第307幕 神の風吹く場所
再び開始された銃撃の嵐が放たれる。その全てに晒されながら、俺はどこか緩やかにそれを見ていた。
最小限の動きでかわし、当たりそうな弾は拳に纏わせた魔方陣で弾き返していく。
一歩、また一歩……ゆっくりと進む俺は、後ろから狙われる銃撃を回避し、一から魔方陣を展開していく。流石に初めて作る魔方陣は時間がかかるが、今はそれでもいい。『神』『風』の二文字の
嵐のような猛風が吹き荒れ、奴らが放つ銃撃の全てがあらぬところに逸れて、兵士たちもそれに巻き込まれるように吹き飛んでいく。次に自らの身体が加速していくのを感じ、その直後に視界が一変する。まるで全てが緩やか――スローに流れていっているような感じがするほどだ。変な方向に飛んでいった銃弾さえ、妙に遅い。その中で俺は、一人だけで普通に動けていた。今までついていけいけず、まっすぐにしか進めなかったのが嘘みたいなほど、身体が言うことを聞く。
敵がゆっくりと何かを言っているが、今の俺には何もわからない。何も考えずに敵兵の一人をぶん殴った辺りで『神』『速』の魔方陣の効果が切れ、冷静にもう一度掛け直す。吹き荒れる暴風の中、ただひたすらその風を超えるような速さで駆け抜け、ぶちのめす。単純な作業をこなすような攻撃を、何も思わずに実行するだけの物になったような気分だ。観客席から時折放たれる銃撃を、俺は視線の横に収めながらこっちを狙ってくる敵を見つける。どうやら狙撃手は今、俺から見て左後方の上部にいるようだった。『雷』『麻痺』の魔方陣をすぐさま構築し、狙撃手がいるであろう方向を見ずに手だけかざして発動させる。電撃が観客席の方に向かって行くのだけを確認しただけで、改めて今戦わなければならない方へと意識を移す。
やがて止んだ暴風の中心に佇むように立っていた俺は、その光景を無感情のまま見つめていた。辺りに広がるのはボロボロの闘技場に周辺に残骸のように散らばった敵兵の数々。出るタイミングを逃したのか、奥で呆然と立っている兵士どもが恐ろしいものを見るような目でこちらを見ていた。
「どうした? もう戦うことも出来ないか?」
俺の言葉に兵士たちは隣にいる者を見て、早く行けと催促しだす始末だ。
「どうした! あれだけの卑怯を積み重ねてきて、もう終わりか!」
「ふ、ふふふ、ざけるなぁ! あんな攻撃してきて……卑怯も何もないだろうがぁ!」
「そ、そうだそうだ! あんな防御あり得るか! っざけんなぁ!」
俺の言葉に怯えを混じえた声で次々と批判が上がった。それを怒りを帯びた視線で一喝し、戦おうともしない兵士たちを黙らせる。
「一人に対しそれだけの人数で攻撃してきておいてよく吠える! あまつさえ姿を隠し、観客席から狙撃をしてくるなど、愚劣の極みだ!」
敢えて『拡声』の魔方陣で会場中に響き渡る声を張り上げた。兵士たちの方も何も言えず、黙りこくってしまって、闘技場はその静まり返った空間でただ一人だけ、姿を現した。
彼――吉田は、他の兵士たちが固唾を飲んで見守る中、ゆっくりと剣を抜き、俺に突きつける。
「グレリア……この戦いで決着を付ける。貴様と俺、一対一の戦争だ。他の誰にも邪魔はさせん。貴様らもそれでいいな!?」
吉田の怒声に兵士たちは黙って頷き、中には自らの武器を投げ捨てる者もいた。同意を求めるように観客席にいるジパーニグの上層部を見上げた吉田は、彼らの方も頷いて肯定を現したのに満足気味な様子だった。
「随分待たせるじゃないか。重役ともなると、中々腰を上げられないか?」
「当たり前だ。兵士たちを指揮する立場にいる以上、俺は気軽に戦場を駆けずり回るわけにはいかない。まさか、負傷が多すぎて戦えないとでも言うのか? それならば、仕方ないな。また日を改めて――」
「冗談にしては笑えないな。この程度で戦えないだと? そこの兵士どもとは身体の出来が違う。たかだか右肩を撃ち抜かれたくらい、なんともない」
実際は相当痛みがあるのだが、ここは強がって見せた。向こうにも色々事情があるように、俺にだって譲れない事がある。
あれだけ暴れてたった一人に臆するなど、絶対にあってはならない。それに今そんな事すれば、ジパーニグの連中に何を言われるかわかったものじゃないからな。
「いい度胸だ。それでこそグレリア、だな」
「ははっ、お前にそんな事言われるなんて、思いもしなかった。あの時の俺とお前の関係なら、尚更な」
「今は感謝してるさ。あの時、自らの体たらくのせいで父の涙を見た。その時目が覚めた。俺がここにいるのはある意味貴様のおかげだ。だからこそ、加減はしない」
「寝てるなら起きた方が良い。殺さないように加減してやるから……かかって来い」
吉田は浄化陣を発動させ、身体を強化しながら俺に斬り掛かってくる。同じように魔方陣で強化して対応する。
『防御』の魔方陣を拳に纏わせながら吉田の剣を弾いて……最後の戦いが始まった。長年の因縁を清算するために。
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