第14話 静寂

「どりゃああああ」

 西村が俺に襲いかかってきた水の手の一つを砕く。西村は俺に助けられたからなのか、命令通り土台と成り動けなくなった俺を守ってくれている。

「きぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「きゃあきゃあ」

 西村の彼女とさっき助けたギャルも何か叫びながら俺を掴んだ水の手を砕いてくれている。

 水の手は脆い、あくまで徐々に体力を奪い恐怖を与えていくのが目的なので女でも砕ける弱さになっている。悪意が裏目に出た格好だ。

 後は自分を守るのに精一杯のカップルといつの間に傍から消えたカップルもいる。

 みんなが生き残る為必死で戦う。水が砕ける音、叫び、様々な音が織りなしていた。

 その音が静まった。いや吸収された。

 山間部に降りしきる雪、雪は音を吸収し静寂に包まれていく。

 今それが極限にまで凝縮する。

 旋律が奏でられ、凝縮する静寂が訪れた。

 ただ皆悟る。これは大崩壊の訪れを告げる静寂の音色。

「雪月流 第二楽章 雪崩」

 時雨さんが音叉を静寂を切り裂くように振り払えば。

 両側を遮る水槽が共振した。

 ガラスは白く輝き、そして砕け散った。

 ばしゃーん、雪崩の如く砕けた水槽から水が大量に流れ込んでくる。

「うわーーー」

 濁流に足下を掬われ倒れ呑み込まれていくカップル達。それを見て俺は時雨さんの足首を掴んで屈んだ。

「何をするつもり!」

「天井に放り投げるんだよ」

「まって」

「待たない。お前がまずは助かれ、そうで無くては誰が俺達を助けてくれるだっ」

 俺は時雨さんを天井に向かって放り投げ、力尽き倒れた俺もまた濁流に呑み込まれた。

 呑み込まれ水の中から空を見上げれば、時雨さんが羽ばたいていく姿が見える。

 両手を広げてバランスを取り、空で姿勢を正していく。鳥のようであり天使のようであった。

 本当に美しい、人の身でありながら羽ばたいている。

 その美しいものを見ながら俺は果てなく水底に沈んでいく。

 こんな最後なら悪くない。

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