第266幕 空から現れたもの
司はなんとか俺から逃れようと後退りながら睨みつけている。その目はまだ何か策を持っているかのように見える。
「まさか、はぁ、はぁ……俺が追い詰められるとはな」
「お前がべらべらと喋ってくれたおかげだ」
痛いのか、顔を歪めながら睨みつけて来るその目を嘲りながら最後の一撃を見舞う為、剣を振り上げ――
「はっ! 何か忘れてねぇか?」
「命乞いならしても無駄だぞ」
「馬鹿が。俺が死んだら、またここを爆撃されるんだぞ? それでもいいのかよ!?」
――僅かな時間、その意味を今一度よく考え……そのまま何も言わずに司の左胸に深々と剣を突き刺した。
「あ、が? グ、レリ、ア……きさ、ま……」
ほんの少しの間、驚愕に染まり、すぐさま怒りの視線が俺を射殺そうするかのように突き刺さる。そんなものを気にすることもなく、『鋭』の魔方陣を剣に展開させて、半ば乱暴に司の首を狩った。なんの抵抗もなく、すんなりと斬れたソレは、無造作に転がる。そのまま無感情に『神』『炎』の魔方陣を展開してこれ以上、この男を野放しにしておくのは得策ではない。あまり見苦しいものを見たくなかったから骨すら残さず焼き払ってしまった。
「……どっちにしろ爆撃するんだろう。今更そういう問答をするつもりはない」
この男の考えてることくらいわかっているつもりだ。自分が助かりたいとか、そういう気で言ったんじゃない。どうせ死ぬなら、俺も道連れにしてやろうという魂胆だったのだろう。
わざわざ乗っかる必要なんてない。俺は司が完全にこの世から消え去ったのを確認した後、カッシェのところに駆け寄る。
「グ、レファ……あいつ、は……?」
「死んだ。お前のおかげだ」
カッシェが俺の後押しをしてくれたから迅速な行動を取ることが出来た。あれがなかったらもう少し司を始末する時間が必要だっただろう。
もしかしたらカッシェを失うことになっていたかもしれない。そう考えたら彼の勇気がこの結果を導き出したと言えるだろう。
「はっ……はは。よく、やった……」
「カッシェ、あまり喋るな。命に別状はないとしても、お前のその怪我は決して軽いものじゃない」
「ふっ……いや、もうダメ、だ。空からアレが、降って……きたら――」
「大丈夫だ。俺がなんとかしてやる。お前をここで死なせたりはしない」
この勇気ある青年を、俺は心底救いたいと思った。勇者なんて着飾った言葉で誤魔化された司なんかよりもずっと……彼は必要な男だ。だから力強く俺はカッシェに言い聞かせた。お前は安心していろ、と。
「ははっ、お前……いい、男、だよなぁ。ほんっと……」
安らかに微笑んだカッシェは、そのままゆっくりと意識を手放した。流石にこのままにしている訳にはいかないから、軽く血を止めてからどこかの家まで連れて行った。鎧を脱がせるのに多少手間取ったが、どうにかベッドに寝かせてやった。どうせ誰もいないんだし、なにか言われたら後で謝ればいい。
――
あらかたやることが終わり、俺の方も少し休息を取っていると……空の方で変な音が聞こえてきた気がして見上げてみると、なにかが上空を飛んでいるようだった。鳥のような、違うような……太陽のせいで黒い何かにしか見えなかった。
「……あれが爆撃ってやつをしてくるのか……?」
本当にそうなのかはわからない……が、あの黒い箱も変な音がしていた。遠くを飛んでいるから辛うじて聞こえる程度だが、ここで聞き間違いだと思わないほうが良い。大方、司が帰らないから襲撃してきたんだろう。
仮に間違いだったらそれも仕方ない。今は障害を排除するほうが先決だ。そう判断した俺は、すぐさま魔方陣を展開する。『神』『焔』では撃ち落とすのが難しそうだから、『神』『雷』の方を選んだ。
広範囲を一斉に攻撃すべく、大掛かりな魔方陣を作っていると……空の方が騒がしくなってきた。
「なんだ……?」
遠くの出来事だからあまり鮮明には見えないのだが、どうやら変な鳥と戦っている鳥がいるようだった。
あの変なのよりは小さいが、光によって黒く見えるその姿がそれを鳥だと教えてくれていた。
魔方陣を使っているのか、炎や氷が飛んでいるようにも見える。どうやら誰かが救援に来てくれたようだったが……俺の知ってるところでは空を飛ぶようなのはいなかったはずだ。
いくつもの変な鳥を相手にたった一匹で互角以上に渡り合っている。魔方陣を展開しながら、その行末を見届けていると……二匹くらい撃ち落とされた辺りで変な鳥の方は引き返していってしまった。
戦いが終わった後、しばらくこっちの様子を伺うように回っていたが、ゆっくりとこちらに向かって降下してきた。
徐々に姿が顕になっていって……それは大きな赤い鳥の姿をしていた。
「兄貴ー!」
「……ん?」
その呼び方には聞き覚えがある……が、鳥に兄貴と呼ばれるとは思わなかった。なんで鳥が俺の事を知ってるんだ? とよくよく見ていると、鳥に誰か乗っているように見えた。
あれは……もしかしてセイルか? なんであいつがこんなところにいるんだろうか。
ぶんぶんと片手を振って喜んでいる彼の姿がなんだか微笑ましくて、俺の方も苦笑いを浮かべながら手を振り返してやった。
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