第365幕 帝都の一戦

 激しい戦いの中、俺は一人、剣を携えて戦いに行く。スパルナとはそれぞれ別の道を行くことにした。俺やあいつが固まって戦うより、分散して少しでも広い範囲をカバーするのが目的だ。


「馬鹿が! この戦いの中、わざわざ剣で来やがって!」


 数人の兵士がまとまって俺に銃口を向けて吠えてるけれど、たかだか銃の数丁如きで――


「俺を止められると思うなぁぁぁっっ!!」


『雷』『弾』の二文字で魔方陣を構築して、兵士の数だけ撃ちだす。銃弾でそれが掻き消されている間に、奴らの懐に入り込んでグラムレーヴァを一閃。一つの剣筋が兵士を仕留めると共に立て続けに攻撃を加え続け、敵を一蹴してしまう。


「次ぃぃっ!」


 出来る限り雄叫びのような声を上げ、更に気合を入れて駆け抜けていく。己を鼓舞して、次々と斬り続けていく。絶えず魔方陣を展開して、絶えず動き回る。


「こ、こいつ……!」

「雑魚は放っておけ! こいつを……こいつを殺せっ!」


 怒号のように響く声を駆け回るように動き続け、一人、また一人と敵を切り伏せ……とうとう兵士が俺を包囲し、一斉射撃を浴びせようとして――


「させないよっ!」


 上空から突如声が響き渡って風が吹き荒ぶと、俺を囲んでいた兵士たちは皆吹き飛んでしまった。


「スパルナ! 助かった!」

「ううん、お兄ちゃんも無理しないでね!」


 気づいたらスパルナが大きな翼を広げて俺の事を援護してくれた。周囲から「おぉ……」とか「これが……」とか漏れているのが聞こえるけど、スパルナが赤い巨大な鳥に変身する事はこちらの兵士なら全員知っている……が、見たことのない奴だったら、やっぱり驚くんだろうな。


 そのままスパルナは空高く飛び上がってシアロル軍の空を舞う攻撃機の相手をし始めていた。こうしてみると、激しく舞い飛ぶ赤い鳥と無機質な鋼鉄の鳥が応戦するその姿は、かなり派手だと言えるな。見栄えがするっていうか……まるで神話の一ページのような戦いだ。


「俺も……負けてらんないな……!」


 グラムレーヴァを持つ手を強く握り締めると、不思議と笑みが零れていく。スパルナが頑張っているんだしな。

 走り出した俺は帝都クワドリスの城門が動き出すのが見えた。


「あ、あれは……!」

「ゴーレムだ! ゴーレムが出てきたぞ!!」


 後ろの方で兵士たちが叫んでいるのが聞こえた。開かれた城門の中から、グランセストの兵士たちの恐怖の象徴とも言えるゴーレムが現れてきた。途端に兵士たちの士気が急速に低下していくのがわかる。それもそうだ。今までは兄貴がなんとかしてくれていた。もちろん、俺も戦いに参加してはいたけど、彼らの目は兄貴の方に向いていた。だからこそ、心の拠り所を失ったままこの強大な存在と戦うことに恐怖を覚えてしまっても仕方がない。だけど――


「だからこそ、俺がなんとかしなきゃだろ……!」


 気づいたら魔方陣を構築していた。それは『生命』を失った俺に新しく宿った力。兄貴から譲り受けたグラムレーヴァが教えてくれた文字。『英』『身体』の起動式マジックコードを構築して、発動させる。


 その瞬間、俺の身体の中に力が満ちていくのを感じる。『身体強化』を何度も重ねた時よりも強く、激しい熱を感じる。あの時のような高まりじゃなくて、全身が包み込まれるような……そんな感覚だ。


「行ける……! これなら!」


 全力で走る。それだけで一気に城門付近まで走り抜けていく。身体が以上に軽い。何度使っても慣れないが、気持ちが高揚して抑えきれない。音よりも……いや、光よりも速くなった気分だ。いや、流石にそれは言い過ぎかもしれないけどな。


「ゴーレム……その身体、この俺が切り裂く!」


 さっき使った魔方陣で俺の身体能力はかなり向上している。だけど……それだけじゃあのゴーレムの装甲をなんとかすることは難しいだろう。もっと強く鋭い刃。その為には……!


 素早く魔方陣を構築し、発動させる。『英』『刃』の起動式マジックコード。これをグラムレーヴァに纏わせてゴーレムを一閃する。


 今まで以上の速さに振り回されないよう意識をしっかりと敵と自らの身体に向け、放った一撃は、ゴーレムの硬いその胴をいとも容易く裂く程の威力だった。


「いけるっ――!」


 ゴーレムを斬り落としたそれに、確かな手応えを感じる。これなら……倒せる。

 すぐさま俺は『拡声』の魔方陣を展開してその事を広めた。


『グランセストの兵士たちよ! 臆するな! 俺がゴーレムを倒す! 一体たりともお前たちの元に通すことはしない! これが……その証明だぁぁぁぁぁっっ!!』


 半ば怒鳴るように叫びながら、次々と魔物じみた動きをしてくるゴーレムを次々と切り倒していく。詰め寄って殴りかかろうとしてきた奴の腕を斬り、そのまま首を刎ねる。その様子が伝わったのか、こちらの兵士は徐々に死にかけていた闘志を燃やしていく。


 それとは相反するように士気が下がりそうになった時……本命とも呼べそうな者が現れた。それは俺も良く知っている顔。そして……出来れば今会いたくなかった。


 だけどこうして出会ったなら、俺も覚悟を決めないといけない。兄貴には悪いが……ここで戦うなら、決着を着けさせてもらうぞ。ヘルガ……!

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