昴の話(3)高柱天の唯一無二の愛娘
「なんでだかわかるかい。……そう、そういうことだいな。僕に搭載された【理解装置】は、理解なんて耳触りいい名前がついてるけれども、要は相手の主観的感覚をコピーするってな能力のこったね。そのときに、感情なんてーのは、コピーのペースト先である僕に負担が多すぎる情報なんな。……僕を生み出すための前の【人体実験】だと、どんなに強い個体でも五人ぶんの感情をコピーアンドペーストしたら発狂しちまったようだかんなあ」
そういった非人道的な人体実験の繰り返しの末に、高柱昴は、誕生した。創られたときにはすでに、十歳児として生まれてきたという。十歳にしては背も低く幼めな容姿だった。高柱天が十代という年代を神聖視するほど愛していたゆえだという。
その時点で昴の【意識】も生まれた。
誕生した時点で昴はすでに、知能も知性も知識も、おとなにしたって充分すぎる質と量のものを有していた。生まれたその日から、昴は一年間にわたって高柱天のとくべつな個別教育をじっくりと受けた。そのさまはドキュメンタリーとして各メディアで放送され、最終的には名高い監督のもとで映画にもなった。
「……まあ、あのひとがだれかにじっくりつきあうなんてーなこと、それまでなかったかんな。教授のポストも世界指導者の家庭教師も山のようにお誘いが来てたみたいだけんど、あのひとにとってそんなん一枚のティッシュペーパーみたいなもんだ。あのひとはバグインザワールド。人間として生まれついたくせに、人間では通常ありえないレベルのその頭脳、天真爛漫な少女のようでいて他者を殺すことなどなんとも思わない、足もとにどんどん死体を積んで高すぎる理想に近づいていくひとだ、【高柱天】ってな名前はまさしく彼女にふさわしいやいね」
高柱天のはじめての教育――それは言ってしまえば教育というよりは洗脳であった。高柱天は、【この世にあるタレントのすべてをコピーしてくること】を高柱昴に徹底的に教育した。昴には自由意志が搭載されていた。
タレントのコピーが目的ならば、高柱昴というアンドロイドに自由意志を搭載する必要はなかったのでは、という質問に、髪をかき上げて高柱天は答えた。
『自由意志がなければそれは機械に過ぎないわ。この子は人間、人造人間、わたしのつくった【まったき人間】。タレントのコピーだけなら、性能のいいロボットを百体だかその程度つくって理解装置を嵌め込めばいいだけよ。単純作業よ、そんなの単純作業、物体を変換させていくだけ、伝言ゲーム以下だわ。そんなうつくしくないこと、このわたしがすると思って? アナタ、かわいそうに頭が足りないんだろうけど、もうすこしちゃんとお勉強したほうがいいのではなくて?』
そして、話はぐるりとめぐって最初の話題に戻っていく。
昴に課された教育プログラムのなかには、理解装置のシステムチェックもあった。つまり、いついかなる状況でも昴が感情を感じないということを確認するための、――その実態は人体実験だ。
昴が十一歳の誕生日を迎えて盛大な誕生日パーティーが催された翌日、高柱天研究所に【学校】が開かれることになった。昴のための、学校である。もっと正確に言うのならば、昴の感情機能をチェックするためだけの。
高柱天研究所の次世代を担う子どもたち、といって紹介された五人の子どもたちは、にこにこにこっと希望に満ち満ち溢れたみたいに昴に微笑んでいたが、――彼らは金で買われた子どもたちだったのだった。
「金なんざ湯水よりもあったしねえ。とかく僕と同世代の子ぉらを買い集めて回ったらしいよ。けれどもそのあと厳しい訓練を課してなあ……うまいこと笑えない子は廃棄処分、したんだと。僕に対して友好的になれない子ぉはゴミってわけだ」
そんな彼らだったから、あっというまに昴に取り入った。昴のほうにも拒絶する理由はなかったから、一年間かけて、傍から見れば彼らはとても仲のよい【友だち】となっていた。
そして一年後、昴が十二歳の誕生日を迎えて盛大な誕生日パーティーが催された翌日、五人の【友だち】たちは、昴の目の前であっけなく殺された。
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