第72幕 勇者の侵略
それから俺たちは様々な町や村を見て回り、あっという間に時が過ぎていく。
もちろん楽しいことばかりじゃなかったが、俺がこの旅の中で得たのは、人も魔人も、なんにも変わらないってことだ。
例えどこにいたとしてもその人達の暮らし・営みは変わらない。
みんな生きる為に畑を耕し、家畜を育て、生活を豊かにするために頑張っていた。
どれだけの歳月が経ったとしても、人の一生懸命さ。
人のひたむきな努力は姿勢は変わらない。
それが俺がこの旅で得た結論だった。
そして……だれか『悪意を持つ者』がそれを歪めて、人の歴史をぐちゃぐちゃに壊そうとしているということだ。
そんなことだけはさせてはいけない……のだけれど、俺にはその全容は掴みきれていない。
しばらくはまだ振り回され続けることになるだろう。
だけど……それでも俺は諦めずに前に進もうと思う。
だって俺は誰かから英雄と呼ばれ慕われて、その事を誇りに思っていたから。
どんな矮小な俺であっても、誰かに頼られる限り、戦い続けると……決めていたから。
――
俺たちはこの魔人の国でも中央から離れた場所。
リティルトという田舎町に辿りついたときだ。
最初町に訪れた時に感じたのは、違和感だった。
まず人がほとんどいない。
誰もいない……というわけではないのだが、圧倒的に少ない。
閑散とした……と言えば多少は聞こえは良いが、どこか緊迫としているような空気が周囲に満ちている。
「……変ね。いくらここが田舎って言ってもこんなに寂れてるなんて……人がいない、ようには思えないけど」
「家の中に人の気配はする。
考えられるのはなにかに怯えているようだが……」
周囲を見回しているシエラは、不思議そうな顔をしている。
今までこんな町に出会ったことがなかったからか、どういう風に対応してもいいかと戸惑っているようだ。
「どうする?」
「まずは……宿屋か。
何があったか聞いたほうがいいだろう」
「そうね……それが一番かも」
それ以外特に何をするかも思い浮かばなかった俺達は結局宿屋で聞き込みすることにした。
一応宿屋自体は開いているようで、俺達は歓迎されているのかいないのか微妙な空気の中、今この村では勇者と呼ばれる侵略者がやってきているそうだ。
最初の一回は、この村にいた兵士達がなんとか勇者に手傷を負わせることに成功したことで撤退してくれたそうだが……。
恐らく次に彼らが現れたときには村はヒュルマの手におちてしまうだろう……という話だった。
これに憤りを感じたのはやはり同じ魔人のシエラだった。
「許せない……こんな村にも勇者の手が伸びるなんて……」
「勇者、か……」
正直、今この現状を放っておくことは出来ない。
このまま「はい、そうですか」と言って見過ごしてしまえば確実に後悔するからだ。
……だけど、俺は勇者会合に出席していて、そこでちょっとやらかした……というか決闘をしたせいで確実に顔を覚えられているだろう。
もしここで知り合いだということがバレてしまったら……ちょっとまずいことになりかねないだろう。
「はあ……」
「どうしたの?」
思わず深いため息をついた俺に対し、シエラは疑問を投げかけてきたけど、こっちの悩みは……恐らく彼女にはわからないだろう。
しかし、こんな事をしてても仕方ない。
俺の方も覚悟が決まった。
放っておくことなんて出来ないのだから、最初から選択肢は一つしかないのだけど。
「いや、勇者の奴らって面倒くさいなと思ってな」
「……そうね。私もそう思うわ」
多分俺と違う意味で納得したであろうシエラとともに、一度村長の家に伺うことにした。
この村の為……とはいえ、一度くらいは挨拶しておいたほうがいいだろうということだ……ったんだが……。
「ま、まただ! 勇者の連中が攻めてきたぞー!」
入り口付近の家の方で声が上がったかと思うと、ようやくちらほらと出てきかけた魔人達は全員言えの中に戻ってしまってしまい、今度こそ本当に誰もいなくなってしまった。
全く……タイミングの悪いことだ。
少しはこっち側の都合とか考えてくれないかな……。
「どうやら、早速お出ましのようだな」
「いくわよ。これ以上、この村で暴れさせるわけにはいかないわ」
ぐっと拳を握りしめて……まるで初めて戦いを挑む新人兵士みたいな表情を浮かべていた。
「シエラ、気合を入れるのはいいけど、あんまり先走るなよ?
そういう風に気合い入れすぎた奴から死んでいったりするんだからな」
「……なんだか見てきたかのような人の言葉ね」
「実際見てきたからな」
転生してきた身だからな……とは流石に言えず、結局その一言だけで俺達は入り口の方に向かう。
流石に今の状況で悠長なことしてるわけにはいかないからな。
既に村の中央まで入り込んでいるようで、ちょうど広場のような場所で件の勇者たちと鉢合わせしてしまった。
どうやら兵士たちはまだ怪我をしていて動けないようだったせいか、勇者の周りには付き従うように向こう側の兵士がいた。
あれは……イギランスか?
その中央には女の子が当然のような顔をして若干偉そうにしている。
「あれが……勇者。初めて見た」
ごくり、と喉を鳴らして怨敵を睨むかのように呟くシエラの意見に、俺は思わず共感してしまう。
それは……そこにいる女の子とは、少なくとも勇者会合では会ったことがなかったからだった――。
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