第069話 一難さりて
少しの間気を張っていたが、パチパチと木が燃える音だけが森に響いていた。
ディアスの気配も多分無い。
カヨは大きく息をついて僕を睨みつけた。
「ジン! 何考えてるのよ!」
「何ってお前……」
「完全装備のアイツに、丸腰の私たちで勝てるわけないでしょ!? 」
「うっ」
僕も刀だけは持っているが防具は何一つない。
生身で受ければ、下手すれば石つぶてでも致命傷になってしまう。
「全く、何を熱くなってるんだか」
「……ごめん、悪かった」
カヨは腕組みをしてフンっと鼻息を荒くした。
「どっか行くって言ってるならほっとけばいいのよ。私たちの目的はディアスを倒すことじゃないでしょ?」
「その通りだけど……」
魔法で仕返ししてたの、どこの誰でしたっけ?
盛大に焼き払ってたし。
ーーパチパチパチ……
ふと横を見ると罪のない大木が燃え盛っていた。
周りの木々にも飛び火している。すぐに山火事になるだろう。
何という懐かしいデジャブ。
「おいカヨ! 燃えてる!消火しろ!」
「あっ!! しまっ……え!ええっ……みっ……水よ集え大河のごとく!清流よ押し流せ!クリアストリーム!!」
慌ててカヨは水の中級魔法を唱え、消火活動を始めた。
圧倒的な水量で一瞬にして鎮火したが、これまた罪のない木々が濁流に飲まれている。
焦った魔法少女は魔法の加減をよく知らない。
しかもこの魔法、山頂に向けて放ったものだから……
ーーザザザッ!!!!
「おいぃぃ!?」
泥水が僕たちに戻ってきた。
……………………
「こうなったのも、全部ディアスのせいよ。今度会ったらぶっ飛ばしてやる」
いきり立った魔法少女は濁流に飲まれ、泥まみれだった。
さっきと言ってる事、違うよね?
「お前……いや、もういい」
僕はカヨを見捨てて素早く木に登り、難を逃れていた。
その様子を見てカヨはッチと舌打ちをする。
相変わらずの態度である。
彼女は水の魔法を唱え、頭から被って泥を落としていた。
「いつまでも木に登ってないで、キャンプに戻るわよ!」
「はいはい」
カヨは仕切り、野営地へ戻っていった。
びしょ濡れの彼女の後ろ姿は妙に色っぽかった。
何より、薄着なので透けている。
こ、これは素晴らしい……。
お尻の形がくっきりと浮かび上がり、水色の下着の模様までわかる。
上は……まさかのノーブラ!?
ちょっと、こっちを向いて確認させて欲しい。
「おいカ……」
「カヨさん!!」
前方からフィーナの声が聞こえてきた。
彼女は装備を整え、こちらに向かってきたようだ。
「何があったのですか? びしょ濡れじゃないですか!」
「あー私先に着替えてくるから、ジンから聞いて」
そう言ってカヨは手をヒラヒラと振って、野営地に向かっていった。
「ジンさん、一体何が? さっき爆発音のような音も聞こえましたし……」
「ディアスさん……いえ、ディアスが裏切って帝国側に付きました」
「な!?」
フィーナは驚き表情を見せた。
だがそれは一瞬だけだった。
次に出した表情は冷たい氷のような……冷酷とも取れる表情だった。
「詳しくお願いします」
「僕も詳しい事は……」
「では事実を一つ一つ言ってください」
彼女の言葉には殺気がこもってるようにも思える。
ディアスやスウェンとは違うベクトルの強者、そう感じ取れた。
「う……」
「誰が仲間とか、何か奪われた物、奴らの目的……何でもいいです」
彼との会話では何一つ聞き出せなかった。
フィーナに気圧され、僕は冷や汗をかいている。
まるで僕が疑われているかのような迫力だった。
「あ、そ、そうだ! 猪肉を取られました!」
「……?」
そして一番どうでもいい情報が口から出てしまった。
未だにフィーナの冷たい目線は僕を貫いている。
……………………
フィーナは僕のテンパった要領を得ない回答に納得せず、野営地でカヨと共に何があったのか説明した。
カヨは既に着替えを済ませており、いつもの冒険に出る服装だった。
ディアスの目的もカヨがノーブラかどうかも、真相は闇の中となった。
フィーナは事情を聞くと、すぐに装備を整えて出立の指示を出した。
ミリルの体力は戻っていない為、僕が背負っての下山となる。
馬車の停留所までは3時間ほどだが、流石にきつい。
登り坂の場面では、彼女は闇の下級魔法を唱えて自重を軽くしていた。
ただ常時展開するのは無理らしい。
ちなみに背中には慎ましい物の感触がある。
うん、カヨのよりも小さいな。
昼前には馬車の停留所に着き、フィーナはテキパキと出発の準備を進めていた。
あまり寝てない為、昨日の疲れも残っていると思う。
僕は馬車に乗ると一瞬で眠りについてしまった。
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