国際松濤館 市原重幸先生のこと

皆中きつね

2018年の父の日のこと その1

 2018年6月17日(日曜日)、夜勤が終わり帰宅したばかりの朝だった。

 時間は午前10時半。私が帰宅したので、家族4人全員揃ったわけだ。

 この日は父の日。近所の結婚式場がレストランとして開放される日でもあったので、家族揃ってランチの予約をしていた。特に7歳の娘は今日のランチを楽しみにしていた。行かなくてはいけない。でも、必要以上に愛想良くできそうにないな。


 情け無い話だが、2、3日前から女房と喧嘩けんかして、ロクに会話もしない状態だった。

 帰宅しても女房と目を合わせない。極力会話しない。しかしこれから家族そろって食事に行かなくてはいけない。我ながらガキみたいな振る舞いだと理屈では思うのだが、感情が納得しないでいる。まあ父親としての責務だけ果たせばいいか。


 そんなことを考えていた時、友人のYからLINEがきた。諸般の事情により名前を出せないのでYとだけ表記するが、彼と私は、私が道場に入門して以来の30年の付き合いである。Yは父親の事業を継いで現在は会社社長となり多忙な日々を送っており、私は週に1度彼の仕事の手伝い(主にパソコン関連)をしている。早いものでそれも20年近くなる。

 だから今回も、またパソコン作業の関連かなと思い、LINEを開いた。


「市原先生が亡くなったと大蔵さんから連絡がありました。明日、お通やだそうです。」


「6/17月曜日 18時〜通夜

 6/8火曜日 10時〜告別式です。」


 文面の意味が脳に浸透するのに数瞬の時間がかかった。

 理解した時は、全身を灼熱しゃくねつ悔恨かいこんが襲った。

 市原先生がある事情から入院していたのは知っていた。しかし先生は弱っている姿を見せたくはないだろう。そう勝手に考え、お見舞いに行かずにいた。見舞いに行かなくても、あの先生は絶対に元気溌剌はつらつになって復帰するに決まってる。

 そう、思い込んでいた。


 YからのLINEも、要件だけ簡潔に書かれているが、日付などの入力ミスがあるところに隠しきれない内心の衝撃が見てとれた。


「市原先生の娘さんから空手関係の方が何名来るか聞かれたそうです。

明日は行きますか?」


 追って届いたYからのLINEのメッセージに、明日の通夜には行けるとだけ返信した。


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