第8話 お馬さんプレイ
スーと溢れるように水槽を伝ってくる水の手は床に落ちるとそのまま水が流れるように床に広がっていき、突然跳ねた。
「くっ」
襲いかかってくる水の手だが、俺が腕を払うと水風船の如く砕けた。
「俺でも倒せる?」
ちょっと安堵しそうになるが気を抜ける暇は無かった。それこそ寄せては返す波の如く切れ間無く水の手が襲いかかってくる。
「うざいっ」
バシャッバシャと景気よく水の手を砕いたが、砕かれた水の手はただの水となって床に溜まっていき、ぬるっとした。見ればもう靴の底が埋まるくらい水が溜まっていて、砂利だったはずの床が泥に変わっていた。
まずいっ。水の手を砕かなければ何をされるか分からないが、砕いていても水位がどんどん上がっていく。まさか、このまま天井まで水位が上がるのか。焦りが背中を駆け上がり打開策をと、視線を少し外せば、他のカップル達も恐怖から逃れるように懸命に腕を振るって水の手を砕いている。
そして最も気になる時雨さんに視線を向けると、時雨さんは取り出した小太刀で水の手を切り裂いていた。見事に切り裂いているが完全に足は止まっている。時雨さんも足を泥に取られている? 願わくば、様子見だと思いたい。
どうする?と考えつつも手を動かし続け水の手を砕き続けているが、服は濡れ重くなり段々と手を動かすのが億劫になってくる。更には足首までが水に埋まってくる。
じり貧どころじゃ無い、速攻で手を打たないと手遅れになる。
「時雨、旋律を奏でないのかっ」
俺は水飛沫でうまく回らない口で強引に声を出すべく、叫んだ。
「怒鳴らないでよ。これじゃ足が取られてうまく舞えないんだ」
苛立った声、時雨さんには俺が早く助けろと怒っていると捉えられたようだ。だが今はそれを悲しむ余裕は無い。悲しむより早急に床を何とかしないと。
俺はもうこの後はぶっ倒れてもいいと覚悟を決めた。
「根性ッ」
田んぼから足を引き抜くように、かぽっと強引に足を引き抜いては時雨さんの方に向かっていく。足が乳酸でぱんぱんに成りそうな直前に何とか時雨さんの前まで来れた。
俺と凜と鋭くなった時雨さんの目が合った瞬間俺は床に手をつき叫んだ。
「俺を踏めッ」
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