第18幕 初デート大作戦
「グレリアくん、聞きました!」
「な、なにが?」
ある日の教室、授業が始まる前にエセルカは俺に詰め寄るように近づいてきて、机をバンッ、と叩いてくる。
……力が強すぎて手を痛めたのか、少し痛そうな顔をしていたけど、それでもすぐにジロッとその特有の困り顔をこちらに向けてきた。
「セ、セイルくんと仲良くデートしてたって!」
「ぶはっ」
思わず吹き出しそうになったが、今エセルカの奴、なんて言った?
俺とセイルがデートだと? そんな悪夢のような噂、誰が垂れ流してたんだ。
とぐるりと教室中を見回してみると、目を逸らしたのはエウレだった。
お、お前かー……なんて酷い噂を流してくれるんだ……!
「聞いてるの!?」
「聞いてる聞いてる」
で、こっちはなんでそんなに怒ってるんだ?
普段こんな態度を見せないのがエセルカのはずなんだが、今回はやけに一生懸命だ。
その太眉が妙にキリッとしてる。
「えっとね、その、セイルくんばっかりずるいなぁ……って。
わわわ、私とも、その……いっひょに遊ん……あう」
さっきまで怒っていたのが、途端に顔を赤くしてわたわたと喋って……舌を噛んで途中で黙ってしまった。
何を勘違いしているのかは知らないが、誤解は解いておかなくてはならない。
下手をしたら俺はあっちのケのある人間だと勘違いされてしまう。冗談じゃない。
「あのな、ずるいとかずるくないとかじゃなくて……あの時はセイルに図書館への案内を頼んだだけだ。
俺は学園に来てから一度も外に出てないからな」
「そ、そうなの……?」
「お前も知ってるだろう。俺は北の村からわざわざここまで来た身なんだぞ? ほとんど都市も歩いてなかったしな」
なるべく周囲に……特にエウレに聞こえるように伝えた返事に、なぜかホッと肩を撫で下ろしているエセルカ。
上手く誤解は解けたみたいでよかった。俺へのあらぬ嫌疑はこれで晴れたと言っても過言ではないだろう。
……などと思っていると、今度は急にもじもじしだしてなにか非常に伝えづらそうに顔をうつむけている。
「うん? どうしたんだ?」
「あ、あの……あのあの! まだルエンジャは回ってないん……だよね?」
「ん、ああ……そうなるな」
結局あの後はまっすぐ部屋に帰ったもんだからロクになにも見てなかったな。
せっかくだからこの都市なにがあるかどうかも多少知っておこうと思ってたんだが……あの本のせいですっかり忘れていた。
「だ、だったら……だったら次のお休みの日、一緒にま、まま……町! に、行こう?
あ、案内してあげる!」
両手を強く握りしめてぶんぶん振り回し、振り絞るように訴えかけてくるんだが……どうしたものだろうか。
悩んでいると、周囲から強い視線を感じる。心なしか「行け……! 行け……!」とか言ってるようにも聞こえる。
その視線の正体。それは、エセルカと仲良くしている数人の女の子たちのものだった。
まるで脅迫でもされてるかのような錯覚に陥るんだけど……実際断れば何されるかわかったもんじゃないだろう。
それに……断ったらエセルカは間違いなく悲しむだろう。そんな姿は見たくない。
「わかった。次の休みの日でいいなら……」
「ほ、本当!?」
ぱあっと顔が華やぐエセルカは、さっきまでの照れた様子も全て吹き飛ばしてしまったようだ。
「ああ、本当だ」
「約束! 約束だからね!」
俺の返事に満足したのかそのまま上機嫌で、自分の机に戻っていった。
――◇――
「上手くいったわね」
「まずは第1段階クリアね!」
授業が終わった後、私はエウレちゃんとシュリカちゃんと一緒に話してた。
二人は頷きながら今日の戦果に納得しているようで、今後の……私の予定を話し合ってた。
「色々見て回るってのも彼の趣味が知れていいし、次誘った時も活かせるんだろうからいいけど……問題は何処に行くか……よね」
「わ、私はどこでも……」
「甘い!」
ただ一緒に遊べる約束ができただけで嬉しい私はもう満足したんだけど……シュリカちゃんから見たらまだまだなようで、私に指を立ててビシッと突きつけてきた。
「彼のことをモノにしたいのなら、今からぐいぐい押していかないと! 逃した魚が二度釣れるなんて思ってちゃ駄目! ここで押さないと全てが台無しよ!」
「そうそう、これで満足したらそこで終わり。下手したら本当にセイルくんとくっつく可能性だって」
「いや、それは……ないんじゃないかなぁ……」
あはは、と思わず苦笑いがこぼれてしまう私。
本当はもっとグレリアくんと仲良くしたいってだけだったのに……いつの間にか二人の間では私がグレリアくんにベタぼれしてて、上手くやって一緒になりたいって思われてるみたい。
そ、そりゃあ、もっと仲良くなりたいし、いっぱい遊びたいけど……その、こ、こい、恋人になりたいだなんて全く思ってなくって!
「やっぱり大事なのは服なんじゃない?」
「そうね……こっちもうんと力入れないとね!」
私の関与してないところでどんどん話が大きくなって……私、いったいどうなっちゃうんだろう?
「あ、あの、お手柔らかに……ね?」
「「無理」」
清々しいほどはっきり言われて……二人共絶対楽しんでるよね?
もう、いいや。なんて考えて、私は次のお休みの日のことを考えるようにした。
――ああ、楽しみだなぁ……。
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