12話 僕のお見舞い
目を開けたら電車に揺られていた。頰を抓っても痛みはある。やっぱり夢だったんだ。今更ながらに過去の夢を見てた。やっぱりあの子に会いにいくからか…。
でもこれは実際にあったことで…。
未だに重い瞼と思考に入ってきたのは新幹線のボゥウと言った音だった。
ふとして、窓の外を見るとすぐに何処か気づいた。横浜だった。
岐阜→名古屋乗り換えで、名古屋駅でのぞみ号に乗って浜松、静岡、横浜と進んでいる。浜松に入ったあたりにはもう寝てたんだろう。
「なんで、こんな夢見るかな…」
あの子のお母さん。結局亡くなってしまった。心肺停止が原因らしかった。僕達が、病院にお見舞いに行った翌日に起こったこと。一週間後なんて嘘じゃん。
そして、次は秋乃に不幸が来てしまった。
秋乃は僕と同い年だった。そして一年後にとある病にかかった。
ギランバレー症候群。簡単に言うと神経の病気で四肢に力が入らない。疼痛、麻痺知覚異常を催す病気。
而も彼女は、この病気にかかった後に二つの精神病を患った。
一つ目が解離性障害。自分が自分である感覚が失われている状態。
二つ目がパニック障害。突然の吐き気、めまい、動悸。これがパニックに障害。
最近は、減ってきたと聞いたけどそれでも偶にまだ起こるらしい…
だから今も入院してる。4年の夏から入院してるから今で4年半くらい入院してる。
色んな人とカウセリングや、相談、学校の先生や生徒などそれでも秋乃の親とは一度も会わなかった。
やっぱりキツイなぁ…ちょっと考えるのをやめよう。
気晴らしにスマホでメールを入れていた相手から返信が来ていた。
[分かったよ〜♪]
相手は
なんで、返信が来てるかと言うと「今日俺の家に泊まって妹のこと頼める?」と送ったからである。
弓月の家とは少し家が近くてお世話になってるからなんだかんだこういうお願いを聞いてくれる。もし仮にこの繋がりがなくても他の人に頼んでいた気がする。
「ホントに、戻ったら二人に謝らないと」
それから少しして東京駅に着いた。
「ここから、歩きじゃやっぱり遠いかな」
何せ、目的地は新宿。東京大学病院。
東京駅から新宿駅まで約14分かかるから、歩きじゃ遠いね。
そこからまた、東京駅から新宿行きの電車に乗って僕は新宿まで行った。
「着いた〜」
現在、14時ちょっと過ぎくらい。家出たのが9時半過ぎだった気がするから…
その病院は駅から少し離れたとこの歩いていける距離にあるから助かる。
歩くのって疲れるもんね。
電車中の夢。お母さんが亡くなって秋乃は大泣きしていたのを僕は覚えてる。僕はでもなぜかその死を実感できなくてまだ生きてるんだろうなぁなんて思っていた。
結局、悲しいんじゃないか。心ではそう思った。
濃い真っ赤な黒。わかりづらいけどこれが一番わかりやすい表現。矛盾してる。
真っ赤だけど黒のように他の色を受け付けない。濃すぎて何色にも染まらない。
でも秋乃は起きてくれてる。お母さんのようにいつのまにか死んだりもしない。
でも、また別の苦しみが彼女にはあった。
そろから20分くらい歩いてその病院には着いた。
[東京医科大学病院]
そこから自動ドアを通り、受付に「3時から面会の申し込みをしていた者なんですが」と言って受付の方が「あ、承っております。どうぞ」といわれて終わった。
病院によっては面会受付のノートに書いたり、もっと時間がかかったりするけど取りあえず難無くスムーズにいけた。
2階3階と上がって。304号室。それが彼女の個室部屋の番号だった。
トントンと歩くたびになる音がどんどん現実に戻れなくするようで恐怖を感じる。
病室の前に入って、扉をノックする。
「はーい。どうぞ」
音一つ立てず、視線を下に向けたまま扉を開けた。
いざ、こうして入ると開口一番に何を言えばいいのか戸惑ってしまって喋りたいこと、挨拶、する事など全部枯葉が落ちるが如く忘れていく。
「やぁ♪挨拶もしてくれないなんて酷い人…」
「あ、うん。ごめん。久しぶり。元気に生きてる?」
「うんうん!元気ですよ♪柚和が来てくれてもっと元気〜♪」
今更だけど僕は本当は来たくなかった。精神障害者は周りとの関係が原因でもあるからできるだけひとりの空間でコミュニティやカウセリング、治療に徹するのが一番最適なんだ。だから僕がこうして来るだけで彼女に何か異常が出たりしないか、いつも、いつもいつも怖くて新幹線に乗るまえから怖くなる。
「ふぅん…何も言ってくれないんだ〜…」
「今の秋乃はさ、本当の秋乃なの?」
「………うふふどう見える?」
「どう見えるって可愛く見える以外に答えられない」
「ぇ、カワイイって言ってくれた♡」
え?なんて言ったの?いや女子に可愛いとか何言ってるの?キモと言われたことしかないから罵倒を期待してたけど小声で言ってたからなんて言ったのか分からん!
「それと。私は私。解離性障害なんて言っても私は多重人格じゃない。これは本当の事。でも私は自分が誰だか…よくわからないの」
「どうしてそんな病気なんかにかかったんだろうね…」
「さぁとしか言えない。だってさそんな事が分かってたらもう退院してるからさ」
ニコッと笑う彼女は元気そうだった。黒色にハイライトが人一倍入ってるんじゃないかと思うほど綺麗で、鎖骨あたりまで伸びている髪は入院中でもしっかり手入れをしているのか傷んでなかった。
切ったスイカよりも大きく笑えそうな口は以外と小さくて秋乃は事細かに、色々な笑い方を知ってるんだぞ!と言いたげにケラケラと笑っていた。
着用している服は浴衣で患者衣じゃないのか、その下着が少し…チラチラと。
白いカーディガンを上から羽織っているけどアウターだから結局は下着が…
間近に見られなくなった彼女を遠目に見つめ究極に可愛いというほどでもないけどブスでもない。普通の中にいる普通の可愛い女の子なんだなぁ〜。何思ってんだ。
「?どしたの?体調でも悪い?一緒に入院する?柚和が入院するなら私同じ部屋にしてもらうようお願いする。えへへ♪さっきから少し変だから心配…2年生になって何かいやなことでもあった?」
本当に心配してる証に泣いていた。
「お見舞いに来た僕が心配されるって普通逆だろ(笑)何泣いてるんだよ。そんな泣いてると入院、長引くよ」
泣いてる彼女を見て少しでもうまい言葉を口から吐き出す。
今すぐにでも嗚咽したい。泣きたい。逃げてしまいたい。
だって、彼女は…
「柚和がいなくなるのはいやだよ!お願い、私のせいで苦しむなら来なくていいから柚和は幸せになって。うっ、ケホっケホ!ゲホッゲホッ!柚和〜…行かないで!行かないでよ…お願いだから、ゲホッゲホッ、はぁはぁはぁはぁ」
「秋乃!大丈夫僕は幸せじゃないけど今は幸せだから、君を置いていくなんて免罪符は存在しない。いつも言ってるじゃん?だから落ち着いて…深呼吸して」
そう。これが秋乃の精神が不安な証拠。
「すぅ、はぁ」
「鼻から息を吸って〜口から吐いて〜」
「おし!よくできた(笑)」
「えへへ、流石に子供扱いし過ぎ。ロリコン対象に私も入っちゃったの?」
「生憎だけど、充分秋乃はロリだって140cmくらいじゃなかったけ?」
だって、コイツ身長144cmだった気がする。いやそうだ。
「もっとあるよ!154cm!柚和ひどーい♪あ、でも別にいいかも」
「いや、ダメでしょ」
治っ《おさまっ》た。パニック障害。これだけでも入院を要する病気。
急激な不安から、吐き気、めまい、息切れ、発作。それらを引き起こす病気。
てんかん。神経症の精神障害で、精神障害者だけど障害者年金はもらっていない。
満20歳以上になるのと、初診日が秋乃以外誰も知らないという点だった。
入院費は、まだ中学生だから無料で済むけど、高校になったら国からの加護もなくなる。秋乃の父親は4年の時に亡くなってしまった。だからお見舞いに頻繁に来るのは僕くらいだった。
「よし!私今日からロリ〜。うん。ロリだね。柚和!ここにロリがいるよ。襲わないと損しちゃうよ!極上無料物件だよ!」
「合法ロリ乙」
「柚和は今日は何時に帰るの?ていうか普通の土日なのに来てくれてごめんね」
来てくれてごめんね…。普通はありがとうだと思うんだけど…何か気にしてる?
「何か気にしてる?」
「え?」
「いや、だからさ。秋乃に会いたくて来てるから別に嫌々じゃないよ」
「ホントに?」
「誠実な人間は嘘を吐かない」
「そっか〜♪」
「まぁでも、今日はこの辺で帰るよ」
そう言った途端に、秋乃の顔が強張った気がした。でも何故か濡れた粘着テープで頑張って貼り付けたみたいな笑顔で流されてしまった。
「うん。そうだね。来てくれるだけでも嬉しい、からさ。まだ来てくれると嬉しいな。そしたら世界で一番大好きになるかも?」
「はいはい。ジョーダン・マイケル」
「そのネタ何〜?うふふ」
うふふ、じゃなくて、クスクスという笑い方の方が表現としてあってるかも…
「んじゃ、またね」
「う、ん。またね」
最後まで濡れた粘着テープで張り付いた笑顔は取れなかった。
病室を出たらある看護師さんと出会った。
「もうお帰り?秋乃ちゃんと話せた?」
「はい。でも僕なんかがずっと近くにいて症状を悪化させても悪いだけなので僕はそろそろ帰ろうかと思います。」
「…柚和くん」
「え?今自分の名前…」
「秋乃ちゃんから散々おはなし受けてるからね、ずっと柚和くんの事。…よし!。柚和くん。今日の巡回私なんだよね」
「はい。それがどうしたんですか?」
「口裏合わせて見ないふりするから泊まっていって貰えないかしら?…」
「………な、なんでですか?」
意味がわからない。一端の看護師さんがそんな事…失礼か…。
でも、なんで…
「秋乃ちゃんの部屋に一回戻ってあげて」
「はい。それぐらいなら」
そう言って、扉に近づいた途端、聴こえてしまったんだ。僕は。
秋乃がしゃくり上げながら泣いている事に。
「ずっと、いつも柚和くんが帰った後はこうなの…。来るって伝えると嬉しそうにするんだけど帰ったらいつも泣いてるの。私情を挟んでしまうようだけど秋乃ちゃんが泣かない日を作ってあげたいの。あの子はあの歳までに色んな辛い事を経験してきているから。ごめんなさいね」
なんでなんだろう…。僕なんかがいると君の病気を余計に悪化かせてしまうと僕はいつも思っている。パニック障害は周りとの評価、コミュニティによる自身喪失や何気ない一言。それが君の病気を余計に悪くするというのに…
なんで君はさ、そうやって泣いてるんだよ。
でも、僕は。それでも再び部屋に入る事は出来なかった。
これ以上、病気を長引かさせて君の人生が華やかにならなくることは嫌だった。
「すみません。それでもやっぱり悪いです。これから自分こないようにします」
その一言が、僕の何かを徹底的に否定した瞬間だった。
泣いている女の子がいる現実から目を背けて逃げる僕は臆病者でクソ野郎だ。
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