第192幕 明かされる真の名
「……私の本当の名はグレリア・エルデと申します。
産まれはヒュルマの国のジパーニグですが、英雄グレリアの記憶を持って生を受けました」
ここでただ単にグレリア・ファルト本人の生まれ変わりですと宣言しても良かったのだが、それは流石にはばかられた。
下手に全部を曝け出したら、要らぬ誤解を招きかねない。
ならば……転生英雄の一人として、記憶を保持しているといった体裁を取り繕った方がいい。
「グレリア……つまり、そなたは自身が転生英雄だと。
そう言いたいのか?」
「その通りでございます」
若干痛そうに頭を抑えていたが、それも仕方のないことだろう。
なにせ目の前にいるのは最古の英雄と呼ばれている者の記憶を持つ男なのだから。
「正直にわかには信じがたい。
そなたは彼の娘の名前を覚えておるか?」
「ルティアナですね。
なんでしたら彼女から生まれてきた孫の名前も言いましょうか?」
「いや……」
ミルティナ女王は疑り深い目をして、俺の方を見つめているが、恐らく彼女と俺は同じ事を考えているのだろう。
はたしてこれが、どこまで『ラグズエル』のシナリオ通りなのかだ。
記憶を弄る――女王風に言うのであれば、記憶を上塗りすることが出来る男の存在は、こういう時本当に厄介だ。
自分の記憶を信じることさえ困難な現状で、どうして他者の語る昔話を信じることが出来るだろうか?
例え自分に自信を持っていても、他人が必ずそうだとは思えない。
記憶を操る事が出来る存在を知っている――それは自身が思っている以上に他人を信じられなくなってしまうものだ。
「……わしとそなた、思っている事は同じであろう。
なまじラグズエルの本性を知っておるからか、誰を信じてよいのか……。
本当に信頼しても良いものかわからなくなってしまうのだ。
もはやそれを知ることこそが業のようにすら思えてくる」
嘆かわしいことだ……と深いため息をついて明後日の方向を見ているミルティナ女王は、どうしたものかと思案を巡らせていた。
普通であれば、もう少し色々と話を詰めれば信頼するに値するものも出てくるかもしれない。
現に俺は、ある程度目の前の女王の事を信じていいと思っている。
シエラの事もそうだが、ラグズエルや人の国の事情……そして魔人の国が滅んでいない理由といい、その全てになんらかの説得力を感じる。
特に人の国の武器の事情はこちらも把握しているし、信じたい気持ちはあるのだが……やはり立ちはだかるのはラグズエルのことを知っているからこその事情だ。
「しかし、ここで互いを疑っておっては、なんの為にそなたをここに呼んだのかわかったものではない。
故に一つ……この質問だけで判断させてもらおう。
そなたは『グラムレーヴァ』について知っておるな?」
「……ええ。現在祠に安置されているものが偽物ですね。
本物はメテオルダイムと呼ばれる流星と共に現れたと呼ばれる金属を使っていて、錆びることはないとされています」
ミルティナ女王の耳がピクっと動いたが、それもそうだろう。
彼女自身、『グラムレーヴァ』が偽物であること自体知っているはずだ。
だからこそ俺にわざわざ聞いてきたのだろうから。
「なるほど、『メテオルダイム』か。
初めて聞いたな」
「わざわざ周囲に知らせる必要はありませんし、語り継ぐ意味を見いだせませんでしたから」
そんな事をしてしまえば余計に欲の皮が突っ張っている輩が欲しがる事は間違いない。
ただでさえ俺が晩年まで使っていた剣なのだ。
これ以上付加価値を与える必要を感じなかったのだ。
「ふむ……それが今どこにあるかは?」
「私が持ち出して、現在は別のところに保管しております」
ここについてはセイルが持っている事を誰かに言うつもりはない。
ラグズエルが既に知っているからこそ、これ以上周知させる必要はない、というわけだ。
ミルティナ女王はしばらく俺を観察してきたが、どうしても聞き出せない事がわかったのか、ここに来て幾度かのため息をついていた。
「……言いたくないのであれば、仕方あるまい。
ならばわしの方もラグズエルが一番知られたくない情報を渡すことで信頼ということにしてくれないか?」
「……わかりました」
俺は渋々、と言った様子で頷いた。
これ以上、疑うのも疑われるのも時間の無駄。
例え完全に信じる事が出来なくても、ある程度妥協しなければ先に進むことは出来ない。
それに……ミルティナ女王の教えてくれた情報の全てが嘘な訳でもない。
気軽に魔方陣を使ってどうにかしようとするには位が高すぎるからな。
「まず、ラグズエルの能力は相手が心から屈服しているか、守られていない無防備な時にこそ使用することが出来る。
だからこそ、寝ている時も部屋を魔方陣で守っていなければならない。
奴に重要なのは決して屈しない気持ち。心だ」
……そう語るミルティナ女王は嘘を言っているようには見えない。
確かに、それが本当であればセイルが完全にラグズエルの支配を受けていないことがわかる。
あいつの目は決して折れない男の目だった。
そして彼が持っているのは『グラムレーヴァ』……俺の持っていた最高の一振り。
だからこそ、必ずあの剣はセイルと共にあり、守り続けてくれるだろう。
ミルティナ女王の今までの言動、そして何より、シエラに対する想い。
俺の方もそれを信じ……彼女の望む矛になることを決めた。
何もわからないままなのであれば、足を止めず、歩み続けるまで。
暗闇で立ち止まり続けても、そこに光が差すことはないからだ。
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