第267話 赫く染まる世界
ワン・ツッ・スリー
ワン・ツッ・スリー
回る回るワルツのようにくるくると。
そこでは少女は人では無かった。
人としての尊厳である服は剥ぎ取られ。
手で隠すことすら許さないと天井から吊り下がる鎖に両手を縛られ吊される。
尊厳を剥ぎ取られ少女は動物園の動物。
ガラス張りの檻に入れられる見世物。
いやその方がまだ幸せだった。
少女は実験動物。
美しい肢体にはセンサーパッドが各所に貼り付けられ、体の内も外も丸裸。
脳波心音発汗血流腸内etcetc。
赤裸々に晒される。
少女はフォアグラ。
おいしく刈り取る為、歪に飼育される。
伸ばされ晒された脇にはチューブが刺さって強制摂食。
チュルチュルぶくぶく特殊な栄養剤が少女の体に注入されていく。
おいしく炙られて体の毒素がぷくっと丸い汗となって肌から湧き上がる。
湧き上がった無数の汗玉は肌に弾かれ流れ落ち雨の如く床に降り注ぐ。
一切の尊厳無し一切の人権無し。
奴隷動物家畜として少女は少女という物として扱われる。
だがそれすらまだ温い地獄の入口。
少女には最後の聖地、精神の自由すら許されない。
口には手術で使う呼吸器が取り付けられる。
特殊ガスが絶えず注ぎ込まれ味覚が消え脳はトリップしていく。
耳はゼリー状のものですっぽりと包み込まれる。
骨伝導イヤホンから流れるトリップ音意外は何も聞こえない。
瞼は接着剤で開いた状態で固定される。
強制的にVRゴーグルが映し出す狂気の映像が網膜に映り込む。
五感を剥ぎ取られなお少女への冒涜は止まらない。
美しい頭部には人が生理的に嫌悪する細く長く銀色に光る針が突き刺さる。
針はワイヤーから伝わる電気信号を脳に流し込む。
ワン。幸せな家庭、両親家族に包まれる揺り籠のような幸福
ツッ。詐欺に遭い破滅する両親。ヤクザに拉散られ商品として弄ばれる日々。
スリー。悪魔に拾われ誓った復讐の海を泳いだ果てに覚醒する魔。
ワン・ツッ・スリー
ワン・ツッ・スリー
回る回る人生のワルツ。
絶望と怒りがくるくる仲良くステップする。
ワンツッスリー。
ワンツッスリー。
少女は悪意と肩を組んでダンスする。
少女がいる地獄、そこは元は広いリビングだったのかも知れないが今は簡易的に改装されて工場のクリーンルームのようになっている。
部屋の中央にはガラスで囲まれた檻が設置され、空調だけで無く排水設備も整えられている。
奴隷、見世物、実験動物と呼ぶことすら生ぬるい少女を白衣を着た男達がタブレットを片手に観察している。
「どうだ?」
「ああ、もう大分固形状の排出はされなくなったな、もう直ぐ体の御祓は終わるかもな」
少女はここに連れ込まれるなり浣腸を念入りにされ腸内から汚物を徹底的に排出させられた。それでも吊された当初はまだ汚物が垂れ流されたが、最近では固形物はほぼ無くなり排出されるのはどろっとした液体ばかりとなっている。
なぜそんなことが分かるかといえば、少女が排出する汗や汚物も排水設備を使って集めて分析しているからである。
少女がこのことを知れば自殺ものの羞恥だが、白衣の者達に辱める気はなく科学者の冷徹な目で少女を観察する。
「よし。それで精神の方はどうなっている?」
「脳波サイクルのブレやノイズは無くなってきている。綺麗にサイクルが重なるようになってきた、順調に純度は高まっている」
強制的に見せている過去の幸福と地獄のサイクルによって男達が求める以外の少女の感情が削ぎ落とされていく。
「いいぞ、これなら予定通り二日後には最高の状態でマテリアルに生成できるな」
「ああっ、乃払膜様は御祓に入る為の瞑想を行い魔力を高めている。材料の精製を俺達に任せてくれた期待に応えられそうだ」
ほっとした表情を見せる白衣の男達は乃払膜の弟子達。
乃払膜は魔を魔術に昇華した魔術師。その為弟子を取り魔術の一部を弟子に伝えているのである。彼等も簡単な魔術くらいは扱うことが出来るが、どちらかというと科学者に近い者達である。
「真の愛か、それが地上に降臨したときかつて救世主が現れたときと同じくらいの変革が人類に訪れる。早く見てみたいぜ」
そう語る弟子の一人の目は夢を語る子供のような純真に輝いていた。少女の一切の尊厳を剥ぎ取るような者達がこんな目をして夢を語る。
「全くだ」
白衣の男達の間に弛緩した空気が漂ったときだった。
世界が赫く染まった。
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