闇の中の光

僕は階段を降りて、ゆっくりと祭壇に向かって歩いて行く。

何が仕掛けているか分からないからだ。

窓を開けて、足音とエアガンの音を立てた。

怨霊にも安倍晴明様を名乗る男にも知られているはず。

だから僕は慎重にそして警戒をしているけど、隠密行動は諦めていた。

祭壇を目指してガンライトで照らして歩いて行く。

積み上げられたダンボール箱の横を曲がる。

ガンライトに祭壇で祀られた大きな岩とそこに立つ涼子ちゃんがいる。

祭壇に向かっている涼子ちゃんまで5mの所だ。

僕は左手を前に出しながら叫んでいた。

「涼子ちゃん」

「何で来たの?私は偽りの」

僕は一歩踏み出す。

後4m。

「そんな事はどうだっていいから」

「でも・・・でも私は・・・」

後3m。

「分かっている。涼子ちゃんがわからずやで思い込みが激しい所も勝手に決めるのも、そこも含めて好きなんだ。偽りと言うけど、現実に存在している魂を無視できないよ。偽りでもかりそめでもそんな事気にならない」

後2m。

「おいで涼子ちゃん」

後1m。

僕は左手で涼子ちゃんを掴む。

涼子ちゃんは手を掴んでくれた。僕の少ない霊力を掴んでくれている。

「ぱちぱいぱち。茶番としては面白いですね。ゲームのキャラクターに恋をして助けに来たと言う訳ですか?人に似たものは人と同じ、人と同じくパロメーターとは言え感情を持つなら霊力を持ちいくばくかの力を与えれば霊体を持つ。今時処女の高校生を神の嫁に与えるにも法律の邪魔がある。ならば最初から霊体の存在を嫁にすれば良い。それにしてもあなたはオタクで陰キャなんですね。俗にいうキモオタですか?陰陽図で表すところの闇の中の闇ですね」

相も変わらず帝国陸軍の礼服をまとった男が言う。でもその姿を笑えない。僕も狩衣で烏帽子姿だからだ。

「僕が闇の中の闇とすればお前はどうなんだ」

「当然、光の中に存在し、光の全てを掌握する高貴な闇ですよ」

僕はこの時、絶対の自信があった。今まで陰キャのオタクである自分に問いかけてきて、答えが出なかったことだ。だけど今の僕なら答えられる。

「それじゃ、闇の中の闇に住まう僕が倫理観と法律を守り、人の善意を信じ、闇の中の光を求めて何が悪い。人の道理は間違えない」

「くく」

安倍晴明を名乗る男は妖艶に笑う

「自分を正義とでも言うのですか?。力無き徳は無力、徳無き力は暴力、徳ある力こそ正義、高き力と気高き徳を持つ私は正義の体現者なのです。愚かなあなたでも分かるでしょう」

僕はその笑顔にも言葉にも動揺はしていない。僕は今自分の存在理由を知ったのだから。僕は涼子ちゃんと会うためにここにきた。

「僕は光を求めて生きて行く。話し合いはするつもりはない」

「徳なき力、あなたは無力だ。そのエアガンで私を打ちますか?私はあなたの大好きな法律の力、傷害罪で警察に訴えますよ?しかし私は霊的にあなたを葬る事ができる。呪いや霊力で人を殺した場合の法律はありませんし、因果関係は実証されませんからね。あなたと禅問答していのももったいない。呪われし大君よ」

安倍晴明が怨霊を呼び出そうとしている間、僕はリュックサックに入れた破魔矢を取り出しつつ後退している。相手のペースで戦う事も無いのだ。僕は僕の得意分野で戦う。人にとやかく言われる事は無い。

「大君よ、花嫁を贄を約束通りつれてきましたよ。わが式神となる契約をいまこそはたさん」

祭壇から陰気が吹き上がり、膨大な陰気をまとった怨霊が現れる。

「にえおー。花嫁をー」

ゆっくりと恐怖をあおるように近づいてくる。恐怖を感じると精神力が弱まり、霊力を失う。霊の世界の約束事の一つだ。だから僕は動じない。

「おうじんの子をにえに」

僕は後ずされる。

「大丈夫。勝てるの?」

少し震えている気がする。

「うん。大丈夫」

壁際まで下がる事になる。

「くわせろー」

我慢ができなくなったのか怨霊は一気に加速して僕の早九字の結界に降れる。

陰気が霧散し、怨霊の魂が焼ける音が聞こえるが、怨霊はその程度で滅びるほど力ではない。

怨霊の陰気に隠されていた魂が見えた。

僕は冷静に怨霊の魂の中心部を見ている。

「南八幡大菩薩我を加護したまえ」

そして破魔矢を突き出した。

大量の陰気を払いながら、怨霊の魂に突き刺さる。

「おうじん、おうじんのチカラ、おうじんナンデ」

「ぐぁ」

安倍晴明を名乗る男も悲鳴を上げる。

怨霊をコントロールするには膨大な霊力がいる。

コントロールしている怨霊の霊力が暴発すれば空回りした霊力と暴発した怨霊の霊力が安倍晴明を名乗る男のむき出しの魂に影響を与える。

「まさか、八幡神、応神天皇の神格。くぅ」

「おうじんの子、」

「ウン」

僕は霊力を込めた安全ブーツで烏枢沙摩明王様の霊力と加護を得て蹴り飛ばした。

「ぐうぅ、おうじん」

応神天皇を恐れる怨霊は、応神天皇の力に触れて、その身に恐怖を思いだす。恐怖は霊力を弱める。その霊的に弱った怨霊にはこの程度の術でも効果があるし、蹴飛ばされた怨霊と距離ができた。

僕は素早くエアガンを構えると、フルオートのセレクターをセットする。

そして僕は目いっぱい引き金を引いた。

ガンライトの光に照らし出され、レーザーサイトによって結ばれた縁によって結ばれた弾丸は面白い様に怨霊に当たっていく。一つ一つが小さな力でも集まれば大きな力となる。30発分の弾丸が撃ち込まれて怨霊の力は急速に弱まっていく。

怨霊はものすごい速度で逃げ出した。祭壇に隠れて行った。僕の左肩の陰気は消えていた。

「勝ったの?」

涼子ちゃんが聞いてい来る。

「まぁね」

僕は冷静に答える。

「まだ、まだ終わっていない。大君の霊はまだいる」

霊力の暴発で体調を崩して倒れている、安倍晴明を名乗る男が何とか立ち上がろうとしている男を無視して僕は最大に向かって歩き始めた。               

                         祭壇の破界に続く

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