第48話 遠藤直経

 竹中久作重矩は、おやっ、と思った。

 報告に来た使い番に、引っかかるものを感じたのだ。

 何だ・・・・・何かがおかしい。

 何かが妙だ。

 使い番がゆっくりと、主君織田信長に近づく。

 その歩幅、歩き方、肩幅、背丈。

「まさか・・・・・」

 重矩は駆け出し、使い番に体当たりを喰らわせる。

 あっ、と皆が驚く、構わず重矩は使い番に馬乗りになり、その兜、そして面頬をむしり取る。

「やはり、遠藤どの」

 間違いない、使い番のふりをしていたのは、浅井の家臣、遠藤喜右衛門直経だ。

 クッと呻き、ガッシリとし体付きの直経が、上に乗る小柄な重矩を跳ね飛ばす。

「織田三郎」

 ガバッと起き上がり、直経は短刀を構える。

「覚悟」

 バッと身を低くして、直経が信長に襲い掛かる。

 サッとその前を、信長の左右に居た、黒母衣衆組頭の佐々成政と、赤母衣衆組頭の前田利家が遮る。

 シュッと成政の太刀が閃き、直経の右手が短刀を持ったまま、斬り飛ばされる。

 ズバッと利家の槍が走り、直経を串刺しにした。

 グホォと呻き、血を吐いて直経が膝をつく。

「おまえ・・・・・新九郎の傅役の」

 成政と利家を押しのけ、信長が直経の前に出る。

 ギッと直経は信長を睨む。

「こんな事ならやはりあの時、佐和山で殺しておくべきだった」

 ジッと冷めた目で直経の見つめながら、信長が命じる。

「久作、其奴の首を撥ね」

「・・・・・・ははっ」

 ススッと進み出て、重矩は太刀を抜く。

「遠藤どの・・・・・この様な事になり、まこと残念です」

「久作・・・・」

 ククッ、と笑い直経は重矩を見つめる。

「私は、そして兄は新九郎さまの器量を認めておりました」

 淡々と静かに重矩は告げる。

「殿の、そして公方様の下で、その器量を活かし、天下に名を残す、そう思っておりました」

 ハハハハハッ、と大声で直経は笑い、ゴボッと血を吐く。

「わしがお前ら兄弟の話を聞き、新九郎さまに織田と手を組むよう勧めたのは、織田を踏み台にして新九郎さまが天下を取るためよ」

 ガバッと直経は信長に向き直る。

 ササッと成政と利家が、信長の前に出て警戒する。

「織田三郎、何が天下布武じゃ」

 ゴボゴボと血を吐きながら、直経は吠える。

「家臣を見捨てて越前から逃げ帰るようなお前に、腰抜けのお前に、天下に武など布けるものか」

 カッと信長は直経を睨み、成政らを押しのける。

「久作、サッサと其奴を斬り捨てい」

「・・・・・御免」

 スゥゥと重矩は太刀を振り上げる。

「新九郎、ご武運を」

 長政が居るであろう戦場の方に向かい、直経はゆっくり頭を下げる。

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