第209幕 地下を走る存在
その後俺たちはロンギルス皇帝に案内されるがまま、城の中を歩いていく。
途中すれ違う兵士がビシッと敬礼しているのを他所に、どんどんと進んだその先は――他と比べて多少豪華なこと以外は特に変わったこともないただの部屋だった。
こんなところに何があるんだ? と思わず抗議の声を上げそうになったけど、皇帝のあまりにも迷いのない動きに何も言えずに黙ってしまった。
皇帝が机の椅子をどけて、魔方陣を展開すると……そこに現れたのは地下へと続く入り口だった。
「こんな仕掛けがあったなんて……」
呟いた俺は、当然ここ以外にもこういうところはあるだろうと考えを巡らせていた。
ここがいつも使われている出入り口なのかはともかく、何かで塞いだり予め待ち伏せされたりする可能性も十分にある。
警戒の色を強めながら俺はその入り口と皇帝を見比べるけど……彼は全く変わらない、つまらないものを見るような顔をしていた。
「覚悟はいいな?」
視線だけをこちらにむけた皇帝に対し、しっかりと頷く。
すると彼はなんのためらいもなくその階段を黙々と降りていった。
「お兄ちゃん、ぼく、怖いよ……」
「安心しろ。いざという時は守ってやる。
スパルナは何が来ても大丈夫なようにしっかりと気を張ってくれ」
それはラグズエルへの対策と言ってもいい。
あいつは多分魔力で記憶を操作しているはずだ。
それなら、常に緊張感を持っていれば奴の精神攻撃くらい防げると考えた。
精神に影響を与えるものは基本的に防ぎやすいからな。
それこそ圧倒的なまでの差がなければまず問題ない。
俺たちは互いに頷き合い、ゆっくりと皇帝に従うようにそのがっぽりと開いた地下へと続く階段を降りていった。
――
カン、カンと音が鳴る階段を降りていくと、そこにはそれなりに広い空間が広がっていた。
さらにそこから奥へと進むと……なにやら見慣れない場所へと出る。
いや、鉄のような固い階段やそれに続く空間も全く見たことはない。
だけれどその場所は、そんなものが霞んでしまうほど変だった。
まず大きな段差があって、俺たちはその上の方に立っていた。
下の方にはなにやらまっすぐに続く二本の太い線が敷いてあった。
「ここは……?」
「しばらく待っていろ。そうすればわかる」
皇帝はそれだけ言うと腕を組んで目を閉じて黙ってしまった。
なにか聞こうとしてもとても聞けるような雰囲気じゃない……というか無視されるオチなのが手にとるようにわかる。
仕方無く、その指示に従っていると……なにやら遠くから音が聞こえてきた。
「な、なに? 何が起きてるの……!?」
スパルナはその徐々に近づいてくる音に警戒心を強く現して、いつでも行動に移せるように構えていた。
俺の方もグラムレーヴァに手を置いたけど……皇帝自身が何も臆さずに堂々としていたから特に危険なものだと判断して構えるまでの事はしなかった。
「ほう? そこの者のように構えぬのか?」
「なにか危険なものであるならば、貴方がそこまで悠長にしている訳がありませんからね」
いや、よほどの信用があるのだとしたら……とも考えるけど、それならこちらの動きを注視するような何かがあってもおかしくない。
それすらないんだったらどうしようもないけどな。
皇帝の興味深いものを見るような視線に耐えながら、その近づいていく音の方を向いてみると――そこにはなにやら大きな箱のようなものが迫ってきていた。
スパルナは魂が抜け出るんじゃないかと思うほど驚いていたけど、俺だって同じくらい驚いていたさ。
なんたってものすごい速度で何かがこっちに向かって迫ってきたんだから。
大きな箱状のものはそれに負けないくらいの音と速度でこっちに向かってきて……やがて徐々に速度を落とし、最終的にゆっくりとした速度で俺たちの目の前で止まってしまった。
「な……ななな!?」
「これは……一体どういうものですか?」
上手く言葉に言い表すことが出来ないスパルナに変わって、なんとか驚きを飲み込んだ俺は皇帝に質問するように話しかけた。
「そうだな……『魔法鉄道』と呼ぶのが相応しいだろう」
「魔法……鉄道……?」
皇帝の説明に改めてその箱をよく見る。
細長い四角の箱がいくつにも繋がっていて、蛇のようにも見える。
「本来であれば、民たちを乗せて運ぶよう設計されているが……今は我ら専用車両だ。
気にせずに乗るが良い」
それだけ言って皇帝はさっさと乗り込んでいった。
というか、もう少し詳しく説明してくれとも思うんだけれど……これがあの人の性格なのだろう。
ほんの少しの間だけど、接してみてよくわかった。
「スパルナ、行くぞ」
「う、うん……大丈夫?」
「それはわからないけど、ロンギルス皇帝が自ら乗り込んで『危険でした』なんてまずありえないだろ」
「それもそうだね……」
あの人が率先して乗り込んでくれなかったら、逆にいつまでも踏ん切りがつかなかっただろうけど……。
スパルナを促しながら、俺たちは皇帝が乗った『魔法鉄道』と呼ばれるものに乗り込んだ。
それがどこに辿り着くのか、何も知らないまま――
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