第148話 いこっか
「はあ、はあ」
ここまで走ればあんな享楽の権化ギャルなんぞ振り切れただろ。口惜しいが「天空のエスカレーター」はデートコースから除外。次の「高層ジェットコースター」に行くかと顔を上げると、そこにはにやにやしたギャルがいた。
「いきなり逃げるなんて酷くない?」
「俺に追い付いた?」
一度振り返ったときには姿は見えなかった。振り切ったと思ったが完全に撒くために念を入れてここまで走ってきたというのに。
「シュガー、甘い。この街はアッシーの庭みたいなもん、先回りなんて余裕余裕」
此方を指差して無い胸を張って得意気に言い放つ上半身と対象に、チラッと視界に入る下は裸足、野生児みたいだ。格好を気にするギャルが人目をかなぐり捨ててきたか、それでもだ。
「だとしてもなぜ追いつける? たかがギャル如きが」
先回り? 俺の行動が読まれたのもショックだが、それでもある程度走れなければ先回りなんて出来ないはず。勉強もスポーツも己を高めることなど何一つしないで享楽に遊び呆けているだけの奴になぜ。裸足になったところで先回りされたところで、力業で振り切れたはず。
ぺこん、デコピンされた。
「アッシーを舐めんなよ。これでも水波流空手やってんだから」
「空手? ギャルのお前がか?」
己を高めるためにストイックに生きる武道家とは対極的な存在じゃないのか?
「それって偏見です~」
「偏見というか、見た目の情報からそう判断しただけだ」
人は見た目じゃないと言うが、それは建前だ。
人間より本性を見抜きそうな野生の動物を見てみろ、番を射止めるのは美しい雄だ。
犬は臭いで相手を見極めるように、人は一番発達させた目で人を判断する。
立派そうに見える奴は立派だと思うし、清楚そうなら清楚だと思う。
ギャルの格好をしていれば、ギャルだと思って何が悪い。
髪型顔付きはどう見てもギャル。
服装はこの寒いのに太股を晒すため裾を破ったジーンズの短パン。肩開きバックリボントップスの白セータで胸元と肩を晒した格好。申し訳程度にカーデガンを掛けている。
服装だってギャルじゃないか。
これでギャルだと思わない方がどうかと思うが、晒された太股や肩など意外と引き締まっているな。控えめだと思った躰付きは引き締まった結果なのか?
もしそうなら俺は見誤ったということか。
「っで気が済んだわけ~なら今度こそアッシーの話聞いて貰うじゃん」
「そもそも俺がお目の話を聞く理由がないと思うが?」
冷静に考えなくても俺が此奴のお願いを聞く義理も義務もメリットもない。
「しんじらんな~い、アッシーのお願いを聞かない男なんていなかった」
「それはお前の躰目当てなだけだろ。それ意外の理由があるか」
びゅっと風を切る音と共に俺の喉元に裸足の足刀があった。
「あんまなめってこと言ってると泣かすよ」
技の切れといいなかなかの迫力、これなら睨みが効く。さぞやギャル同士の縄張り争いから大人しい生徒への威嚇へと役に立ているのだろう。
ここで引くわけにはいかない。ここで引いたら引いただけ付け込んでくる。
「やってみろよ」
民間人に手を出したとしても、例えギャルとはいえ少女に手を出したとしても、先に手を出された上での反撃なら許されるだろう。
「つよがちゃって、アッシーに手を出す勇気なんか無いヘタレ君のくせに」
「俺が手を出せないと思っているのか?」
押す押す、そして先に手を出させる。
「手を出すんだ」
「出すさ」
「啼かしちゃうよ」
「泣かせて見せろよ」
「じゃっ」
ギャルは足を綺麗に折り畳んで立つと唐突に何でも無いように言う。
「じゃっホテルいこっか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます