第019話 添い寝
カヨに水を飲ませた後、セイナにトイレに連れて行ってもらい解散となった。
彼女に変に絡まれながらも、肩を貸して宿まで歩く。
酔っ払いの介助って本当に面倒なんだな……少し大人になった気分だった。
「ねえジン」
「なんだ?酔っ払い」
「私、お姫様なんだからお姫様抱っこして」
「嫌です」
「抱っこー」
……うぜぇ!
こんな酒臭い状況で胸がときめく訳もなく、僕は無視して宿の主人から鍵を受け取った。
ぐったりしたカヨの様子を見て主人もからかってくる。
「なんだ、お持ち帰りか?」
「あはは……」
苦笑いをして流した。
そんな事やったらシラフに戻った時、ぶっ殺されるに決まっている。
命を大事に。
僕はカヨの部屋に入り、彼女をベッドに放り投げ、適当に毛布をかける。
既に彼女は夢の中にいた。
紅潮した頬に乱れた髪、目を瞑っていると睫毛が長いのがわかる。
綺麗で無防備な寝顔だった。
不覚にも心がグラつき、少し欲情してしまった。
僕は過ちを犯す前に部屋を出た。
しかし、彼女のコレは絡み酒という奴だろうか?
今後、酒を飲む機会があった時は早々に避難しよう。
自分の部屋に戻るとベッドに直行した。
昨晩は徹夜した事もあり、すぐに深い眠りにつく。
…………
少し嫌な夢を見た気がする。だがぼんやりとして思い出せない。
夜は深いが、違和感で目を覚ました。
胸の奥深くに感じる不快感。
恐らくだが、酒の悪酔いという訳ではなく、別の何かだと感じた。
物音がしたような気がして、薄っすらと目を開ける。
自分以外、誰もいないはずの部屋に何故か人影が見える。
女性がベッドに腰をかけて座っていた。
綺麗な長い髪と整った顔立ち、黄昏た表情で窓の方を見ていた。
薄着でラフな格好をしていた。
カヨだった。
普段のポニーテールではなく、今は髪を下ろしている。
「ん……?」
「起こしちゃった?」
部屋の鍵は閉めた筈だ。
なぜ彼女が僕の部屋にいるのだろうか?
寝起きで回らない頭でボーとしながら口を開く。
「どうしてカヨが……?」
「前に壁をすり抜ける魔法があるって言ったでしょ。クアンタマイズっていう古代魔法よ」
ん???
何が目的でそんな不躾な事を?
僕はベッドから飛び起きた。
「……おい! まだ酔っ払ってるのか?」
彼女は軽くため息をはく。
その仕草は妙に艶めかしく、色っぽかった。
「もうとっくに、酔いは冷めてる」
「じゃあ何しに……!」
カヨはこちらに向き直り、ゆっくり近づいてくる。
狼狽している僕の肩を掴んで、彼女は耳元で囁いた。
ひどく蠱惑的な声で、背筋がゾクってした。
そして加護の力が危険を知らせる。
しかし逃げるべき方向がわからなかった。
僕は体を硬くして身構える事しかできなかった。
「つき従え抑圧されろ、マインドサプレッション」
「な、ぁ、がぁ……!?」
何らかの魔法を使われた。
カヨから離れようとするも、上手く体を動かせない。
いや、動かしたい気分にならない。
酷く気だるく、体を動かそうという心を押さえ付けられてるようだった。
一瞬の硬直と抵抗の後、僕は力なくカヨにもたれ掛かる。
それを見た彼女は笑みを浮かべながら、僕の体を優しくベッドに寝かせた。
「これは心の抵抗力を落とす精神魔法。奴隷の首輪に仕込まれてるそうね」
普段見せない艶麗な表情でクスクスと笑っている。
カヨは僕の腕を枕にして寄り添ってきた。
シャワーの後なのか、彼女の髪は少し湿っぽく良い匂いがした。
なすがままに胸板を優しく撫でられる。
「この魔法は魔力を込めれば簡単にレジスト出来るわ。私の魔力に勝てれば、だけどね」
「カヨ、お前……」
確かに集中すると、少しだけ体に力を込めることができた。
だが圧倒的な魔力で押さえつけられていて、殆ど抵抗になっていない。
指一本まともに動かせない状況が続く。
動けないどころか呼吸も苦しい。僕がもがく様子を、彼女は楽しそうに眺めている。
彼女の異常な行動と、体の奥にある違和感で確信した。
間違いなく嫉妬の神リベが言っていた【お前を愛する者の人間性を狂わす】呪いだ。
……これは……まずくない?
普段の彼女は暴力的だけど、どこかで歯止めをかけていた。
だが今は完全にタガを外して、弄ぶように魔法を試している。
彼女が本気になると、僕は全く抵抗が出来ない。
どういう風に人間性が狂うのか分からないが、最悪、狂い方によっては僕は簡単に殺されるだろう。
焦る僕をよそにカヨは潤んだ瞳をこちらに向ける。
「昨日のジン、カッコよかったわ。私、惚れちゃった……」
突然の告白を受けるが、それどころではない。
抵抗する力が殆どなくなってきた。
強烈なマインドサプレッションの効果をモロに受けて呼吸が苦しくなる。
「ハァ!ハァ!」
「フフ、この魔法が辛くて声も出ない?」
カヨは蠱惑的な仕草で僕の頬を撫でる。
そして僕の顔を向け直し、お互い見つめあった。
「ああ! 今の険しい顔が好き。本当にカッコいいと思う。普段の抜けてる顔はダメダメなのに、影があると途端に良くなる」
色々と凄い事を言ってるが、僕の意識は朦朧としてきた。
「ねえ、なんで酔い潰れた私に手を出さないの? いつもはエッチな事ばかり考えてる癖に、そういう所は相変わらずだよね」
反論する気があったっても、声も出せない。
彼女は優しく僕の瞼に手を置いた。
視界を遮られ、意識が遠のいてく。
「ニールがセイナに膝枕して貰ってた時、凄く羨ましそうに見てたよね。 フフフ、素直に言えばいいのに。 私なら朝まで一緒に寝てあげるわ……」
その言葉が最後の記憶だった。
僕は苦しさのあまり、気絶した。
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