでルーケイドは向こうの大陸でそれなりの地位を確保し、またいつでも戻れる状態だというのだな?」

「うん、そうだよ。まあ第一王女あたりが何かに勘付いてもおかしくはないけど、あの腹黒さんなら敵対するよりも手駒に加えた方がお得だって分かっているだろうし、たぶん魔族バレの件は問題ないね」


 これはあくまで推測でしかないが、どうしてもあの第一王女が不利益を被るような算段をつけるとは思えない。

ああいう人間はそれが毒だと分かっていても活用法を考え、有効利用できないか常に頭を働かせているタイプのはずだ。


 そこにある敵や味方なんていう線引きは些細な問題でしかなく、冷静に考えてそいつが自分にとって有益かどうか、そこを追求する類の人物だろう。


 であるならば、少なくとも敵対意志を示していない俺達は彼女の益であり、種族間の問題くらいならその政治的手腕を以て誤魔化しにかかるはず。


「そうじゃな。儂も王都への侵入がてらに王宮の様子もちらっと見て来たが、アレはそこそこ使えそうな女だった。甥っ子を迫害するどころか手元に引き入れようとし、自分の駒の一つとして捉えるような奴だわい。まあ儂が奴の立場でも同じ事を考える故、似た者同士といった所じゃな」


 実際その通りだと思う、どうやら俺と考えが一致していたようだ。

ただもう一つ付け加えるとするなら、王女がこちらを有益だと思っているように、こちも王女を有益だと思っているという事が挙げられる。


 伯父さんは恐らく、魔族に偏見のない彼女を基点とし、王女と言う高位の立場がある事を良い事に、魔大陸と向こう側の橋渡しを考えているのだろう。


 この場合は両者共に得をする関係だが、まあそれは伯父さんと王女の間だけの話。

俺としては正直に言って面倒くさいだけなので、彼女の手駒になる気は微塵もない。


「むっ、ヴラドと同じタイプのヒト族か……。危険な香りがするな」

「まるで儂がやばい奴みたいに言うのはやめい」

「ははははっ! それは無理なんじゃないかい、公爵様。あなたの政治手腕は、魔大陸でも魔王様に次ぐ恐怖の代名詞として有名なんだからね」


 兄さんが父さんに賛同し、場の空気を茶化す。

その言葉に少しだけ不服そうな態度を見せるヴラド伯父さんだが、部下の者達が納得顔で頷いているのを見て押し黙るしかなかったようだ。


 さて、それでは旅の報告もだいたい終えた所だし、そろそろ修行の話に移るとしようかな。


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