…勘違いが身を結んで可愛い後輩とよくわからないけど付き合うことになりました…、
何処にでもいる唯の唯一神(仮)
第1話:プロローグ
「先輩、好きです。付き合って下さい」
ある夏の日、僕こと町田
相手の少女のことは話したことはないが知っている。
整った顔立ちもさながら水泳部ゆえの引き締まった体つきは男子生徒の人気の的だった。未成熟な胸元もやや特殊な嗜好をお持ちの連中には好評らしい。
「とりあえずありがとう。けど、疑うようで悪いけど、どうして僕を?」
学年は違うし、部活も違う。僕と蓋品さんにはこれといった接点がなかった。
同じ学校だし登下校中とかにすれ違ったりすることはあっただろうけど、それで特別なアクションがある訳ではなかった。
「あの、この前先輩が私を痴漢から守ってくれたことがあったじゃないですか?」
「…え?ごめん、ないと思うよ」
さすがにそんなことあったら記憶に残ってるはずだ。
残念ながら記憶を前世まで遡らせても該当する事実はなさそうだ。
「え?あの時ですよ、私が痴漢にあったときに先輩が痴漢に体当たりして。先週の水曜です」
先週の水曜のことはよく覚えている。
発熱をして僕は学校を休んで家で寝ていた。
よって、その痴漢から蓋品さんを守ったヒーローくんは僕じゃない。
「多分、人違いだ。僕、その日熱で休んでた」
嘘をついても仕方ないのできっぱり真実を伝える。
「へっ?えーーー」
蓋品さんは一通り叫ぶと俯いてしまった。顔が真っ赤なのは夏の暑さのせいではないだろう。
「ごめんね、じゃあ僕はここで。君の恋が実ることを祈ってるね」
可愛そうだが、下手にフォローいれると余計に惨めなことになりそうなので早々に退散する。退散する、つもりだったが、ガシッと裾を掴まれた。
「待ってください」
「どうした?あ、大丈夫だよ。誰にも言わないし、SNSに書き込んだりしないから」
「う、違います」
そのまま、蓋品さんはまた俯いてしまった。
「…に…じゃないで…か、」
「なんて?」
蓋品さんは俯いたままで声も小さいので何を言っているのかイマイチ聴き取れない。
「だから、好きになっちゃったじゃないですか、先輩のこと!」
「この短時間で⁉︎」
何?ものすごい惚れやすい子なの?確かに痴漢から助けられただけで惚れちゃうような子だけども。だとしても、この会って数分、交わした言葉はたかが知れる僕に惚れる?
「違いますよ。この一週間、助けてもらったことのお礼を言おうともって先輩のことをいろいろ調べたりしてたんです。まあ、人違いだったんですけど」
「はぁ」
よくよく思い返してみれば、確かにここ最近視線を感じることが多かった気もする。
「そしたら、いつのまにか先輩のこと好きになっちゃったんです。どうしてくれるんですか⁉︎」
「いや、知らんがな」
痴漢から助けてもらったという偽りのバイアスがかかった状態の僕を一週間近く意識してたら惚れてしまった訳か。何?案外僕ってモテ要素あんの?まじか。
「てか、どうして先輩はそんな冷静何ですか?一度も告白されたことのない童貞なのに」
何故僕は自分のことを一応好きな後輩に罵倒されてるのだろうか?てか、案外ちゃんと僕のこと調べてんな。僕のプライバシーのガード甘すぎだろ。惚れた腫れたは高校生の一番の機密事項だぞ、多分。
「いや、冷静って訳じゃないぞ。お前、僕だって人生初の告白で興奮してたんだぞ。それが人違いからのやっぱり好きだのよくわからん展開になって、思考が間に合ってないだけだ。マジでどういう状況なんだよ⁈」
ほんと、今ってどういう状況なの?表の裏の裏は表的な感じで、結論的には告白されてるの?
「ああ、どうしてくれるんですか?こうやって一緒にいるだけでますます好きになっちゃうじゃないですか!」
「何、それ?ありがとう!」
「ああ、こちらこそありがとうです。ええ、好きです!」
何これ?なんかお互いテンションがおかしくなってる。
「一旦、水飲み休憩でも挟まないか?」
この暑さも平静さを失っている一つの要因だろう。
「そうですね。戦いは長引きそうです」
どうやら僕らはいつのまにか戦っていたらしい。お互い勝利条件不明の泥仕合だな。あ、水筒の中身切らしてた。
「水買いに自販機に行くが蓋品さんは何かいるか?」
「あ、私もついていきます」
まあ、ここに居ても虫に食われるだけで、いる理由はないな。
僕らは並んで自販機へと向かった。
なんかお互い気まずくて気づけば二人とも徐々に早歩きになっていた。自販機に着く頃には走っていた。
「はあ、はあ、疲れた」
冷静になるための水飲み休憩で疲れてたら世話ないな。息切れする僕とは対照的に蓋品さんは涼しい顔をしていた。さすが水泳部次期エース。
あ、僕の視線に気づいて赤くなった。蓋品さんは僕の視線から逃げるように慌てて自販機に小銭を入れて黒色炭酸飲料を2本購入した。
「どうぞ、先輩」
蓋品さんは購入した黒色炭酸飲料の片方を僕に差し出すと自身は僕のすぐ横で踵を地面につけたまま脚を広げてしゃがんだ。まさかのうんこ座り。
蓋品さんが飲み始めたのを見届けると僕も壁にもたれかかり黒色炭酸飲料に口をつける。暑さが手伝って一気飲みしたい衝動に駆られるもなんとか自制していくらか残す。
横を見ると蓋品さんは誘惑に耐えきれなかったのか、ペットボトルの中身を一気飲みで空にしていた。うん、この後ゲップが聴こえても聞いてないふりをしてあげよう。
「代金払うわ、いくらだ?」
確か140円かそこらだが自販機によって誤差が出るので確認をとる。
「別にいいですよ」
「そうはいかないだろう。こっちは一応先輩なんだし」
「一応ってなんですか、ちゃんと先輩は先輩ですよ」
「そうか、なら尚更だ」
ここで問答を続けても仕方がないので、無理やり蓋品さんの手に150円を握らせる。蓋品さんは跳ね返すことなく受け取ってくれた。
「暑いな」
「そうですね」
黒色炭酸飲料のお陰で冷静さを取り戻した僕らは今内心羞恥に悶えていた。
よくよく考えてみると、初対面の女の子とこんな喋ったのは初めてだ。
なんかちょっと緊張してきた。緊張を隠すために残りの黒色炭酸飲料を少し口に入れる。炭酸の刺激がやけに強く感じた。
「先輩、好きです、付き合ってください」
唐突に横から告白が飛んできた。口の中の水分を吹かないように必死に堪える。
蓋品さんの方を見る。顔を真っ赤にして恥ずかしいだろうに眼を逸らさず僕を真っ直ぐに見つめる彼女からは真剣さが伝わってくる。
正直、答えなんて一つしかなかった。
「僕でよかったら」
こんなときに洒落た言葉の一つや二つ言えたらよかったが、それを童貞に求めるのは無理がある。これで僕の彼女いない歴もストップか。
「よっしゃーー、うぇい、ゲプッ、ん、イェイ、先輩、愛してますぅ!」
僕が静かに人生初の告白を噛み締めてる中、蓋品さんは跳んだり跳ねたりゲップしたりと大はしゃぎだった。なかなか蓋品さんの性格が捉えづらいな。
「おい、そんなはしゃぐとパンツ見えるぞ」
今のところ、見えそうで見えないが見えるのも時間の問題だろう。いや、もう彼氏彼女だし見てもいいのか?いや、彼氏彼女でもダメか?あ、見えた。
「あ、そう言えば私の名前は蓋品水薙って言います」
「今更⁉︎」
確かに聞いてなかったし、知ってたから聞かなかったけど。
「そろそろ帰りますか、先輩。日も暮れてきましたし、文字数も3000くらいいきましたので」
「文字数って何⁉︎」
いきなりメタ的なこと言うからビックリしたよ。この小説、そう言うのに触れるタイプなのね。
「あ、そういえば先輩。私のパンツどうでした?」
「僕はなんて答えたらいいの?痴女なの?」
蓋品さんってこんなにボケを連発するタイプなのか。付き合ってしる驚愕の真実。まあ、ほぼ初対面で知らないことだらけだけど。
「私は先輩のためなら痴女にだってなれます」
「愛が重い」
僕ってそんな好感度上がるイベント起こしたっけ?
「先輩」
「なんだ?」
どんな方面からボケが来てもいいように全面的に身構える。
「大好きです」
可愛いな、おい。え?うちの後輩彼女めっちゃ可愛くね?
「そうか、僕もだよ。…これ、思ったより恥ずいな 」
こうして僕は初めての恋人を得た。これは僕たちの交際を描く学園ラブコメである。多分。
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