暗闇の中へ

幽霊さんが僕の手を引張るように倉庫の大きなドアの前に連れて行く。

実際は一緒に歩いていただけど。

倉庫の扉の前につくと幽霊さんは大きな横開きのドアを開こうとする。

「開きません」

僕は違和感を感じつつも幽霊さんに話しかける。

「普通、こんな廃倉庫でも戸締まりはしているよ。横に割れた窓やドアがあるはずだから探していこう」

そう言って、僕は正面から酷道沿いの方を向いている北側の壁を歩いく。

二階に上がる非常階段と非常階段の踊り場の真下の一階の壁にドアが取り付けられているのを見つけた。

「ドアがありますね。言ってみましょう」

幽霊さんがうれしそうに飛んでいった。

僕は腰につけていたベルトポーチからマグライトを取り出し、マグライトに取り付けられている紐を左手に通して電源を入れた。暗闇の中での唯一の頼みだ。

「ドアがありますね。開けますか?」

「ドアが開く右側に行ってくれないかな」

「どうしてですか?」

「急に魑魅魍魎が飛び出してきたら危ないからね」

「なんだか刑事ドラマみたいですね。どきどきしますね」

僕はマグライトを左肩まで持ち上げて正面を照らすようにする。

そして、ドアの取っ手を慎重に触る。

緊張する。突入訓練なんか受けた事が無い。

ゆっくりとドアノブを回す。

回った?

何かの罠か?

自分が護身結界を張る事を忘れている事に気づく。

でも仕方ない。

「行くよ」

そう言ってドアをゆっくりと開けていき、ドアを開けた分だけドアが開く方向に下がっていった。

数秒待つ。

何も飛び出してくる気配は無い。

僕はライトを構えたまま、中へ侵入しようとする。

「おじゃまします」

ぞわり!

首筋から背骨にかけて、冷たいものが流れ落ちる。

「廃倉庫に挨拶はいらないと思うよ」

外には漏れ出ていなかった陰気がいきなり襲いかかる。

陰気が漏れ出ていないと言うことは結界が張られていることを表す。

きっと結界を踏み越えた時に感じた力なんだろう。

僕は幽霊さんの声を聞こえてなかった。

呼吸が荒く、鼓動が止まらない。

咳き込んで、息を吸うとこの倉庫に漂うかび臭さと何かが腐った臭い吐き気をもよおした。つばを飲み込んで吐き気を無理矢理押さえ込んだ。

女性の前で吐くと情けない姿を見せたくないと言う見栄だった。

幽霊さんを女性と認識しているらしいことにびっくりする。

今更ながらだなと自分でも思った。

出会った時から女性と思っていたのに。

そんな事を考えていたら棒立ちになっていた。

そんな僕に幽霊さんが話しかけてきた。

「大丈夫?どうしたの!」

幽霊さんのびっくりした声が聞こえる。

「なんとか。大丈夫。この倉庫に張られた結界にやられたらしい」

幽霊さんは結界の影響受けずにふわりと浮き上がると僕の顔を見つめてくる。

結界や陰気などは確実に僕に向けられた悪意を持った呪いでは無いので安倍晴明様の呪いの力では防ぎきれない。

幽霊さんを見ると揺らいでいた。魂だけの存在だから迷いが生じると揺らめくの分かる。自分の体を取り戻したいとのと僕を心配して帰ろうと言う二つ想いが交錯している。そんな幽霊さんを見て出せる僕の事はこれだけだった。

「僕は大丈夫だから、どこから探そうか?」

幽霊さんが涙目になっているのが分かる。

「ありがとう。割と大きな倉庫だから近くから探していかないかな?」

「ちょっと待ってね」

僕はそう言うと、三連マグポーチにしまっている多機能プライヤーを取り出した。

そして多機能プライヤーのナイフの刃を取り出した。

「どうするの?そんな物取り出して」

「悪霊とか出てきた時に、使うつもり。武器に似たものは武器と同じ力を持つ。鉄は邪悪な物を退けるの二つの効果を期待してだよ。今清めるから」

「難しいです。それより先を急ぎませんか?暗くなると大変なんでしょう?。それにあなたも疲れているみたいだし、きっとすぐに私の体は見つかります」

「分かったよ」

僕はそう言って歩き出した。


                           重たい空気に続く  

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