第250話 デート
「ねえ、瞑夜~これ買ってよ~」
俺はショーケースに並ぶタブレットを指差し瞑夜に寄り掛かるようにして甘えきった声でおねだりする。
鬼だというのに女は女なのか、寄りかかれば暖かく柔らい肉に眠くなり香る甘い血の香りに眠気が覚める。
黒服を着こなしスッと立ち凜々しい瞑夜、よれよれのスーツを着てくたびれた俺。このヒモの駄目男がと俺は一瞥され、注目は瞑夜の方が集めてくれる。
警察署から逃げ出し、警官から装備を頂いた俺だ。五津府や如月さんが味方してくれたとしても止められない、警察は威信に賭けて俺を捕まえようとする。恥を晒すのを嫌って公開捜査をしてないぐらいしか期待できない。
それだけのことを俺はした。
警察は敵。
御免なさいは通用しない、黒幕を捕まえる以外表社会に戻る道はなく。
しくじれば廻と共に世界を引っ繰り返すしか残る道は無し。
崖っぷちの俺としては、僅かでもリスクを減らしていく。
明るく真っ直ぐなメインストリートから一歩裏に入った細く曲がりくねってどこか薄暗い裏道。ごちゃごちゃと店が互いに寄り掛かるように並ぶ中、外からは中が全く覗けず中に入ってもごちゃごちゃと詰まれた商品に視界を遮られる店。歩けば埃が舞いそうな今時ちょっとない古くさい店の中、客は俺達の他に一人居るくらい。そいつも俺達のことをバカップルと鬱陶しそうなオーラを放っている。
最近はすっかり通販が幅を効かせる中でも探せば古式ゆかしいパーツ屋が生き残っている。現状住所不定の俺としてはありがたい。
「何で私が」
瞑夜が声を押し殺し今にも俺を殺しそうな殺気を伴って言う。
「おいおい、俺達恋人、恋人のフリをする。仕事だろ仕事」
「むむっむっ」
「笑顔笑顔」
小声でひそひそとやり取りをする。
「もうセリったら甘えん坊さんなんだから」
何で欲望の化身鬼に飲まれたか分からないほどに瞑夜は真面目な委員長タイプ。仕事と言えばチョロい。
多少引きつった笑顔で俺の額を指先でちょんとする。
「なんで私が買わないといけないんだ」
「しょうが無いだろ俺金が無いんだから」
「本当にヒモか」
「早くしないと手遅れになるぞ。部下の失態はくせるの失態」
「もうしょうがない~」
瞑夜は固まった笑顔のままに財布を出してくる。
「それとこれとこれもお願い~ね」
ウィンクと共に目星を付けておいたパーツを二~三追加する。
「もうほんとしょうがないな~」
「これで失敗したらどうなるか分かってますよね」
「分かってるよ」
どうせしくじれば俺の人生は終わりだ。脅しを掛けられても躊躇うことなど無い。
これで失った装備の補充としてタブレット他部品を手に入れることに成功した。性能的には俺が使っていた物より劣るが何とかする。それこそ元と同じスペックを求めたら瞑夜が切れるし入手に時間が掛かる。
道具に拘るのもプロだが、ある物で何とかするのもプロ。
腕を組んだまま店を出た俺達は路地をぐるっと回り、これまた古式ゆかしい連れ込み宿に入るのであった。
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