あなたのお名前は?

リュックサックとテーブルを横によけると幽霊さんとできた雰囲気の悪さに耐えかねて話しかけた。明日は早いから体力の回復も兼ねて眠らないといけない。でもこの雰囲気の悪さでは眠れそうに無かった。

「そう言えば名前聞いて無かったね?」

幽霊さんがぴくんとする。

「名前?」

「そう幽霊さんの名前?。まだ名前聞いてないよ」

実は分かっている。僕の部屋にあるCDを並べた棚に目が行く。

そこには幽霊さんに関係した名前の歌が入っている。

幽霊さんは悲しそうな顔をする。一瞬の事だった。

「そう言えばそうですね。私の名前ですか?」

幽霊さんは拳を握りしめて考えている。

少し空気が和らぐ。

僕の心に余裕ができたからだ。

名前で悩む幽霊さんも珍しい。人に言えない名前なのか、名前を名乗るのに制約があるのかのどっちかで、きっと名前は制約の為になのれないのだと思う。

「今失礼なことを考えませんでしたか?」

僕は笑みを浮かべる。出た結論はそうだったのか?確かにまだ名乗っていない。でも僕も幽霊さんもお互いの事は知っているのだと結論を得ている。

「考えてないよ」

「人に名前をたずねる時は水から名乗るが紳士と言うものじゃありませんか?」

出た結論がそれだった。でも僕も少し意地悪がしたくなって困らす様に返した。

「お嬢さん、名前をたずねる時は自分から名乗るものですよ」

「むう」

「それでお名前は?」

「えっと、その」

「うん」

「ダメです。思い出せません。・・・もし良ければ名前を付けてくれませんか?」

「え?」

泣きそうでいて透明な微笑みを浮かべている。

分かっているのでしょ?と言わんばかりだった。

僕はそりゃそうだと思いながらもう一度部屋を見渡す。

ゲーム機が置かれていた場所、ゲームのCDケース。人生で初めて恋をしたゲームの女性。

僕は考えるふりをする。正解なのは知っている。

だけどつけてもいいものか?

意を決する。

「涼子、涼子ちゃんと言うのはどうかな?」

僕はレポート用紙の端に涼子と書く。

「涼子ですか?」

幽霊さんは嬉しそうだった。

「今日から私は涼子です。素敵な名前ありがとうございます」

「どうしたしまして?」

「あの」

とても恥ずかしそうに幽霊さんはたずねてくる。

「えっとですね」

「どうしたの?」

涼子ちゃんはうつむいている。

「あの・・・名前を読んでくれませんか?。呼びかけられるのは初めてで、その」

僕は微笑みを浮かべる。

「涼子ちゃん」

僕もなんだか照れ臭い。

「はい」

「あのですね。呼び捨てでもいんですよ?」

「・・・呼び捨て?」

「あのだめですか?」

「ちょっと照れ臭い」

「私も恥ずかしいです」

「明日も早いやから寝よう」

そう言って僕は布団を敷き、枕元にレポート用紙を置いて手順の確認を行うのだった。あの怨霊は自分自身に倒せない相手じゃないと言い聞かせていた。

               

                 第四章もしもここであえたらに続く

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