桜の檻
零-コボレ-
桜の檻
ふわり、ひとひら桜が舞った。
うすいうすい、そのはなびらが、色素のうすいあなたの肌にひらり、おちる。
まさに「春」といった、ゆったりと揺れ動く暖かい木漏れ日の中のその光景に、僕は少し見惚れてしまって。
「なぁに、どうしたんだよ」
ふわり、という擬音で表すにしてはすこし意地の悪い笑みを浮かべる。
「・・・何にもない」
意地悪くきらめく瞳からつい、と目をそらす。
「ふーん、いつもはそっちがこうやってやってくるくせに」
そらした先まで回り込んできて僕をのぞき込むあなたの意地悪な瞳が、でも限りなくうつくしいと思ってしまうのは惚れた側の弱みだろうか、惚れこみすぎかな。
そっぽを向く僕と楽しそうにふふふと笑うあなた。
「・・・また、春が来たね」
「何年、たったかな」
ぽそり、と僕が呟く。
「・・・さぁね」
桜散る、地面の灰色に落ちるピンクをほそい目であなたは眺めた。
その目のなかの花は、あの日と同じだった。
おろしたての制服を着て走ると、すこし暑さもかんじられる。
コートをもう片付けようかなんて考える、そんな気温に寒い日々の終わりを感じながら。
春・・・その代名詞である桜は、しかし咲いてすぐ散ってしまう。
4月って春のようでまだ初旬は寒い、つかの間の季節である春はすっと僕のことを無視するように目の前を通り過ぎ、すぐ温度を上昇させてしまう。
まだあかるくフォーカスのかかったそら、さっきまで降っていた雨は止んだようだけど晴れてもいないよう、どっちつかずのこの気温と宙ぶらりんの気持ちとおそろい、がしたかったのかもしれない。
駅の階段をたん、たん、とあがる。まだ馴染みのない行為、これから三年間、いったい何日この階段を上り下りするのだろう。まだ新鮮な空気もいつかは古くなって、最後はセピア色になる、きっとそうなんだろう。だから楽しめるうちに楽しんでおくのがいい。
ど平日のひるまの電車は人が少ない。ゆらりるら、ゆれる、小刻みに鞄が微細動。
この路線の家からの最寄り駅も、学校の最寄り駅も普通しか止まらない。のんびりいくのもいいけれど時間はかかる。楽しめる余裕はいつまで続くかな、人がいない各駅停車の方が、ずいぶんと気が楽だけれども。
窓越しに、ひゅ、と特急が過ぎ去っていく。
二十分とすこし、電車に揺られたらしらない町の駅のホームに降りる。いつまでこの景色を「見慣れない」と思えるんだろうか。
改札口からでて、くるりとあたりを見渡す。
知らない町知らない人知らない空気。ここで三年間過ごす、ってあまり実感がわかないな、なんて考えながらスマホのマップをたよりに道を曲がる。
と、突然、目の前に大きな木が現れる。
その木には五・・・いや、そんな言葉があるかわからないが四分咲きだろうか、まだ満開でない桜のつぼみがたくさんあった。
「・・・大きな木だな、、、咲いたらピンク色でいっぱいになるな」
ぽつり、とひとつ植わっているこの木は、とても大きい。
どれくらいの大きさなのだろうか、幹はずいぶん太いけれど。
まだ時間には走らなくても間に合う。
「やっぱり大きいなぁ、、、咲いたら路面がピンクで埋め尽くされそうだ」
上を向いて歩いていると。
どんっ、と肩に衝撃を受けた。
「っごめんなさい!!!」
条件反射で謝る。ぱっ、と顔をあげると、そこにはすこし驚いたような、かわいらしい表情を浮かべた子が立っていた。
「・・・あっ、こちらこそごめんなさい」
そういってふわり、柔和な笑みを浮かべる。
息が止まるような、、、陳腐な表現さえもうつくしく聴こえてしまうような、笑顔。
よくよく相手の制服を見てみると、僕が着いているものと同じものであった。
「もしかしてきみも、同じ高校の・・・?」
そう言うと、向こうも僕の制服を見て、こくん、とうなずく。
「やっぱりそうか~~!!」
外の市から来た僕にとっては、入学前に友達が一人でも作れるのはありがたい。
「じゃ、じゃあ一緒に学校まで行かない?」
そういうと、少し困ったような表情を浮かべてその子は言った。
「ごめんなさい、その、ちょっと・・・忘れ物をしてしまって家にいったん帰る途中で・・・」
「そうだったんだ、じゃあ早くいった方がいいね」
集合時間まで、まだ少し余裕はあるが忘れ物を取りに帰ると話は別だろう。
ん、じゃあ、とすこし困ったような表情をうかべたままのこの子に、僕は思い切っていう。
「もし、また会えたらゆっくりお話ししませんか?」
「・・・っ、うん、またね、絶対、ね!」
満開の笑顔、とはこれを指すのだろう。
またね、と視界の端に、少し咲いていたのか、桜の花が散った。
学校につくとクラス分けの発表、「ねぇ何組?」「やった一緒じゃん!」なんて声が飛び交う中、集団とはすこしはなれた所に僕は立っていた。立たざるをえなかった。
市をまたいで来た学校に知り合いはいない。いやもしかしたらいるのかもしれないがもともと喋ったことがないならば同じようなものだ。
それよりさっきのあの子・・・さすがに遅刻したとしてもこの時間にはついているだろう。
きょろきょろとあたりを見渡すが、・・・ここには300を超える人がいるのだ、そう簡単には見つけられない。
さすがにここで探すのは無理だろう・・・8クラスかける40人、320人もいる中で一人の人間を見つけ出すのは無謀だろう・・・まぁ、同じクラスになるみたいな、そんな風にうまくいくはずもないので、何かで会えたら良いんだけど。
人の波が落ち着いたところで、僕はクラス分けの掲示を見ようと、ふらふらとボードに近寄って行った。・・・名前を聞いておけばよかったな、なんて思いながら。
既にもう「いつメン」とやらが出来始めた、三日目の帰り道。
幸いにも行動を共にすることが出来るくらいの友人はできたが、残念ながら、というか当然のように自転車で通学していた。電車通学をしている人、となるとやっぱり人数は限られてくる。
校門を出たところで友人たちと別れ、ひとりで駅を目指して歩く。
あの桜の木の下でであったあの子には、まだ会うことが出来ていない。
残念ながらうちのクラスにはいないようだ、よそのクラスをのぞき込む用事はないし、だいいち年上かもしれない。なおさら会うのが難しくなってしまう・・・。
ひとりなのでいろいろ考えつつ歩いていると、
「やっほ」
突然、横から声がした。友達がいる人っていいもんだな、地元に通ってる中学の同級生たちはこんな感じなのかと思って少し羨ましさを感じ、それを振り切るように足を速めた僕に、
「ちょっと待ってって、君だってば」
とん、と肩を叩かれる。振り向けば、そこに前のあの子が立っていた。さすがに声までは覚えていなかった、少し反省する。
「よかった、振り向いてくれた」
ふふふ、と笑い声、春の穏やかな昼下がりにはとても合う。
「あれから全然会わなかったね」
そういうと少し困った表情で、「そうだね、、、」そして「でもまた会えたから良かったよ」満開の笑顔。・・・ずるい。
「もしかしたら、またここを通るのかなー、なんて思ってたけど、正解だったよ」
「・・・あなたもここを通って学校に行ってるの?・・・電車通学ではないんだろうけど」
「・・・あぁ、うん、ここを通ってるよ」
歩きかぁ~、うらやましい、と漏らすとなんだかすまなさそうな顔をされた。いやそこまで嫌ではないんだけれど。
「そういや僕の名前は__だけど、あなたは?」
「名、前・・・・ええと、」
少し戸惑ったように、七文字の言葉を紡いだ。名前に戸惑うって、、、最近親が再婚でもしたのだろうか。浮かない表情のこの子が、少し心配になる。
「・・・あっ、そろそろ帰るね」
何気なくちらっと腕時計に目をやって、その子は呟いた。
「そうだね」
僕も、そろそろ電車が来る時間だ。
「また、お話ししようね」
そう言うあの子の後ろで、また桜の花びらが舞う。
桜は五分咲き。
クラスが始まり一週間とすこし。例年より寒い今年の春も、ようやく暖かくなりだして。
ところであの子にはまだ学校であえたためしがない。他のクラスに行かないのもあるが、廊下でも学年集会でも、全校集会でも見かけない。・・・人数が多いから見つけられない、運が悪いから見つけられない。たぶんそうなんだろう、それかもしかしたら不登校なのかもしれない、いつもどこか浮かない表情をするし・・・今までに5回、あの駅前の桜の木の下であの子に会って喋れたけれども・・・僕と話すことで少しでも気が楽になれば、なんて思ってしまう。深い事情に立ち入れる関係じゃないから、せめて。
なにをするでもなくぼんやりと過ごしていたら、後ろから肩を叩かれた。
「なにぼーっとしてんだよ~」
後ろの席の彼は、なかなか面白い存在で毎日楽しくやってるんだろうなぁ、みたいなタイプだ。
「別に中学校同じ人もいないわけだから喋りに行く人いないし、特に何もないから」
「くっそう俺がこうやってしゃべりかけてあげてんのによ」
「いやお前に仲良くされてもな・・・ていうかお前、わりとクラスでも1位2位争うレベルで人数多い中学校出身じゃんか・・・」
「別に人数多かろうと少なかろうと関係なくね?」
「そんなわけないでしょっ!」
威勢良く割り込んできたのは前の席の彼女。彼女はうるさい。とにかくうるさい・・・嫌いではないが。
「私たちはねー少ないどころか市外だから色々大変なのよ、ねっ!?」
ねっ、って同意求められても・・・。
「まぁ市内だからって多いわけでもないけどね~」
横の席の彼女もふわぁと意見を述べる。
「いやでも市内だし・・・そうでもないでしょ?」
「いやそれがね~。ほらこの写真見てよ~、同じ中学校から同じ高校行くメンツで、卒業式ノリで撮ったんだけどこんだけ」
すっごくゆる~く、校則違反であるはずのスマホを取り出し画像を見せてくる。
なるほど、二十人弱といったところか。確かに市内にしては少ないのかもしれない。
「わ~これアンタ?うわ~かわらね~~!」
「いや卒業式だからね~!?そんなに経っていないしイメチェンとか一切してないからさ~」
女子二人がきゃっきゃきゃっきゃ盛り上がる中、あ、これうちのクラスの奴だ、よな?なんて思いながら画像全体を見渡していると。
そこには、あの子が映っていた。今よりずっと濃い輪郭というのか・・・幸せそうな、楽しそうな表情で。
制服は違えど、さすがに2日に一回強で会っているので間違えようもない。
さすがに本人にいろいろ訊くのはちょっと憚られるが、すこしだけなら訊いてもいいのでは。
スマホの持ち主の彼女に、「ねぇ、この子ってさ」ときゃっきゃきゃっきゃしてるところに割り込んでいく。
「ん?どの子?」
そうやって訊かれ、あの子を指さすと、ほわほわな彼女の表情が凍り付いた。
「その子ね、卒業式の翌々日に居なくなったの」
たたたたた、た、と駅までの道を急ぐ。今日ばかりは先生の話は上の空だった。
__行方不明、ってやつなのかな。あいさつしたり、ほんとにピンチな時は教科書貸してって頼めるくらいの間柄だったから詳しくないけど・・・買い物にいってくる、ってでていったっきりまだ帰って来てないの。
桜の木まで、信号はみっつ。
__誘拐なのかな、でもそうだったとしても犯人からの接触とか全然なくて、まったくてがかりはなくて、警察もどうにも出来ないみたいで。
一分でも、一秒でも、今日会えると決まってないけど、早く着きたいと足を動かす。
__ていうか、突然どうしたの?知り合い?
あの子は、いったい誰?
ぜー、はー、と息の音が煩い。
くる、と桜の木を四分の一ほど回ったところで、いつもと同じようにあの子が立っていた。
「今日はどうしたの・・・?走ってきたようだけど」
僕を慮るような表情のこの子に、僕は七文字の名前を、隣のふわふわ女子が口にした名前を、「この子」の名前を呼びかける。
「・・・本当は誰なの?」
そう訊くと、すっ・・・と目を細められる。これもしかしてやばいことに足突っ込んだんだろうか・・・。
「私は、私だよ」
「あなたは行方不明者だって」
「あ~あ、バレちゃったのか、ニンゲンの情報の伝達って恐ろしいね、ほんと」
いつものやわらかいほほえみを浮かべたまんまで、前に立つ何かは口を開ける。
「この器の名前は、確かにその名前・・・私本体とでも言ったらいいのかな、その名前はない・・・そうだな、ニンゲンに分かりやすくいうなら『桜の精』ってところか」
「桜の、精」
桜の精だから、あまり桜から離れることはできなかったのか。
「だから、いつもここだけで会えてたってこと?」
「今回ばかりは、そうだよ」
「今回?」
今回、ってどういうことだろうか。
「この器は、・・・何個目だろうかってことだよ」
「・・・ずっと、人を乗っ取ってきたってこと?」
「言い方は悪いが・・・まぁそういうことだね」
「でも乗っ取って何のメリットがあるの・・・?」
『器』がないと具現化できないから、みたいな感じなのかもしれない、でも具現化する意味って何だろう・・・。
「桜の精だけれど、特に御神木とかいう訳でもない単なる駅前の桜だから人の目に見える存在にはなれないから、こうやってニンゲンという器を借りている」
「何の為に・・・?」
「お前、、、桜の寿命は人よりはるかに長いうえにひとりで話し相手もいない、寂しくなる」
寂しく、って精霊とかもそんな感情を持つんだな、なんてすこし驚く。
驚いた表情をしてしまっていたのか、すこしむっ、としたような顔になる。
「でもだからって何人も乗っ取る必要は・・・」
「ごまかしきれなくなるんだよ」
誤魔化す?
僕の疑問を感じ取ったのか、この子は続ける。
「ニンゲンの器に入ろうとすると、中に入っている感情とか記憶とか、そんなのが一気に逃げていくから、それを自分の・・・ニンゲンでいう『脳』につめこんで、そいつとなって生きるんだがどうにもやっぱり欠落は出てくるし、一緒に暮らしてるのがいるとやっぱりそういうのはわかるし・・・そうなると煩わしいから、適当にまた器を変える」
「あなたが出た後、人間ってどうなるんだ・・・?」
「さぁ・・・?興味がないから知らない」
そういう言い放つさまは、やっぱり人間とは違うモノなんだということを僕に実感させる。
「・・・っていうかさ、なんで今回は乗っ取った人間として生きないの?」
そう訊くと、少しばつが悪そうにぼそりと呟いた。
「失敗した」
「失敗・・・?」
「記憶、感情・・・魂っていうのか、それの抵抗が激しかったからな・・・現世に執着しなさそうなニンゲンを選んだはずなんだけど、意外にな。それで魂がほぼほぼ残ってくれなくて、この状態で器の家に行くこともできないし、器も脆くなってしまって桜の近くでないと姿を現せないしずっと触れられる姿では居れない・・・できそこないの器になってしまったから、すぐにでも変えないといけない」
一気にそこまで話して・・・ちらり、とこちらを窺った。それはまるで獲物を狙う蛇のようで。
「・・・それで、僕に接触したのか」
「まぁ単純に話し相手が欲しかっただけってのもある」
「単純だな」
「単純で悪かったな」
ぷくー、とむくれる。時々見せる人間臭さ(しかも精神年齢幼め)なところはなんなんだろう、・・・どきっとする、くらいじゃごまかせないものが生まれてしまいそう、いや・・・
「と、とにかく・・・。ここまで話せば気が済んだろう。さっさと器にする」
そういって僕の首を掴んで顔の前に持っていく。
長い睫毛が僕の額に触れてしまいそうな距離。吐息。くすぐる髪の毛。
__こんなの、もう
「__ねえ、どうせ僕を器にしてもまた同じことを繰り返すんでしょ?」
「まぁそうなるだろうけど__どうしたんだ」
「じゃあさ、あえて不完全な器を作れる?」
お前は何を言っているの、とでも言いたげな瞳でこちらを見てくる。
「僕は魂・・・?器・・・?半分をあなたにあげるよ。で、その代わり精霊的なパワーっつーの?それを僕に頂戴」
「・・・何がしたい?」
「____ずーっと、一緒にいてやろうって言ってんだよ」
目の前の精霊は、面白いくらいに固まった後、サウナにどんだけはいってたんだよってぐらい真っ赤になった。
「ちょちょちょちょいきなり何を言い出すのかと思いきや焦るじゃんなになにそうはいっても騙されないもんね騙されるものですかふんっ・・・・ふん」
そういっているものの、視線が泳いでいる。・・・どうしてそんなに初心かなこの精霊は。
「そうしたら不安定な体だしどこにも行けないけれど僕は居てあげられるよ?不安だったら桜の精の力?なにがあるか、ていうかそんなものあるかわからないけど重要な力はあなたの中に残しておいたらいいわけだし」
「うぅ・・・確かにその通りだ、でもこちら側のメリットしかない」
「僕の方にもあるよ?」
「何、だよ」
「だって桜の寿命って長いんでしょ?好きな人と長らくいることが出来るなら本望でしょ」
「おっ・・・・お前ってやつは・・・・」
言葉を失いかけている。こっちも割と恥ずかしいのだがそれ以上に向こうが恥ずかしがるのでそれをあまり感じずにいられる。
「・・・お前が・・・それでいいならいいんだが・・・ていうか本当にいいんだな」
「いいよ、いつでもこい」
「はぁ・・・・」
呆れたようにつぶやかれた後、ひたいをくっつけられる。
ぶつぶつと何かしらそのままで囁かれ、・・・視界がピンク色に染まる。
ふわり、と体が軽くなったような気がしてみてみると、自分の体が半透明に透けていた。
「なるほどなぁ・・・こんな風になるのか」
少し面白くて、くるくると回ってしまう。
「全く、何をはしゃいでいるのだか・・・」
声の方を見ると、先ほどとは全く姿が変わった精霊がいた。
「・・・この姿を見るのは初めてになるな。ふん、好きな人がそこまで可愛くなくて後悔するがいい」
「あ?かわいいけど・・・?」
「・・・・・・ばー―――――――かッ」
ふん、とそっぽを向かれてしまう。
「まぁまぁ・・・これからよろしくお願いするよ」
「・・・それなりによろしくしてあげんこともない」
そんなことを言いながら、桜の花を映す彼女の瞳が少しうれしそうに見えて、僕は少し安心した。
だってそれは、この選択が間違ってなんかないってことの証明みたいなもんだろう?
「__。__。ぼーっと考え込むなよ」
「あっごめん、、、ちょっと昔の僕の英断を思い出してた」
「・・・よく昔の自分はこんな人といようと思ったものだ・・・」
「そんなこと言っちゃって・・・僕のことを消そうと思えば消せるはずでしょ?」
・・・うるさいなぁ、と返すあなたの桜色に染まった頬をつんつん、とつついてみたりする。拗ねたり照れたり笑ったり、なかなかあなたをいじるのはたのしいものがある。
「まぁ一緒に居させてくれてありがとうございますだわー、何周年かわからないけど」
「なんだよ改まって急に・・・変な奴め」
この選択が間違ってなんかない、それをまだ確信し続けられている。
ずっとこの先何十年何百年も、あなたの傍にいられますように。
馬鹿みたいなひとめぼれが、この先ずっと続くように。
この「何にも干渉できない」体ならほかの人間にあなたをみられることもうばわれることも、あなたがなにかをすることも、できない。
あなたの世界には、僕とさくらと、それだけが存在する。
僕がこうなることで、僕が家族や友人、趣味やもろもろ一切を捨てたことで、その引き換えにあなたを僕のものにすることが出来た。
全部捨ててよかったと思っている。それだけであなたのいちばんが僕になるなら、それでよかった。それがよかった。それがハッピーエンドだ。
僕だけにとってじゃなくて、あなたにとってもそうだったらいいな、なんて。
このさくらの檻の中で、ずっとあなたを愛していく。
桜の檻 零-コボレ- @koboresumomo
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