22話 曖昧な努力 杏菜

舘野杏菜たてのあんなは両親に愛されていない。

これはいつからだっけ?


それは私にとっての呪縛であり、救いでもあった。


周りからは馬鹿にされた視線を貰うし、話すらかけてこない。でも、話しかけてこないという事はずっと一人で居られるという事。


容量が悪くて、勉強はしてるけど結果に出ないタイプだった。親に結果を見せても「お前にできるわけがない」と言われた。努力が足りないのだろうか?…


そう思った私は、二週間寝ずに勉強だけをし続けてテストに望んだ。結果は言わずとも最悪だった。結果が出ないことにストレスを感じ、そこに二週間も寝てないで勉強という今まで寝てなかったからか心理面に問題が生じてしまった。


記憶が混乱して、余計に勉強ができなくなってしまった。


結果でないことを知った私は努力をやめた。結果が出ないのに努力する必要はないと。私は既に諦めていた。どんなに頑張っても実らない。実らないんだから成長させる必要はない。

だが、努力はやめたが勉強はやめなかった。


親には「勉強で高得点を取り続けることが子供の使命」と言われてきたから。


そこに私は疑問を持たずにあーそうなんだなと納得して、高得点だけを目指して頑張っていた。だけど、私の妹はそうじゃなかった。


そう。私達は姉妹なのにスペックが違かった。妹は現在、小学生5年生。


父親には「卒業したら勝手にどこかに行け」「勉強できないんじゃどうでもいい」「結果がそれじゃ努力してない証拠だ」なんて言われるだけだった。


高得点を取った時だって「浮かれるな」なんて言われて怒られた。


そしてある日母親に「次のテストで高得点を取れなければ家庭教師を付けるわ」と言われて案の定高得点なんて取れずに家庭教師をつけられた。私の両親は共働きで私が帰ってくる頃まだ家にはいない。


家庭教師の人にはできないと暴力を振るわれた。最近知ったことだけど家庭教師の人は父親の知り合いらしかった。だから、暴力を振るのも理解できた。


妹は塾に行かせていたから家には一人だった。親に暴力を振るわれたことを告げても「教えて貰ってる人にそんなこと言うんじゃない!」と平手打ちを貰う。


暴力には慣れたが痛みにはなれない。強姦されかけた事なんかもあった。それから男性に怖いという恐怖を抱いた。でもこの家庭教師を外す為には勉強できるようになるしかないのだと。


だから、同年代に勉強の助けを頼んだ。なるべく女子に。でも、断られることが続いた。

「めんどくさい」「自分でやって」「自分のがあるから精一杯」「塾行きなよ」等と言われていいよとは言われなかった。


男子にお願いしたら「こっちに見返りがない」「彼女になって」「お金をよこせ」「めんどくさい」「ゲームがあるから無理」なんて言われた。それと同時に私にはこんな知り合いしかいないんだな〜なんて分かって自分が見すぼらしくなった。


それで自力でなんとかするしかないと決めたところで柚和ゆわ君がきた。


最初はなんだろう…って思ったけど私に勉強を教えてくれるという事だった。

全く持って接点がないし、なんで?と疑心暗鬼になりながらも話を聞いていた。


話を聞くと、赤城あかぎ君から話を聞いたらしい。赤城あかぎ君は私と同じクラスだから知っていてもおかしくはないんだけどなんでそれを柚和ゆわに教えるんだろう…。


私が曖昧な返事をすると、「無理ならいいよ」言って去ろうとした。あれ?なんで何も言わないの?と終わった矢先呼び止めていた。多分、柚和ゆわ君だったから呼び止めたんだと今なら思う。


私が、彼に少し濁した言い方でお願いすると普通に了承してくれた。でも。条件を後から突きつけられてやっぱり彼もと思ったけど普通に的外れで対等な関係という条件だった。


敬語は親に強制されていて固まった溶岩みたいで砕くのはそう簡単に行かないのに彼はその敬語をやめてと''お願い''をしてきた。まぁそんなんだったらと思って私はなんとかそれを了解した。


色々と条件に関して言いたいことはあったけど彼はもう体半分が昇降口の方に向いていて二度も引き止めるのは流石にできなかった。


荷物を取ってくると言ってその後に「一緒に帰る?」と聞いてきて少しビクッとしちゃったけど落ち着いて「大丈夫だよ」と言った。家庭教師もあるし…


そう言ったら彼は「ほい」とだけ言って帰ってしまった。


「はぁ、それはそうと赤城あかぎ君はなんで柚和ゆわ君に教えたんだろう…」

一応彼にもお願いしたけどそしたら「教えるほど頭良くないんだよね…ごめんね言われたのを思い出す。


柚和ゆわ君は損得で理由を言ってたけど、私は絶対違うと考えていた。絶対裏がある。明日の昼休みにでも話をかけようと考えながら髪を結んだ。


「家に帰ったら、また…この一週間でどこまでできるかわからないけど絶対に上位圏内に入ってもう家庭教師は必要ないんだって親に証明しなくちゃ」


でも、今日は4時間授業で家庭教師が来る4:30まで時間はまだあるから家でひとりの時間を過ごせると思うと不思議と顔が綻んだ。


「もし柚和ゆわ君と帰ったら、どうなってたんだろう…」


何故か、彼と一緒に帰るところをイメージしてしまった。


鞄を手に持って、リュックを背負って昇降口に向かう。空いている手で靴場から靴を取り出して代わりに上履きを入れる。そして靴に履き替えたらつま先をトントンとやって靴をきちんと履いた。


「重い…」


左手に持つ鞄が重い。少々重い足取りになりつつも駐輪場に着いたら私は驚いた。


柚和ゆわ君、帰ってなかったの?」


そう。もう既に帰っていたと思っていた柚和ゆわ君が自転車の上でメモ帳になにかを書いていた。


何やってるんだろう…私は気になって彼に近づいていった。










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