第071話 夢の続き
幸せな主人公の視点
馬車に心地よく揺られ、いつの間にか寝てしまったようだ。
とても幸せな夢を見た気がする。
重い瞼を開くと、目の前にぼんやりと山が二つあった。ツーマウンテン。
何だろう……これは?
ーームニ
手を伸ばして触ってみると、とても柔らかかった。
「……ん」
小さく呻く女性の声が聞こえる。
聞き慣れた声だった。
「……?」
アレを下から見上げたら、こんな風に見えるような気がする。
よく分からないけど、きっと夢の続きだろう。
せっかくいい気持ちだったし、寝直そう。
そう思い、目を閉じて寝返りをうって枕の位置を調整した。
ーームニ
この枕も柔らかいな。それに暖かい。
とてもいい感触だ。
でも、この枕、なかなか動かない……
どうなってるんだ?
隙間に指を入れてグイっと力を……
「ヒィッ!? お前ェ!!!」
「え……?」
カヨの怒声が聞こえた。
そして手に激痛が走り、一気に目がさめる。
「いい痛っ!?」
おもいっきり抓られていた。
ど、どういう状況なんだ?
「どこ触ってんよ!!」
我に帰り、ガバッと起き上がろうとしたら顔に何か柔らかいものが当たる。
先程のツーマウンテン?
もしかして、これは……おっぱ……
その時、加護の力が腹部に危険を知らせた。
しかし、不自由な寝起きの体。避けることは叶わなかった。
「うごっ!?」
見なくてもわかる、この形はカヨの拳だ。
なんと言っても僕はカヨの拳ソムリエ。
今日の拳は異様なほど握り締められて硬い。怒り50%焦り50%といった握り具合でしょうか?
僕は跳ね飛ばされて床に転がり落ちた。
そう言えば馬車の腰掛けで眠ってしまったんだっけか……
「調子に乗るな! そこまで許した覚えはないわよ!」
「ちょっと待って! 何が何だかんだか……」
寝てる間に何があって何を怒っているのか、まるで状況が分からない。
フラフラと立ち上がり、抗議を……
「うっさい! もう一発殴らせろ!!」
……受け入れてもらえなかった。
繰り出される理不尽な右アッパー。
よし、大丈夫だ。これは避けれる。
と、思ったが、ここは狭い馬車の中。
何かに足を取られて、大きく体勢を崩す。
再び、顔に柔らかいものが。
「いやーん。大胆」
リーナの胸に顔を埋める形になってしまった。
いつかの床屋のようだ。
彼女はわざとらしく変な声をあげる。
「あ、ご、ごめ……」
「どっちの胸がお好み? 大きさも張りも負けてないと思うんだけど」
「うぇええ? 何を……」
この女、ほんと録でもないことを言いやがる。
横目ではミリルが自分の小さな胸を見ていた。
うん、慎ましさも大事だと思うよ、僕は。
ーーボキボキ、といつもの指を鳴らす音が聞こえる。
カヨの変に優しい声が聞こえる。
「ジンくん、どっちがいいの? どっちを選んでもぶっとばすけど」
「……それ、選ぶ意味ある?」
やっぱり、慎ましさは大事だよな。
……………………
ラッキースケベという言葉をご存知だろうか?
不可抗力的な強制イベントで、スケベな事を体験できる奴に送られる言葉らしい。
そして等価交換という言葉をご存知だろうか?
いいことがあったら、それについての対価を求められる。
例えば、おっぱいに顔を埋めるという幸せなイベントがあれば、正中線上を五発殴られて正座を強要されるとか、そんなのだ。
……顔と、膝が痛い。
「……それでカヨ様は私めを労うため、膝枕をしてくださったという訳でございますか」
「ええそうよ、感謝しなさい」
「……感謝感激の極みでございます」
最後はこんな結果になるのか。
だがそれは口が裂けても言えない。
正中線にもう一発増えるだろうから。
「それでお兄さん、どっちの胸が良かった?」
リーナの核地雷のような質問。
僕は決めた、こいつには一生スジ肉しか与えない。
「矮小な私めには判断つきません」
「えー……つまんなーい」
ミリルはしゃがんで正座をする僕に目線を合わせ、手をかざす。
「ーーヒーリングライト」
これは治癒の中級魔法。殴られた痛みがスーッと引いていく。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうございます」
ニコリと微笑む線の細い美少女。
そう、僕はこういう慎ましさ、健気さを求めていたんだ。
彼女は僕にそっと耳打ちをした。
「カヨさんは凄い魔法使いで、とても綺麗で、そして純粋で……」
純粋なのだろうか?
ちょっとコメントに困る。
「私、好きになっちゃった」
「……?」
何を言ってるんだろうか。
好きにも種類、あるよね。
彼女は困惑する僕の胸ぐらを掴み、極上のメンチを切ってきた。
フィーナの時も思ったが、美人のキレ顔は本当に怖い。
「そしてカヨさんは私の命の恩人」
「……え?」
僕もでは? と、喉まで出かかったが迫力に押されて言葉にならなかった。
「次にカヨさんを困らせたら、縛って馬で引きずり回すから」
古い西部劇かな?
「お返事は?」
「は、はい」
ほぅ、そういうキャラなのか。
見た目に騙されたよ。
アンタが一番ヤバい。
そう言えばディアスが抜けて、ミリルが入ったこのパーティーの男女比は1対4。
ハーレムと言えば聞こえは良いが、今のところ何も良いことがない。
…………早く街に帰りたい。
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