6-12  説明会

 玲子さんも、『神宿る目』を持っていたようだが、結果として、今回はサッちゃんに頼んで良かったと思う。

 それは、サッちゃんは、…俺の感覚でだけれど、妖魔に効きそうな懐剣を持っていたので、作戦がたてやすかったからだ。


 というのも、なにかが足りないんだけれどと考えていたとき…まあ、なにかとは『神宿る目』か、それに変わるもののことなんだけれど…、そのなにかが揃ったときには、次にどう妖魔と戦ったらいいのか、こころ密かに悩んでもいたので…。


 最終的には、砂場から飛び出してきた妖魔に、おれが飛びつくことまで考えていたんだけれど…まあ、当然のことながら、結論と決めるには至っていなかったんだけれどね。


 でも、あの懐剣を見て、出てきた妖魔に対する攻撃法が、すごくシンプルになった…、あやかさんがやるように、サッちゃんが、懐剣で刺せばいいんだから…。

 ただ、これをサッちゃんができるかどうかは、ちょっと、心配だった。


 かといって、仮に玲子さんに頼むとすると、玲子さんの体力的なことを考えただけでも、ちょっと、無理だったかもしれない。

 まあ、それしかないとなったら、何が何でも、やったとは思うけれど。


「その…、『神宿る目』になるのってさ、やっぱり、子どもの頃から、体、鍛えておかないと、かなりきついってことなの?」

 と、おれ、あやかさんに聞いてみた。


「うん、そうみたいだよ…。

 実際にきつく感じるのは、体じゃなくて、精神というか神経というか、そっちの方らしいんだけれどね。

 でも、この場合、体がもとにあっての神経のような感じなんだよね…。

 玲子さんがやるとね…、まあ、やってる時間にもよるんだけれど、入院が必要かどうかってくらい、衰弱しちゃうみたいなんだよ」

 と、あやかさん、詳しく説明してくれた。


「そうなのか…。

 体力がないと、『神宿る目』って、かなり、きついんだね…」


「そうらしいね…」


「それで、玲子さんが『神宿る目』を持つこと、みんな、知ってるの?」


「いや、知らないよ。

 お母さん、面倒だからって、おじいちゃんなんかには、内緒にしてあるんだよ。

 やってみせてよ、なんて言われても、それだけで、けっこう体力使うからね。

 だから…知ってるのは、わたしとお父さんぐらいなもんだね」


 うん?ひょっとすると…。

 別荘の前の山、その中を走る道のこと、玲子さんがある程度知っていたのって、玲子さん『神宿る目』を持っているので、体、鍛え直そうとしたことがあるのかもしれないな。


 そうだろうな…、こういう家柄だから、『神宿る目』などというような、昔から家人に尊重されていたことに、けっこう興味があったのかも…。

 なるほどな…。


 でも、と言うことは、だよ、今晩、『神宿る目』を持つ人が、3人集まるって言うことなのかな?

 これじゃ、もう、妖魔のヤツ、近寄れないんじゃないだろうか?


 うん? 逆かな?

 妖魔が…何頭もワイワイと集まってくるのかも…。



 そんな、あやかさんとの話に一区切り着いたとき、『準備、できたッスよ』と、北斗君が呼びに来てくれた。


 あやかさんと会議室に行くと、もう、みんな集まって、ゆったりとコーヒーを飲んでいた。

 サッちゃんは、例のごとくオレンジジュース。


 おれとあやかさん、ソファーで話に夢中になっていて、吉野さんたちがコーヒーを持ってロビーの後ろの方を通り抜けたの、気が付かなかったらしい。

 まあ、そっと、通ってくれたんだろうけれど。


 そのあとも、しばらく、ゆっくりと、二人にしておいてくれたようだ。

 北斗君、呼びに来たのは、今回が2回目だったらしい。

 もちろん、1回目は、おれとあやかさん、話に夢中になっていたので、そっと戻っていったんだとか。


 それで、かなり待機してもらっていたことになるので、すぐに、おれの説明会を開始した。


 映像を見てみると、やっぱり、北斗君の言った通りだった。

 走り回る妖魔の光が、砂場に流れ込むと、サッちゃん…、そして、おれも、ほぼ同時に…、砂場に飛び込む。


 おれの右手が、サッちゃんの懐剣の上に置かれると、すぐに真っ白な光に覆われ、すべてが消える。


 次の瞬間、光が消えると、ちょっと時間が飛んだような感じで、きれいに着地して、深々と懐剣を刺しているサッちゃん。

 そして、その向こうには、妖刀を地際まで差し込んでいるあやかさん。

 その二人の間で、おれは地面の上に、両手を広げて、べったりと横になっている。


 直後、白いものが吹き荒れ、霜となって降るように床の岩が真っ白になる。

 砂場も真っ白。

 当然、おれも、雪に覆われた死体のように真っ白。

 なんだか、かなり情けない姿だな…。


 それで、これではいけないと、おれ、すぐに、この、白く光ったときに起こったことを話し始めた。


 前と、同じように、でも、今回は少し誇張して、おもしろおかしく…なんて考えてもみたが、あやかさんのようには上手に話せない。

 しょうがないから、意気込みはそのままに、実際に起こったこと、感じたことを、淡々と、でも、なるべく丁寧に話した。


「第五段階までやったんですか?」

 と、驚いて、最初に聞いてくれたのは、なんと、浪江君。


「そうなんだよ。

 練習の時と違って、力が入りすぎたのか、すぐに耳がキーンとして、目が暗くなって…、それで頭がツーンと痛くなってね…。

 ぐっと両手に力がかかったのはわかったんだけれど…。

 まあ、そのあと、すぐに終わって、助かったのかもね」


「確かに、サッちゃんの刀に、リュウさん、手をかけていますね」

 と、美枝ちゃん、光る直前の画像、そこでストップさせたのを見ながら。


「この時、刀、止まったデス」

 と、サッちゃん、美枝ちゃんに。


「止まったの」

 と、美枝ちゃん、驚いて聞き返す。


「うん、リュウ兄が押してくれたので、動き出し…」

 ここで、サッちゃん、さゆりさんを見る。


 さゆりさん、ニコッと笑って、

「動き出し、ま、し、た。

 でも、ここのみんなと話す時は、丁寧な話し方、止めてもいいのよ」


 サッちゃん、一瞬、目を大きくして、大きなため息を履く。

 みんなに、やさしい笑いが湧いた。


 でも、おれにとっては、隠れた活躍に結びつく、すごくいいところだったのに、この話、これで終わってしまった。


 いくつかの質問が出て、おれも、できる限り丁寧に答えた。

 みんなが、あの時の、おれの動きを納得してくれた。


 みんなが、納得したその直後、美枝ちゃん、浪江君に、もう一度、映像を再生してもらってから、

「でも、この映像を見るだけだと…、やっぱりリュウさん、砂場への無謀な飛び込みですよね…、両手を広げて、飛行機みたいにして…、ククククク…」

 だってさ。


 さゆりさんばかりか、あやかさんまで、なんだか、笑っている感じだった。

 チッ、やっぱり、昼にはビールを飲むぞ。



 映像を使ってのおれの説明会が終わった。

 今、11時半近く。

 でも、昼までには、まだ1時間ほどある。

 吉野さん、下準備はできているけれど、続きは今から始めるので…。


 さゆりさんや美枝ちゃん、サッちゃんまでもが、台所に、手伝いに入る。

 でも、あやかさんは、おれと、2階の部屋に戻ることになった。

 あやかさん、どうも、半年飛んだと言うことで、妙な気分が抜けないんだとか…。


「サッちゃんは、200年以上なのにね…」

 と、あやかさんは言うんだけれど、逆に、それだけ飛んで、周りが、全くの別世界の方が、緊張が高まり、あやかさんの言う『妙な気分』になっている余裕がなかったのかもしれない。


 おれが、そんな話をすると、

「なるほどね…。

 そう言うのもあるのかもしれないけれど…」

 と、ふと、なにかに気付いたように、窓辺に行き、レースのカーテンを開けて、外を見る。


「これ…、季節のせいかもしれないよ。

 緑の、一番いい季節から、いきなりこの景色だもんね…。

 あ~あ…、初夏から、夏になっていく、わたしの一番好きな季節…。

 飛んじゃったんだもんな…」

 あやかさん、ちょっと悲しそうになった。


 でも、確かに、あの時から、ひとっ飛びでこの季節に来てしまったんでは、ちょっと、気分が冴えないの、わかる気がするな…。


 もう、いい加減にしてくれよ、という、夏から秋にかけての、あのしつこい暑さをすごさなければ、この、秋の終わりの景色は、寂しすぎるからね。



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 ウィンドウズのアップデイトのあと、キーワードを入れると画面が真っ暗になって、おしまい、という状態になり、パソコンを買い換えました。ハードディスクに保存し損なっていた部分もあり、ちょっとしたショックでした。

 そんなこともあって、これ、ちょっとペースダウンです。


 そのような状況ですが、今後も、よろしくお願いします。

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