魔王様だって遊びたい!

自由人

第1話 我は魔王なり

「魔王よ! お前を倒して世界に平和を取り戻す!」


(はぁぁ……そのセリフも聞き飽きたな……これで何十人目だ?)


「人々の希望を背負い、愛と平和のため、その悪しき存在を討ち滅ぼしてみせよう!」


 剣を構える勇者。相対するは、玉座に佇む魔王。


「よく来たな勇者よ。そなたの力、大いに役に立つ……どうだ? 世界の半分をくれてやるから、我の下につかぬか?」


「世界の半分だと!?」


「そうだ。我が世界征服を果たした暁には、世界の半分をやろう……その半分で、人間たちが好きに住めばよかろう」


「それは中々いい案ではないか。要は魔族と人間で住みわけるってことだな?」


(えっ!? 納得するのか? 案外、物わかりがいい方なのか?)


 魔王の話に乗ってきた勇者の言葉を聞き、存外に捨てたもんではないと、考えを改めてていた。


「そうだ。種族を滅ぼそうとするから反発する。住み分けた後は、干渉しないようにすればいいだけのこと」


「それでも干渉する奴はいると思うぞ」


「そんな国は滅ぼしてしまえ。今回も人間たちから売ってきた喧嘩だ。我から言わせてもらえば、攻めているのは正当防衛だ」


「人間たちからだと!?」


 魔王の言葉を聞き、勇者は聞かされていた話と違うことに、混乱をきたす。


「そうだ。この広大な土地が欲しかったのだろう。欲に目がくらんで攻めてきたのは、人間たちだ」


「俺が聞かされていた話とは違うな。魔族が女子供を攫っていき、このままでは、小さな村から滅んでいくと言われたのだが?」


「それはないな。大方、嘘を吹き込まれて、いいように利用されたのだろう」


「なん……だと……」


 魔王から伝えられた真実に、勇者は、両手を地面につけ項垂れてしまう。


(隙だらけなんだけど……武器を手放すのはダメだろ)


「もしかしたら、我が嘘をついているということもある」


「何っ!? お前も嘘をついているのか!」


 魔王の放つ嘘という言葉に、勇者は顔を上げ、力強い視線を向けていた。


(うわぁ……騙しやすい。今までよく無事に生きてこれたな……)


「今のところそれはないが、そういう可能性は、頭の片隅にでも入れておいた方がいいだろ? 騙されないためにも」


「そうか!  そういう事か!! 魔王、お前は中々良い奴だな」


 勇者の騙されやすさに呆れ果てる魔王だが、そんな気も知らず、立ち上がる勇者の手には、もう剣は握られていなかった。


(えぇぇ……これだけでいい人認定されるのか……よし、こいつに決めた!)


「そこで提案だ、勇者よ。魔王になってここに住んでみないか? そうすれば正当性なく、人間たちが攻めてきているのがわかるだろう。立場を変えれば、見えてくる世界も変わる。良い勉強になるぞ?」


「そうか! それを体験することで、魔王が嘘を言っていないとわかるのだな」


「それもあるが、それだけではない。魔族が本当に、滅ぼすべき種族なのかもわかる。たとえ魔族だろうが、自らの家庭を持ち、生きているんだ。人間と何ら変わらない上に、違うのは種族と見た目だけだ」


「そうだったのか……」


「人間は、種族と見た目が違うというだけで、すぐに排斥しようとする。最悪なのは、同じ人間同士でもやるということだ。あいつらは何がしたいのかさっぱりわからん。お前は、そんなことをするような奴には見えないから、安心して魔王にすることが出来るのだ」


「今思えば、確かに人間の権力者たちは、自分たちが正しいと思っている節がある。他種族の奴隷化を推奨していたり、同じ人間同士なのに、強引に奴隷にしていたりと……ははっ、俺は何の為に戦ってきたのだろう……魔王に言われるまで、こんなことにも気づかずに、いいように扱われるなんてな……」


 魔王に指摘されたことで、自嘲気味に勇者が己の蒙昧さを語っていた。


「気づいただけ良いではないか。これからは、人間たちに簡単に騙されることが、なくなるということだ。今までのことは、いい勉強だったと思って、これからの糧にしろ」


「ありがとう、魔王。俺、頑張ってみるよ」


 魔王からの言葉に、勇者は決意を新たに、開いていた拳を強く握りしめた。


「そうか、ではこの玉座に座るとよい。それだけで、勇者は魔王になれる」


 魔王は玉座の傍らに立ち、勇者を玉座へと誘う。


「魔王になるのって簡単なんだな。強い奴らと戦って、1番強い奴がなるのだと思っていた」


 勇者は玉座に歩み寄り、魔王に誘われるまま座るが、何の変化も見られず、不信に思った勇者は、魔王に尋ねた。


「何も起こらないな。これで、本当に魔王になっているのか?」


「正式な魔王になるには、先程勇者が言っていたように、戦わなければならない。魔王が存命しておらず、空位であればな」


「今回は魔王がまだいるから、それがないわけか」


「そうだ。現魔王が指名さえすれば、仮魔王が出来るのだ。よって勇者は現在、魔王(仮)となった」


「よし……それなら、今日から俺は魔王(仮)として、魔王が、ここで何を見ていたのかを学ぶこととする」


「1人では何かと不便だろう。優秀な配下の者をつける。セバス!」


「ハッ! ここに」


 そこに現れたのは、執事然たる風貌の魔族であった。


「これから、ここにいる魔王(仮)の補佐を務めろ。未熟故、お前には苦労をかけるかもしれないが、くれぐれも頼んだぞ」


「勿体なきお言葉。このセバス、見事その任を全うしてご覧にいれましょう」


「よろしくお願いします。セバスさん」


 魔王とセバスのやり取りが終わると、勇者がセバスへと挨拶をしたが、早速セバスが、そんな魔王(仮)を諌めた。


「魔王(仮)となったお方が、そのようにへりくだってはなりません。私のことは、どうぞセバスと呼んでください」


「わかった。セバス」


「よし、後のことは頼んだぞ。我は今から、人間たちの国に赴き、見識を広めてくる」


 魔王のいきなりの出国発言に、魔王(仮)は不思議に思い尋ねてみることにした。


「魔王は人間の国に行くのか?」


「そうだ。立場が変われば、見方も変わると言っただろう。我は人間側から魔国を見て、より良い国造りを行いたいのだ。その為にも、人間たちの社会へと、行かなければならん」


「魔王は立派だな。俺も負けないように、魔王のいない間、この国を守ってみせる!」


「頼んだぞ。もし何かあればセバスに言え、我との連絡が取れる。可能な限り、自らの力で解決してみせよ。その経験が、お前をより高みへと導いてくれるはずだ」


「あぁ。魔王も頑張ってくれ」


「では、また会おう。さらばだ」


 魔王は転移魔法を使い、その場から消える。残されたのは魔王(仮)と執事のセバス。


「セバス、これからよろしく頼む。魔国を良い国にしよう。人間社会にいた、俺の知識が役に立つこともあるだろう」


「ハッ! 仰せのままに」


「差し当たっては、人族の進軍か……セバス、現在の戦闘区域に魔族、人族の勢力図がわかるものを作成しろ」


「御意に」


 魔王(仮)の言葉を受けて、セバスもまた転移魔法にてその場から消える。


「ふぅ……魔王を倒しに来てみたら、俺が魔王になるなんてな。人生何が起こるかわからないものだな……」


 誰もいなくなった玉座にて、魔王(仮)は独りごちるのであった。

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