第256幕 説明するイギランスの勇者
「……こほん。よく戻ってきたな、アルディよ。そして……勇者ヘンリーとお供の者たちよ。私がこの国を治めておる女王、ミルティナだ」
「えー……僕、こんなののお供じゃないよ」
「こら、そういうことは思ってても言ったら駄目だろう? 傷つく相手のことをきちんと考えないと」
「……そういう貴方も少しは私のことを考えてください。余計に傷つきますから」
女王が俺とスパルナをヘンリーのお供としてひとくくりにしてしまったので、少しふてくされるように頬を膨らませたスパルナを嗜めるように注意したんだけど……どうやら俺もヘンリーの心を深く傷つけてしまったようだ。
「……お主らは一体何をしに来たのだ?」
再び呆れた顔をしているけど、そんなの俺が聞きたい。
「ミルティナ女王陛下。私の報告はお耳に入れているとは思いますが……」
「ああ。にわかには信じがたいが……お主が私に嘘を言うことはあり得ないからな。して、そこの二人がその『戦車』とやらと戦い、勇者が情報を提供してくれた……と」
「はい」
腕を組んで考え込むように疑心の眼差しを俺たちに向けてくるけど、それも仕方ないだろう。
誰でも自分の目で確かめてみなければその存在を疑うだろう。それだけ、今回戦った戦車は現実離れした存在だという事だ。
「……良かろう。もう少し詳しい話を聞かせてもらおうではないか。それによって信じるか信じるか判断しよう」
「ありがとうございます。それではまず私から……」
なんとか話を正常な方向に戻す事にした女王は、ヘンリーから魔力を吸収するゴーレムと、その後現れた戦車の話をした。女王は決して疑うことなく、その全てを真剣に聞いていた。大臣の方に目配せをしているようだった。
そのまま、俺たちも見聞きした事。戦車の巻き起こした悲惨な状況の全てを話すと、顎に手を当てて考えてる様子で、頷いていた。
――
「なるほど。大体の事情はわかった」
俺たちの長い話を聞き終えた女王は、どうしたもんだと悩むような仕草を取っていた。それもそうだ。ヘンリーは戦車以外の武器――いや、兵器についても少し話をしてくれた。
空を飛ぶ戦闘機。輸送を目的とした装甲車。銃器の種類や投擲武器など……様々な事をだ。あまりに長い為、一度話を区切って、じっくりと話せる部屋へと移動する事になった。
最初からそうすれば良かったのだけど、向こうも軽く詳細を聞く程度を想像していたそうで、ここまで長くなるとは思っていなかったらしい。
ヘンリーは長い話を終えると、出されていたお茶を優雅に口に運んでいた。俺たちもロンギルス皇帝と食事したりあまり他人の事は言えないけど、よくも、そう堂々としていられるものだ。
「そこの勇者の話が本当ならば、これから先、更に多くの兵器が出てくるかもしれませんね……」
大臣の男が考え込むようにぽつりと言っていたけど、確かにその通りだ。ゴーレム、戦車ときて他の兵器が無いとは言い切れない。まだ何かあってもおかしくはない。
「……今考えるべきはそんな遠くの未来の話ではない。もっと近く。起こりうるであろう未来のことであろう」
何か心当たりがあるのか、女王の顔は苦渋に満ちていた。まるでこの先の展開が予想出来ているかのような表情に、俺たちは疑問を隠せなかった。
「……と、申しますと?」
「人と魔人――ヒュルマとアンヒュルの戦争を裏で操っている者がおる。……この言葉を聞いてそのような表情を浮かべるということは、お主たちも多かれ少なかれ関わりを持っておるのだろう?」
ヘンリーはともかく、なんでこの女王様がその事を……と驚いたのが顔に出ていたんだろう。俺とスパルナを交互に見て、にやりと不敵な……いや、どこか憂鬱そうな笑みを浮かべていた。
「それは……その通りですけど、それと何か関係があるのですか?」
「大いにある。実はイギランス方面だけでなく、シアロルの方面からも同じゴーレムが現れたという報告を受けておるのだ。そしてその後に戦車。……ということは?」
そこまで言われても俺は女王の言いたいことがイマイチよくわからなかった。
シアロルにも同じゴーレムがあるのは珍しくないだろう。ロンギルス皇帝は争いは自分たちで管理していると言っていた。ということは人――ヒュルマの国には皇帝の息がかかっていることは間違いなくて――
「シアロルも…….いや、もしかしたらアリッカルやジパーニグにも、同じ兵器が存在するかも……?」
「そういうことだ」
思わず歯噛みして顔を背けてしまう。俺はやっぱり目の前の『起こってる』事にしか対処できないんだと悟ったからだ。
ロンギルス皇帝の事や、地下都市のスラヴァグラードを見ていた俺なら、少し考えればわかることだった。
グランセストの周りを囲うように存在している五つの国。その全てに同じ技術や兵器があって、共有されてるって事を。
他の国にも地下都市が存在して、そこが彼らの本当の拠点なのだという事を。
それに気づいた時、俺は今まで漠然と感じていた『恐ろしさ』をようやくはっきりと認識することができた。
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