第71幕 激しい攻防
「なに、あれ……」
兵士達が一斉に構えた物を見て戸惑いながらも警戒を怠らないようにしているようだ。
少し離れた状態からあの構え……近接攻撃が出来る武器の類ではない。
ナックルにしては穴が空いているし、他のタイプのものにしては短すぎる。
確か……くずはは銃とか言ってたか。
中距離用の武器――そう判断した俺は、魔方陣で速力を強化し、一気に駆け寄る。
「……」
兵士達はその感情のない目をしたまま、指が何かを引くような動作をする。
――パァンッ。
乾いた音が響いてきたが、前に司に投げ渡された剣を抜いて防いだが……これはあの鎧馬車を襲撃された日。
その時に受けた攻撃と微妙に似ている。
いや、あの時の攻撃のほうが速く鋭く、重かった。
別種でありながら似たような武器……というのがしっくりくるな。
一瞬、あの時のように超遠距離での攻撃が飛んでこないか警戒したが……どうやらその心配はないようだ。
いくら俺でもこなせるのは近中距離までだ。
そもそも遠くの敵まで倒す必要なんてなかったからな。
近づいて斬るか、魔方陣で仕留める。それだけで良かった。
変な筒のような武器から何度も乾いた音が鳴り響くが、そのどれもが俺の元に届く前に叩き落として、兵士たちの中に唯一人飛び込んでいく。
「グレファ!」
「お前は自分の身を守ってろ!」
相手はまだ俺の知らない攻撃をしてくるかもしれない。
最悪、俺が守りに入ってやれないかもしれないのだ。
自分の身ぐらい自分でなんとかしてもらわないと困る。
兵士の一人を殴り飛ばし、そのまま反転し、逆の位置にいた兵士を蹴り飛ばしてやる。
その間にも間断なく続く攻撃を剣で、防御の魔方陣で防ぎながら先に進んでいく。
しかし、こうも仲間が倒されていっているというのに、こいつらは何も感じないのだろうか?
俺達を見つけたと一言呟いただけで、後は無言。
ただただ攻撃を続けるそれは、無機質な何かのようだ。
「これで……終わりだ!」
最後の一人を倒した俺は、一息ついてシエラの方に向き直る。
「行くぞ」
「行くって……どこに行くのよ!?」
どこにって……そんなもの知るか。
とりあえず――。
「こいつらが追ってこないどこかに行けるまで、だよ」
「ま、まあそうだけど……ちょっと!」
そのまま俺たちは走り出す。
それはまるで村を追われて逃亡していくみたいでなんだかいやだが、仕方ない。
ここに留まるわけにはいかないからな。
――
それからしばらく、俺達は逃避行を続ける羽目に――はならなかった。
というか、首都に戻った時点で流石に追いかけてこなかったのだ。
こっちは結構気合い入れて逃げてきただけに、拍子抜けしてしまった。
「はーっ……はーっ……ちょ、ちょと、ぜーっ、ぜーっ……はし、すぎ……」
「ちゃんと息を整えてから喋れ」
四つん這いで全身全霊空気の旨さを味わってる最中のシエラを尻目に、今後の予定を考えることにした。
『グラムレーヴァ』を手に入れたのはいいが、あまりここに留まるべきではないだろう。
下手をしたら俺の持っている『グラムレーヴァ』を没収しに、本物の魔人兵達が動き出しかねない。
そんなことになったら……力の限り抵抗するだろう。
「はっ、はっ……はふっー……つ、疲れた」
「ん、ようやく落ち着いたか」
四つん這いになっていたシエラは、俺の方を見てキッと睨むと、今度は大声で怒鳴りだした。
「あ、あんたねぇ……! 何考えて延々と走らせてくれてるのよ!
し、死ぬかと思ったじゃない!!」
「本当に死ぬよりはマシだったろう」
「マシじゃない! 全然マシじゃない!!」
そのままの状態で頭を抱えてうめくシエラだったが、なにをそんなに反論してるんだろうか。
あれは間違いなく『グラムレーヴァ』を取り上げるだけじゃ済まなかった。
奪ったらそのままの流れ作業のような感じで殺されてたと思うけどな。
「ま……も……もういいわ。
で、これからどうするのよ」
自分の調子を完全に崩されたと言わんばかりの目でこちらに訴えかけてくれるが、そんなことは知ったことではない。
シエラの言葉に真剣に考えて……出ようやく結論を出すことが出来た。
「しばらくは適当に村や町を見て回りながら、この国を知って……それから一度人の――ヒュルマの国に戻ってみようと思う」
シエラは俺の出した答えを信じられないといった表情で見ている。
そりゃあ魔人側の彼女からしてみたら理解できない行動なのかもしれないが……。
「それより、その『グラムレーヴァ』を持ってお城に行ったほうがいいわよ。
貴方が『グレリア様』かもしれないって証明にもなるし」
「あくまで『かもしれない』んだな」
「……私だってまだ全部信じられないもの。
でも、何よりもそれを証明してくれるのがあるし……」
ちらっと『グラムレーヴァ』の方に視線を向けてくるが、冗談じゃない。
そんなことをしたって俺が本物であることを認めてくれるとも思えないし、一歩間違えれば『グラムレーヴァ』を盗んだ盗賊扱いされてもおかしくない。
こっちだって自分の相棒をそう簡単に渡せるわけがないだろうに。
「……ならここでお別れだな。
俺は『グラムレーヴァ』を誰の手にも委ねるつもりはない」
「でも……」
「こいつは俺の半身と言ってもいい。
この国の連中のお守りとして献上するくらいなら、使ってやったほうがこいつのためだ」
俺が絶対に折れないということがわかったからか、大きくため息をついて『仕方ない』といった顔でこちらの表情を伺うような視線を投げかけてきた。
「……わかったわよ。
でも、私はついていくから。貴方が本物かどうか見極めるからね!」
「好きにするといいさ」
今後の方針はひとまず決まったが……さてどうしよう。
とりあえず当て所もなく適当に回ってみるとするか。
案外、そういうことがいい方向に転ぶものさ。
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