お手紙

「つぅー」

僕は右腕の痛みで朝早く起きた。

時計を見るとまだ五時半だった。

それにしてもあの怨霊に攻撃を受けたのは左肩のはず。

なんで右腕がいたんだ?

寝ぼけた頭でそんなことを考えていると、自分がとても不自然な姿勢で寝ている事に気が付いた。右腕を布団の上に向けて寝ている。

良く見るとレポート用紙とボールペンがあった。

僕は飛び起きると辺りを見回した。

頭を右に左にして探している。

もちろん幽霊さん・・・嫌、涼子ちゃんを探している。

部屋にはいない。

体内にも気配を感じない。

右腕がまだ痛む。

なんで僕はあんな姿勢で寝ていたんだ。

まさかレポート用紙にメモを残しながら寝た訳じゃないし。

そこで嫌な予感がする。

あわててレポート用紙をとり、書かれている文章を読む。


昨日はごめんなさい。

あなたに会えてとても嬉しかったし楽しかったです。

やっぱり私の思った通りの人でした。

少しだけ予想より外れていた所もありましたけど、どう外れていたかは内緒です。

こんな突然押し掛けた私なのに精一杯付き合ってくださってありがとうございます。

せっかくのお休みをつぶしちゃってごめんなさい。

でもとても楽しかったです。

多分次に会う事はもう無いと思いますけど、こんな形でお別れするのは大変残念です。立ち直れそうにありませんけど、もし次に会える様な事があれば笑顔で会いたいです。あなたは笑顔で迎えてくれますか?

ちゃんとしたお別れをしないまま行くのは心配をかけると思いますが、私は大丈夫です。私に付き合ってくださってありがとうございます。

さようなら

                               涼子


p、s 

怨霊さんには私から話して影響関係を解いてもらえる様にします。

短い期間、ありがとうございます。あなたの幸せを祈ります。


僕の目に飛び込んできたのは、レポート用紙に書かれたこの文字だった。

僕は何が書かれているかを理解できない。

だけど直観的に涼子ちゃんが言いたい事が分かった。

僕はレポート用紙に手を付くように寝ていたのも近くにボールペンがあるのも理解できた。乗り移って体を動かしたのだろう。寝ている時は魂は無防備だし、悪意のある呪いと言う訳でも無いから安倍晴明様の呪いは通じない。

彼女はどこにいったのだろうか?

などとつまらない事を思い、あの廃倉庫だろうと自分で突っ込みをいれる。

涼子ちゃんがいけにえになる引き換えに、僕の陰気を取り払ってくれる様に交渉するつもりだろう。霊の世界では契約と呪いは絶対の約束事だ。

ふと、ゲームのバットエンドでこんな終わり方もあると聞いたなと思う。

自分での奇妙な事を思ったものだ。

でも道理でしっくりくると思っている自分もいる。

性格も姿かたちもそっくりだった。

僕の願いでそう見えているだけかとも思っていた。

だけど違ったんだ。僕は涼子ちゃんに会っていた。

こんどは涼子ちゃんが会いに来てくれんたんだ。

幽霊の形になってまで会いに来てくれたんだ。

何が見鬼の一族だ。ハンデキャップだと自嘲していても、他人とは違うと調子に乗っていた。涼子ちゃんの願いや想いを見抜けなかったし、認める事も出来なかった。何が見鬼の一族だ。僕はレポート用紙を左手にレポート用紙を持つと布団の上から畳を叩きつけていた。自分の感情が処理できない。別に拳が痛い訳じゃない。痛くない所を殴りつける自分の計算高さまで嫌になる。

僕はどうしたいんだ!

涼子ちゃんを助けたいのか?

死にたくないのか?

僕は半端物とあきらめるのか!

思考が堂々巡りする。僕はどうしたいんだ。何をしたいんだ。死にたくなければ涼子ちゃんを信じれば良い。そのために涼子ちゃんは廃倉庫にいったんだから。きっと陰気を取り払ってくれるだろう。

卑怯者!

卑劣観!

即座にそんな言葉が頭に浮かび上がる。

僕は卑劣観で卑怯者だ。でも死の危険を冒さなくていいのだ。

それが嫌なら僕は廃倉庫に涼子ちゃんを助けに行くのか?

死ぬかもしれないのに?

怨霊の力は強い。

命を懸ける場所なのか?

そう僕は怖いのだ。

僕は命を抱えるのが怖い卑劣観で卑怯者だった。


どん!


僕はまた布団を殴りつけていた。

本当は助けたいんだ。

涼子ちゃんと一緒にいたい。

ふと取りついている幽霊なんてどうでも印じゃないかと思う。

どこまで性根が腐っているんだ!

今助けに行かないともう永遠に会えない。

永遠に失うのだ。

卑怯者!

卑劣観!

臆病者!

どん!

また布団を叩く。

自分を非難するだけで答えは出ない。

彼女を失いたくない。

でもあの死の恐怖を味わいたくはない。

あぁ僕は自分の身がかわいいのだ。立派な卑怯者で卑劣観だった。

でも自分が可愛いのは誰でも一緒だった。

だから危険な時に命を懸けれて何かを守れる人達は尊敬されるのだ。

できなくて当たり前。危険に立ち向かう勇気を持っていない。

本当にそうか?僕は進んで卑劣観になりたいのか?

僕は嫌だった。

どうしても自分自身を卑劣観で卑怯者と思って生きるのは嫌だった。

レポート用紙が目に入る。

涼子ちゃんの手紙の上に書かれた計画だった。

そして涼子ちゃんの手紙が目に入る。

鮮明に涼子ちゃんの明るい笑顔が思い浮かべる事ができる。

幽霊なのに。

こんなに好きになっていたのだろうか?

初めて好きになった二次元の女性キャラクター。

ゲームの通り、頑固でおせっかい。

そしてまた目に入るレポート用紙に書かれたいい加減な計画。

自分に問い直す。

自分は卑怯者になりたいのか?

答えは違う。

永遠に彼女を失う事を許容できるのか?

それもできない。

あの時、力を発揮していれば助けれたのにと後悔を背負って一生を過ごすのか?

それは嫌だ。

慈悲の心を忘れ、僕の力の根源である烏枢沙摩明王様の加護を失う事を自分で認めるのか?

もちろんいやだ。

僕には力がある。なすべき時に力を発揮するための努力をしてきたつもりだ。

それに準備もできている。

それでも行きたくないのか?

人の期待を裏切る事はできる。

でも自分自身を偽る事はとても苦しい事だ。

今こそ自分の力を出す時だ。

自分を裏切らず、胸を張って生きて行きたい。

僕はやっと決断する。

エアガンのMK5PDWに専用のバッテリーを差し込み、リュックサックに入れる。

そして神人用の狩衣を着ていく。そでの部分には晴明桔梗紋が青の染料で書かれている。霊的な防御力を発揮するための呪い。そして烏帽子をかぶり、その上からフリースをきた。リュックサックの中身を確認して全ての準備を完了を確認する。

リュックサックを背負うと僕は離れの外に出て、マウンテンバイクを押しながら門を開けて、自転車に乗る。

さぁ、戦いの始まりだ。

 

                           かりそめの地獄へ 続く

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