永久凍結レベル一冒険者──魔王の討伐向かいます!

flaiy

冒険の始まり

第1話

この世界は平和だった。人も動物も植物も。なんの苦労もなく、楽しく暮らしいた。冒険者など存在せず、武器もなく、木刀でチャンバラをする程度だった。


 しかし今から千年ほど前。突如として現れた魔王により、生活は一変した。


 生活は一気に苦しくなり、魔王が呼び出す魔族や魔獣により、多くの人々が死んでいった。


 それを見かねた人々は、世界にレベルというものが存在することに気づく。そしてそのレベルは、極稀に見つかる特殊な石で測ることも可能となった。


 更に魔法を見つけ、これなら魔王に対抗できる、と息巻いた。しかし、全然届かなかった。魔獣は倒せるようになっても、魔族にすら足元にも及ばなかった。


 人々は落胆し、やる気を失っていった。しかしある日、一人の少年が立ち上がる。そしてこう言った。「俺は冒険者になる。そして、魔王を倒して見せる」と。この言葉に心動かされた人々は、立ち上がり、冒険者、鍛冶師、農業の三つの職に分かれて、それぞれで腕を磨いていった。


そこでつくられたのが、子供に冒険者としての心得を教える冒険者学園、鍛冶を教える鍛冶学園、農業や畜産を教える、農業学園を創立し、更に技術を上げていった。


 そして今から三十年前。これまた突如として現れた、一人の剣士がいた。黒髪黒目の、少女のような少年は、善なる魔王と言った。しかし、数か月後に姿を消すとも言った。そこで人々は、彼に多くを尋ねた。武器の製造方法、戦いの基本、作物の育て方、家畜の育て方——それらすべてを教わった。


 彼は去り際、こう言い残した。


「これから先、勇者が何人も現れるだろう。それは武器だったり、能力だったり、色々な。彼らはきっとみんなを救ってくれる。しかし、君たちの協力なくして、平和は取り戻せない。ともに協力して、悪を懲らしめるのだ」


 そうして、剣士は消えた。


 それから先、本当に多くの人々が現れた。強力な武器、異常な能力を持つ人間が。人々はその人間を“転生者”と呼んだ。


 しかし今から五年前。流行病により、多くの冒険者が死んだ。鍛冶師や農業、畜産をしている人も死にはしたが、死者の九割は冒険者だった。人々はこれを、魔王が起こした“魔王のいたずら”と呼んだ。


 そして今——今年も学園で卒業式が行われた。卒業生の一人、この世界の人の中では珍しい、黒髪黒目を持つ少年“レン”は、親に誕生日まで冒険者になるなと言われながらも、その日まで待ち、遂にその日がやってきた。 今日は俺の誕生日だ。そして、十三歳になる。遂に俺は、冒険者になることが出来るのだ。


♢


「母さん、ギルド行ってくる!」


俺は母さんに元気よく言って、家を出た。向かうのは、冒険者に関する全てのことをしている、冒険者ギルドだ。


俺は家を出て、ダッシュで幾つかの角を曲がり、そしてこの街で一番大きい建物の前に立つ。白い壁は一切の汚れがなく、二階建ての建物の屋根は、緑色に彩られ、実質身長の低い俺では、よく見えない。


「遂に来たんだ……」


俺は感慨に耽り、その建物を見上げ続けた。


どのくらいそうしていただろうか。ふっと現実に戻り、「よーし」と頬を叩いて、ギルドに入ろうと扉を押し──入れなかった。


「あれっ、あれぇ!?」


すると、扉が横にスライドした。高さが二メートル半ほどある扉だ。相当重いだろうが、動かしていたのは、一人の女性だった。白いポロシャツに黒い前でボタンで留めれるベストを着込んだ、薄い金髪の女性だった。


「どうかしたんですか?」


「……あ、えっと……冒険者の登録がしたくて……」


後半に行くにつれて、声が小さくなった。すると──


「んだこのガキ。女か? 冒険者の登録なら諦めな。十三以上じゃねーと出来ねーぞ。お前みたいなガキじゃ無理だ」


体格ががっしりとした、頭の禿げた男がでてきた。見たとこ、四十代前半と見える。筋肉えぐい。


「俺は男だし、十三だよ。そこを通して欲しい」


「通して欲しいだ? お願いをするなら、それなりの態度ってもんがあるんじゃねーか?」


ガラの悪い奴だ。いつの間にかさっきの女の人もいなくなっているし。


男が俺の服の襟を掴み、持ち上げた。そりゃこの筋肉なら、俺くらい簡単に持ち上がるだろうな。


「ほら。お願いしますそこを通してくださいって懇願してみろよ。泣きながら言ってみろよ」


こういう時、ホントに泣きながらすると、一生後悔するし、恥をかく。こういう時はこうすればいいことを俺は知っている。どうするか? こうするのさ。


そして俺は、右脚を後ろに高く振り上げて、戻ってくる勢いそのまま、膝を曲げて、男の股間に膝蹴りをぶちかました。これで一生後悔しなくて済む。


瞬間、ギルド内から「あいつやりやがった……」とか、「あいつ死んだな」とかいう声が聞こえてきたが、無視をする。そもそも、先に仕掛けてきたこいつが悪いのだから。


「さて、登録登録っと……」


邪魔な男を避けながらギルドに入る。取り敢えず受付と思われる場所に行くと、さっきの女性が立っていた。


「登録ってここでいいですか?」


「は、はい。こちらで承っております」


若干逃げたそうなのは、俺がさっき男を倒したからだろうか。レベルすらついていない俺に負けるんじゃ、あのおっさんもまだまだだな。


「こちらの書類に、生年月日、名前、身長、体重など、欄の通りに書いてください」


俺は言われた通りに書き記す。書類を手渡すと、


「希望職が魔法剣士ですか……珍しいですね」


そう。この世界には剣士や魔術師、聖職者といった職があるが、俺の希望した魔法剣士は、魔法と剣の両方の才能を持ち合わせていないとなれない。俺は母さんが魔術師で、父さんが剣士だったから、なれたのかもしれない。しかも、魔法剣士は千人に一人いればいい方と噂されるほど、レアな職業なのだ。


「あと、今日がお誕生日なんですね。おめでとうございます」


「あ、はい。ありがとうございます。親に十三になるまで絶対に冒険者になっちゃだめだって言われて……みんなは冒険者学校卒業してすぐになってるのに……」


こうやって祝われると、少し嬉しかった。


「実は、誕生日に冒険者登録すると、プレゼントがあるんです。親御さんは知ってたのかもしれませんね。では、少々お待ちください」


 俺は二分ほど待った。すると、さっきの受付嬢が一振りの剣を持ってきた。鞘に入っていて全貌は分からないが、間違いなくその辺で売ってる剣とは違う。多分。


「これは、三十年前に来た剣士様が残していった剣の作り方を基にして作られた、この世に一振りだけの剣です」


 俺はそう言って手渡された剣を、鞘から抜いた。刀身は真っ黒で、しかし、虹色に輝いているようにも見える。重さはあるが、振れないほどでもない。


「ありがとうございます」


「はい。あとこれですね。冒険者証明リングです。中心に一つ大きな石がありますが、それが所持者のレベルを表示するんです。どうぞ、付けてみてください。学園の卒業生なら、レベル十くらいからだと思いますよ」


 俺は言われるがままにその腕輪を左手首に着けた。すると、言われた通り一際大きな石に、数字が表示された。そこに書かれていた数字は——


「一なんですが」


「あ、あれぇ? おかしいな……ま、まあ、レベルは魔物を倒せば上がりますし、レベルが低いからって何もできないわけじゃありませんし」


 確かに、レベルが上がっていいことと言えば、熟練度の上昇速度アップ、物理・魔法の火力アップ、持てる武器の重量アップなどといったものだ。レベル一だろうが、別に魔王だって倒せる。


「おうおう、学園卒業生が一かよ! んーなんで冒険者できんのかぁ!?」


 朝から既に出来上がっている男たちがそんな声をかけてくる。これだから酒好きと酔っぱらいは嫌いなんだ。


「うるさいな。だったら、ガンガンレベル上げて、仲間も作って、ドラゴンも魔王も俺がぶっ飛ばしてやるよ!」


 大々的に宣言した。別に後悔はない。俺はそのつもりで冒険者になったのだから。父さんの敵を取るために……


「はっ、初心者は皆そう言うよ。けどな、世界そんな甘くねえんだぞ。ちょっとレアな剣手に入れたからって、調子こいてんじゃねーぞおら!」


「そうだそうだ。今までどんだけスゲー転生者も倒せなかったんだ。お前じゃ無理だよ!」


 転生者。さっきの話に上がった、三十年前の剣士様が来て以来、たまに送られてくるようになった、別の世界からの救世者。神によって特別な能力や武器を与えられたらしいが、未だに魔王に勝てた者はいない。


「そいつらはバカなだけだ。一人で挑むからダメなんだよ。俺はそんな馬鹿じゃない。今に見てろよ。お前ら全員、ひざまずかしてやるよ」


 全員黙った。これだけ言えば、十分だろう。しかし、正直——言わなきゃよかった。後悔してないとか言ったけど、めっちゃ後悔した。恥ずかしい。


「えと……クエストは……?」


 熱くなった顔を見られないように俯きながら、受付嬢に質問をする。


「え、えーと、二階の掲示板です。二人いるので、右の受付に渡してください。もう一人は保険登録なので」


「わかりました」


 俯きがちのまま、二階へ上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る