第8話

「あー、あそこはヴェルニー公園ですね。」


 そう言うと、またあの金属板をポケットから出した。…よく見ると光っている。ん?“賀須横”?何て書いてあるんだ?


「あ、もしもし。ヴェルニー公園に恐らく、海上自衛隊の艦の全艦撤退を受けて集まったと思われる民間人を特定秘密の保護に関する法律みたいなやつで、退かすことできますか?………はい。…はい。分かりました。ありがとうこざいます。」


 ヴェルニー公園とやらに集まったのは、民間人らしい。にしても、なにやらチカチカと光っている。たまに、発狂するかのような声も聞こえる。


「さあさあ、早めに海上自衛隊司令部へどうぞ。」


言いながら、磯部は嘘偽りのない笑顔を私たちに向けた。




 建物の中はとても清潔にされている。汚れひとつ見受けられない…とまでは言えないが、普通の海軍施設よりは断然きれいだ。

 磯部は、通路にあった一つの扉を開けた。


「お待ちしておりました。」


 扉が開かれた瞬間、何かが転がる音がして部屋の奥にいた、帝国海軍にはいないような優しい目をした男が言った。

 部屋は、特段きれいにされており、机の上には変なものばかりが並べられている。

 よく見れば、男は米軍のような格好をしている。肩章も帝国軍とはまるで違う。だが、様々な勲章やき章を胸に付けていることから、少なくとも私よりは階級が高いことは確かだ。


「日本国海上自衛隊自衛艦隊司令の最上もがみ咲哉さくや海将です。」


 男、最上は、やはり優しそうな顔で自己紹介をした。


「大日本帝国海軍第一航空艦隊司令、南雲忠一。」

「同じく赤城艦長、長谷川喜一。」

「同じく副長、鈴木涼介。」


 最上に対して、私たちも自己紹介をした。


「まあ、立ち話というのもあれですから、こちらにどうぞ。」


 最上に促されたので、私たちは目の前の長椅子に座った。

 妙に体が沈んでいく。だが、またそれが良い。これは、相当高価なものなのだろう。眠気が襲ってくる。


「で、早速なのですが……あなた方は、本当に南雲司令官、長谷川艦長、鈴木副長なのか証明できるものはありますか?」

「これで……どうだ?」


 南雲司令長官は直ぐに腰に手を回し、短剣を足の低い長机ながづくえに置いた。

 すると、妙なものがたくさん置いてある机に最上は行き、箱から飛び出ていた布のようなものを引き抜いた。


「短剣、触れさせていただきます。」


南雲司令長官は小さく頷き、最上は短剣をさやから抜いた。短剣に、布のようなものを被せるようにして、一気にいた。

 最上は、ゆっくりと慎重に短剣を元に戻した。


「……確かに、この細工と切れ味。本物と見受けました。ご無礼を働き、大変申し訳ございません。」

「いや、気にすることはない。」


 南雲司令長官は、完全に接待モードである。


「では、あなた方は本物……ということが証明されつつあるのですが━━」


 最上は前屈まえかがみになり、不敵に私たちを見つめ始めた。

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