6-11 迷惑、かけたみたい
「サチの刀…、上から押してくれたの、わかったよ…」
サッちゃんが言った。
「えっ、あの止まっていた時間のこと、わかったの?」
おれ、ちょっとした驚き。
「止まっていた?」
「そう、みんなの動きが、止まってしまって…」
「よくわかんない…。
でも、サチの手が動かなくなったとき…、上から押してくれて、刀が動いた…デス」
サッちゃん、時間が止まったのは、認識できなかったようだ。
でも、おれが、上から刀を押したのは、感じてもらえた。
しかも、それが、役に立っていた。
「ああ、そうだったのか…。
サッちゃん、そう感じてくれたんだね…」
なんか、少しでもわかってくれた人がいて、ジワ~ンと、うれしさが広がった。
「その、止まった時間のこと、あとで、ゆっくりと、みんなに話すよ。
サッちゃんも、一緒に聞いてね。
その時、なんか、わからなかったら、聞いてくれれば、何でも答えるから」
「うん、わかった。
あとでだね」
と、言って、サッちゃん、うれしそうに笑った。
メチャかわいい顔で。
あやかさんから離れた吉野さんを、さゆりさんと美枝ちゃんが両側から支えるようにして、門に向かった。
門のところでは、あやかさん、おれを見て、待ってくれている。
おれ、急いで、あやかさんの隣へ。
急速に気分の悪さが抜けていき、このくらいの動きができるようにはなっている。
そして、おれとあやかさんが中に入ると、後ろから、サッちゃんをまん中に挟んで、北斗君と浪江君、3人で何かを話しながら門のところへ。
3人が、門をくぐり、全員…、あやかさんも含めた全員が、無事に帰宅。
長い戦いに感じたけれど、なんと、まだ、10時ちょっと過ぎたところだった。
ホールに入ると、すぐに、浪江君が声をかけてきた。
「今日の映像、見てみますか?
リュウさんの飛び込み、すごかったですよ」
と言って、ニッと笑う。
こいつ…。
おれ、気持ち悪さが薄れ、かなり元気になってきている。
それを見越した浪江君に、なんだか、からかわれているような感じ…。
ひとこと言おうとしたら。
「ええ、すぐに見てみたいわ」
と、おれではなく、横からあやかさんが答える。
「それじゃ、浪江君が準備する間に、コーヒーでも淹れてきますね。
それと、浪江君、今日は、わたしにも見せてくださいね」
と、ホールで、皆が帰るのを待っていた吉野さん、泣いたせいで、目は真っ赤だ。
そんな流れで、コーヒーを淹れるために吉野さんが台所に向かうと、それを手伝うと言うことで、サッちゃんを連れてさゆりさんも台所へ。
すると、美枝ちゃん、
「ホクは、浪江君を手伝ってあげなよ。
わたしは、吉野さんの方を手伝うから」
と言うことで、ロビーに残ったのは、おれとあやかさんの二人。
そして、この時になって、おれ、やっと気が付いた。
美枝ちゃん、おれとあやかさん、二人にしてくれたと言うこと。
どちらともなく、長いソファーに並んで座る。
「六ヶ月なんだってね…」
と、あやかさん。
「うん、そうなんだよ。
それで、おれ、その間、ビール、飲んでいないんだぜ」
なんで、こんな時に、こんな話が出てくるんだろうと、自分でも不思議に思ったほどの話題だ。
「フッ、また、どうして?」
「まあ、あやかさんと一緒じゃないとね…。
なんか、飲む気になんないよ」
「ふ~ん、なんだかな…」
「昼に、飲もうよ」
「うん、それはいいけれど…。
でも…、迷惑、かけたみたいだね」
「迷惑なんてもんじゃないよ、まったく…。
相手の強さ、確かめないで、ちょっと無謀だったんだと、おれ、思うよ。
いきなりスタートだったからね。
でもね…、この間に、おれ、かなり、力、着いたんだぜ」
「そうか…、力が着いた、か…。
でもね、無謀も何も…、なんだか、まだ、実感、湧かないんだよね…。
わたしにとってはね、ここを出たのは、2時間くらい前なんだから…」
「そうか…、2時間前、なのか…」
確かに、そうなんだろうと思う。
おれたちが、今朝、洞窟に出かけるときのことを考えるのと、同じ感覚だ。
「そうなんだよ、2時間前…。
そのときは5月の末でね…。
そして、その2時間後に帰ってきた今は、なんと、11月も下旬…。
それだけでもね…、わたしはわたしで、すごく、変な気持ちなんだよ。
まあ、混乱しているってことなんだろうね」
「そうなんだろうね…。
瞬間的に、半年飛んだんだからね。
あっ、白く光ったのは、わかったって言ってたよね」
「うん、それはね。
妖魔を刺したときだったと思うけれど…。
チカッとね」
「そのチカッが半年だったというわけだね」
「それで、訳がわかんなくなっちゃうんだよね…。
あっ、そうそう、ねえ、あの、サッちゃんて子のこと、もう少し教えてよ。
江戸時代から来たんだってね?」
あやかさん、サッちゃんに興味があるようだ。
同じ様な体験をしているからだろう。
それに、あやかさんにとって、出たときと帰ってきたときで、大きく変わったことは、サッちゃんの存在なんだろうからな。
「ああ、サッちゃんはね…」
と、おれ、あやかさんが消えたあと、あの洞窟にサッちゃんが現れたときのことから、かいつまんで、でも、あまり多くは省略しないで話した。
「そうなのか…、文化2年、二百年以上前なのか…。
すごいもんだね…、で、それで?」
「ああ、それで…、うん、ちょっと話は飛ぶけれど、妖魔のヤツについてね。
まず、妖魔と月の満ち欠けとの関係に気が付いてね…」
と、ここで、妖魔の反応について説明し、そして、妖魔を呼ぶのに、何かが足りないと考えるに至ったことを話をした。
続いて、サッちゃんが、『神宿る目』になれることに気が付いたこと、また、サッちゃんが持っていた懐剣が、妖刀『霜降らし』と同じ様な雰囲気を持っていることがわかったことなどを話した。
すると、あやかさん、
「そうか…。
サッちゃん、そんな不思議な懐剣、持っていたんだね…。
それじゃ、お母さんより、サッちゃんに頼むんで良かったんだね…」
と言った。
おれ、最初、意味がわからなかった。
「お母さんに…、頼むって?
お母さんて、玲子さんのこと…だよね」
「うん?そうだよ、玲子お母さん…。
『神宿る目』が必要だったんでしょう?
そんなら、玲子さんに頼めば良かったのかな?とも思ったんだよ…」
「えっ? それって…、どういうこと?」
「えっ? あっ、そうか…、その話、あなたに、まだ、していなかったんだよね…。
お母さん…、玲子さんね、実は、『神宿る目』になることできるんだよ」
「ええっ、そうだったの?
玲子さんも?」
「うん、10年くらい前に、ふとしたことでわかったんだけれどね…。
でも、子どもの時から、それに合わせて、体、鍛えるようなことしていなかったからね、やると、かなりきついらしいんだけれど…。
でも、できることはできるんだよ」
「ふ~ん、そうだったのか…」。
驚きの、新情報であった。
それにしても…、こんなことってあるんだろうか?とも思ってしまう。
そんなら、あんなに、『なにか』はなにかって悩むこと、なかったかも…。
なにかは玲子さん、でも良かったんだから…。
うん?そうでもないのかな?
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