第393幕 炎の不死鳥

 フレアフェニクスの攻撃はグレリアになんなく躱されるけど……俺が魔方陣を構築する時間は十分にあった。

 出現するのは、雷の虎と氷の狼。二種類の獣が俺の背後から姿を現した。


「その魔方陣は……」


 グレリアが驚くような顔で俺を見ているけれど、それも無理もないことだろう。俺だってこの十日で魔方陣を試してみて初めて気付いたことだ。多分、ロンギルスが死んだ事で俺が持っていた原初の起動式オリジンコードが元に戻ったのだろう。今、俺には『生命』と『英』が扱える。この力が……グレリアを倒す!


「セイル、強くなったな」

「当たり前だ。これも、全て……あんたを超える為だ!」


 グレリアに襲い掛かるのは三体の獣。雷の虎の体当たりを回避して、氷の狼の牙を防ぐ。だけれど――


『クワアアアアア!』


 大きく吠えながら、魔方陣を発動させていた。炎の息吹ブレスがグレリアと襲い掛かる。

 流石に三体の猛攻を立て続けに受けたグレリアは、『神』『防』の魔方陣を発動させて防いでくるけれど、それを『英』『魔』『断』を再びグラムレーヴァに纏わせて、それを破壊する。


「ちっ、これでは――!」


 舌打ちをして嫌そうに攻撃をいなしてくるグレリアだけど……彼は攻めに転じてこない。


「どうしたグレリア。攻めてこないのか?」


 防御一辺倒の彼の隙を崩す為に敢えて挑発してみた。


「ははっ、それで誘いに乗ると思っているのか? 本当なら乗るつもりはないが……良いだろう。望み通りに……行くぞ!」


 グレリアは『神』『速』の魔方陣を発動させてきた。あの魔方陣は……不味い! 俺も対抗するように『英』『身体』の魔方陣を発動して――


「遅いな」


 いつのまにか右横から声がする。背中に冷や汗が流れる。あの一瞬で俺との距離をここまで詰めてくるなんて……。


「なら、速度を上げるだけだ!」


 魔方陣の発動はもう済んでる! 鋭いグレリアの一撃をギリギリ防ぐ事が出来た。重い一撃に思わず体勢を崩しかけるけど、足に踏ん張りを入れて辛うじて留まる。


「これも防ぐか……ならば!」


 グレリアは後ろに下がったと同時に『炎』『神』『剣』の魔方陣を発動させていた。彼の最も得意とするそれは、空で白い炎の剣を象って、かなりの速さで降ってきた。


「くっ……!」


『英』『防』の魔方陣を発動をグラムレーヴァに纏わせて、それを迎え撃つ。普通の剣と同じようなサイズに凝縮された魔力が、防いだと同時に一気に溢れ出て、圧倒的な業火の波が俺を飲み込んで、肌を焦がす。

 このままじゃ不味いと判断した俺は、すぐさま『生命』の原初の起動式オリジンコードを用いた魔方陣を発動させて、身体が焼ける度に無理やり傷を癒していく。


 ……これが、この魔方陣を直接受けた痛み、か。正直、俺じゃなかったら間違いなく気を失っていただろうな。全身を激痛に苛まれ、火傷が癒える度に火傷が作られていく恐ろしい感覚を直に肌で感じる。

 白い炎が止んだ時、グレリアはもう俺が死んでいると……消し炭になっていたと思っていたんだろう。だけど――


「どうした? 兄貴。随分涼しい炎じゃないか」


 ニヤリ、と嘲るように笑ってやる。おまけにあえて『兄貴』と呼んで、だ。実際はかなりギリギリなんだけどな。


「……余裕じゃないか。セイル!」


 今度は多少効いたのか、グレリアは少しの怒りを滲ませ、剣を振るってきた。だけど……それは俺が付ける隙になる!


「三匹とも、頼む!」


 フレアフェニクス、雷の虎、氷の狼。それぞれが一斉に魔方陣を構築する。


「邪魔だ! どけぇっ!」


『雷』『散』の魔方陣を瞬時に構築して、俺の生み出した三匹の獣に向けて発動される。それと同時に放たれた三つの魔方陣がぶつかり合って、バチバチとぶつかり合っていく。


「グレリアァァァァッッ!!」


 全身に魔方陣を発動させていく。ロンギルスの時に使ったものよりも遥かに重ねたもの。全身の能力を際限なく引き上げる魔方陣……!


「なにっ……!?」


 グレリアにも、今俺が何をしているのか理解できたのだろう。『英』を中心にして『身体』『力』『速』を魔方陣を限界まで――いや、限界すら超えて。


「く……はっ……」

「セイル……! お前、何をしているのかわかっているのか? そんなことをすればお前は――」

「わかっているさ!!!」


 体中にため込んでいる空気を外に逃がすように大きな声で叫ぶ。三匹の獣に回す魔力が少しずつ少なくなっていって……それら全てを己を磨く魔方陣に変える。もうすぐ消える……魔方陣で作られた獣たちでもそれはわかっているのだろう。一瞬、俺の事を見た獣たちは……何も言わずにグレリアへと突進していく。


 ――ありがとう。


 口には出さなかった。それに応える獣たちには……ただ、感謝の念を。そして……準備は整った。


「……最善最速最大の一撃。今、ここに!」


 世界の全てが緩やかに感じる。儚げに散っていく獣たちをすり抜けて向かってくるのは、俺が倒さなければならない強敵。越えなければならない相手。

 緩やかに進みゆく景色の中、同じ速度で進んでくるグレリアに向かって、俺は確かにグラムレーヴァを振り下ろした――

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