第77幕 勇者との質疑
ルーシーの信頼も得たし、早速何を聞こうかと思ったのだが……やはり気になったのは一つ。
「ルーシーはイギランスの英――勇者なんだよな?」
「そのとおりですわ」
「だが、俺たちは勇者会合の席でお前を見たことがないぞ?」
セイルの方もやっぱりそこが気になっていたのか、首をかしげながら疑問そうな顔をしている。
少しの間、どう答えようかと考えているようだった。
「わたくし、そもそも勇者会合なんてものがあったことなんて知りませんの。
ですから、ヘンリーさん以外の……今グレリアさんが仰っていた方々の名前は初めて聞きましたわ」
「……どういうこと?」
エセルカとセイルは余計に混乱しているようだったが、俺は一つの可能性に気づいた。
他の奴らに視線を向けると、どうやらくずはも妙に真剣な顔をしているようで……もしかしたら俺と同じように気づいてるのかもしれない。
「えっと、そこの女英雄……」
「くずはよ! 霧崎くずは!」
シエラが名前を呼ばずに『女英雄』だなんて言葉で呼んだもんだからくずはの方は少し目をつりあげて怒っているようだった。
それを見ると、やはり一年離れていたせいか、妙に懐かしい気分になる。
いや、くずはとはそんなに長い付き合いじゃなかったが、やっぱり印象深かったからな。
くずはの剣幕に圧されるように頭を軽くさげてしまうシエラ。
「ご、ごめん……。
えっと、くずははなにか気づいたみたいだけど……」
途端に歯切れが悪くなったようで、言おうかどうしようかと悩んでいるようだったが……やがておずおずと自分の考えを語り始めてくれた。
「多分、なんだけど……イギランスは勇者会合が終わった後にまた【英雄召喚】を使ったんじゃない?」
「それならわかるけど……もうヘンリーがいる以上、喚ぶ必要ないんじゃないか?」
「……普通なら、な」
セイルの考えはあくまで普通に考えて、というのが大前提に置かれている。
だけど、もし、そうじゃないのであれば……。
「どういう意味だよ?」
「最初からヘンリーを喚んだ後、もう一度【英雄召喚】を行う手はずだったってことだろう。
つまり、イギランスは最初から他の国の裏を突く気だったってことだ」
「まさか……」
セイルは驚愕しているようだが、ルーシーとくずははそれを冷静に受け止めていた。
どうやら思うところがあるらしい。
「わたくしが喚び出されたのは半年前……そこからヘンリーさんや他のイギランスの方々から指導を受けてきましたわ。
ですから……グレリアさんが言われたことはありうるのではないか、と……」
どうにも不明瞭な答えなのはルーシーがヘンリー以外と全く会ったことがなかったからだろう。
余計な知識を吸収しないように管理されていたんじゃないかと思う。
「……もしそうだとしたら、イギランスはこっちに隠れて色々画策してるってことになるわね」
「そんなの……」
くずはが出した結論に対してどうにも納得出来ない顔をしているのはセイルだった。
だけどその気持ちもある程度わかるというものだろう。
セイルは英雄や勇者と呼ばれる人物達に対して――もっと言えば人を守れるほどに強い存在に憧れを抱いている。
そして勇者達の戦いの歴史というのは国の歴史……いわば人の敵であるアンヒュムと団結して戦い続けた人たちの歴史でもある。
それなのにイギランスが秘密裏に再度【英雄召喚】を行い、更にはアンヒュムと呼ばれている魔人の国――グランセストに侵略しているというのだから、頭ではわかっていても心の底では納得しきれないのだろう。
そう思っていたのだけれど――。
「いや、もしかしたら……」
「セイル?」
「俺、ジパーニグの城に行った時、国王様が誰かと話していたのを聞いたんだ。
『異世界転生』がどうとか……」
「『異世界転生』? 『異世界転移』じゃなくて?」
「いいや、そうはっきり聞こえた」
セイルの言葉に今度はくずはとルーシーが頭をかしげる番になった。
だが、俺だけはなんとなく察してしまった。
『転移』が勇者を……司やくずはのような奴らを喚び出す行為だとすれば、『転生』は……死んだ異世界の住民達をこっちで生まれ変わらせる行為なんじゃないだろうか?
そうだとすれば、勇者以外にも異世界からやってきた者がいて……そいつらが影で世界を操っているんじゃないだろうか?
そんな疑念が途端に湧いて出てくる。
もしそうだとすれば……一番怪しいのは再度【英雄召喚】をしてきたイギランス。
セイルがクリムホルン王の会話を盗み聞きして『異世界転生』という単語が飛び出してきたジパーニグ。
この二国は少なくとも何かを知っているのではないだろうか?
だとしたら……。
「グレリアくん? なにをそんなに悩んでるの?」
「ああ、いや……」
エセルカが不安げに俺の方を見てきたが、どうにも俺は今考えついた疑念を言葉にすることが出来なかった。
下手をしたらこれは……今まで信じてきたものに崩れていくかもしれない。
ただでさえ俺が魔人で、みんなはそれを受け入れてくれたばかりのこいつらには些か荷が重いのではないか?
そう思えてくるが、その一方でセイルたちならそれでも理解を示してくれるのではないか、そう考えた俺は、自然と一つの答えを口にしていた。
「セイルの言葉が真実かどうか……イギランスが二回目の【英雄召喚】を行ったのはなぜか……それを知るためには直接各国に行って調べるしかないだろう」
「直接調べる……」
それは自分の国を疑って、あらを探す行為に匹敵するだろう。
これに関してはしばらく考えこまざるを得ない……が、それは以外とすぐにやってきた。
「わかった。俺もこのままじゃ気分が悪い。
調べるっていうんだったらそっちのほうが早い」
「……そうね。色々ややこしいこと考えるより、そっちの方があたしたちらしいかもね」
セイルとくずはがやる気を見せたことによって、最終的にみんなが俺の考えに同調してくれた。
こうして、俺達は一体何が真実なのか? それを調べるために行動を起こすことになった。
たとえそれで信じていたものが全部偽りであっても……俺達は前に進むことを決めたのだ。
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