第226話 勝利? 

 仕掛けておいた信号式の対人地雷。ここで戦うことは分かっていたんだ、俺は信号式の対人地雷を予め辺り一帯にセットしておいた。

 ここは策士が決めた死地であり、今その一つの起動スイッチを押したのだ。

「ぐおっ」

 地面に顔を伏せたが頭の髪が爆風で持って行かれそうになる。火薬の威力を抑えておいたが、やはりこんな閉鎖空間での使用は危険だった。逃げ場の無い爆風が圧縮されて凄まじい上昇気流となっている。

 俺も伏せてなかったら、ぼうっと立って観戦していた大野みたいに舞い上げられていただろう。殻も死にはしないだろうが足を砕かれ上に吹き飛ばされたはず。上手い具合に地面に落ちてくれれば再起不能のボーナスも狙える。

 だが油断は死を招く。俺は戦果を確認しようと頭を上げて薄れ往く煙の向こうに目を凝らす。凝らす視界の隅に影が過ぎった気がした。

 策士とはいえ修羅場を潜って磨いた勘が思考するより先に体を動かす。

 ドーーーーーーーーンッ、1秒前にいた空間が踏み抜かれ地面が砕ける音が轟く。

 見れば地面を踏み込んだ殻が五体満足で立っている。

 地雷が炸裂する瞬間に自ら上に飛んで威力を相殺したというのか? 

 陸上生物は地面を本能的に信頼している。信頼してなければ外を歩けやしない。それ故に地面からの奇襲裏切りである落とし穴や地雷は面白いように決まる。なのに殻は足の裏にまで警戒し爆発前の僅かな微震から直ぐさま退避した。何処まで隙の無い奴なんだ。

 俺が慌てて起き上がって間合いを取ろうとするより早く殻は踏み込み、俺の首を鷲掴みしてきた。

 鋼鉄の杭のような指が五本俺の喉に食い込んできて気管が潰されていく。

「ぐうううう」

 俺は両手で片手を振りほどこうとするが食い込んだ指はぴくりとも動かせない。俺は痛みと呼吸困難の苦しみを味合わせられつつ、持ち上げられていく。

 されるがまま、俺は膝立ちになる。

「惜しかったな。紛争地域で一度地雷には痛い目に合っているんだ。自然と警戒するようになった。

 この程度で策士を気取るな、策士を気取るなら前線になぞ出てくるな」

「俺は現場主義なんだよ」

 付け加えるなら資金不足で前線の兵士が雇えない。

「減らず口を」

「ぐあああおさあああああ」

 更に手は上がり俺は呼吸不全のままに立ち上がらせられる。

 俺は両手で振りほどこうとするが殻の片手はビクともしないし、酸素が回らなくなり徐々に腕に力が入らなくなっていく。

「無駄だ」

「はふゅーー」

 俺が最後の力で放った膝蹴りを殻の空いているもう片方の掌で軽く受け止められた、そして足掻くな躾だとばかりに更に殻の指が喉に食い込んでくる。

「言い残すことはあるか?」

 勝利を確信してなお力を緩める様子無く遺言を尋ねてくる。

 くっそたれが、これじゃしゃべれないだろうがと悪態を付く頭も霞が掛かってくる。

 いよいよ酸素が頭にも回らなくなってきた。俺も覚悟を決めるときか、「さらばだ」と喉を握り潰そうとした殻が急に俺を解放した。

 地面にへたり込むが、立ち上がるより先に俺はありったけの酸素を吸い込む。

「はあはあはあ」 

 何が起きた?

 奇跡で殻に仏心が湧いたかと見上げれば、その殻に星光りするリングが双曲線を描いて襲い掛かっていた。

 銃弾ですら躱す殻が銃弾よりも厄介そうにリングを躱し、そのリングが戻っていく先には。

「やっと来たか」

「来てしまったか」

 俺は不敵に殻が嘆く視線の先、この広場の闇しか無かったはずの角の空間に天上からの星明かりにに塗されたポニーテールを靡かせる少女が居た。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る