幕間3-2:プライド
オリヴィエが瞳を青く光らせると、宍戸が急に苦しみ始めた。
(な、なになに!? 何が始まるっていうの!?)
アイネは本能的に、オリヴィエがとんでもないことをしていると気が付き、抱き着いたひよりんたちと共に一歩後ずさった。
「ねぇ見てお父さん! あのおじさん洗脳されてるみたい!」
「洗脳!?」
「や、やだぁ……怖いぃ…………」
「あーら、この子結構意思が強靭ね。普通の人なら一睨みでお人形になるのに」
「ぐ……貴様っ! 話が、違うぞ……!」
宍戸は激しい頭痛に苛まれ、同時に自分の意思がどんどん塗り替えられるような感覚に襲われた。
「目には目を、歯には歯を。ぶっちゃけあなたの思想とうちの組織って相容れないのよね。でもあなたが持ってるものは欲しいわ。だから、勝者の特権として、あなたが行ってきた報いを執行するの。文句ある?」
まるでレーザーのような青い光は、宍戸が瞼を閉じても視界を青一色に染めた。
オリヴィエは洗脳――――というよりも、他人が持つ脳の情報を書き換えることができる。
洗脳より質が悪い点は、その人間が持っていた「意思」を完全に上書きし、本来のものを完全に消去してしまうことだろう。
宍戸は必死に抵抗を試みる。だが、ダニー・カリフォルニアは姉日和によって喪失しており、逆転はほぼ不可能。
(俺が俺ではなくなる――――冗談ではない)
このままでは「自分」がなくなる………………宍戸は覚悟を決め――――
「ぬぐっ……」
『!?』
「……うそ、舌を噛み切った……?」
宍戸の口から大量の血が噴出した。それは、舌を噛みきったというレベルでは済まない、首を丸ごと切断したかのような大量出血だった。
(俺の…………魂は、俺だけの………ものだ。思い出の……………無い、人間は………死んでる……のと、同じ…………)
それは、彼の最後のプライドによる最後の抵抗だった。
人間は舌を噛みきっても、実は死ぬ可能性はそこまで高くはない。
せいぜい噛み切った舌やあふれ出た血が気道を塞ぎ、窒息死するくらいだ。
だが宍戸は、最後の力を振り絞って、舌の根からわざと血を噴出させ、自らを失血死に追い込んだのだった。
幸いオリヴィエもアイネたちも、噴き出す血を浴びることはなかったが、その壮絶な死にざまをみて、茫然とするほかなかった。
「失敗したわ」
「見ればわかります! このおっさん、最後の最後になんてもの見せてくれんのよ! これじゃ妹ちゃんがしばらく泣き止まないわ!」
やれやれと両手を上げて首を振るオリヴィエ。
珍しく苛立ち額に青筋を浮かべるアイネ。
そして姉日和は「すご~い」とケタケタ笑い、妹日和はギャン泣きした。
「あー……一応言い訳しとくけど、私は滅多なことではこんなことしないから」
「それもわかってますって。でも、オリヴィエさんがそういうことができると言うのは覚えておきますね」
「それで構わないわ」
今まで色々な種類のチートを相手してきたアイネでも、流石に今回の相手は危険極まりなかった。それに、一応上司であるオリヴィエも油断ならない人物であることを再確認した。
とはいえ、彼女は再び根無し草になる気はない。娘たちを育てるためにも、彼女はせっかくの味方を手放すことはできなかった。
「すみません。まだ私は用事を終えてないので、行ってもいいですか?」
「あら、まだだったの? でも残念だけど、探偵社はもうなかったわよ」
「……っ!! そんな!」
師匠の所属していた会社がなくなっている――――信じられないことを聞いたアイネは、ひよりんたちを両脇に抱えて、慌ててビルから飛び立った。
彼女はまた思い出を失うのだろうか…………
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