呪いの力

暖かい陽光に包まれて、僕たちは自転車を押して、隣の市の中央公園と図書館が併設された施設に向かっている。公園を出る時に公園の中に死体が埋まっていると言う可能性をダウジングは方向しかわからないから、公園を掘り返すなんて言う事はできない。やはり違う方向からもう一度同じダウジングをしておおよその場所を特定した方が良いと思う。地図は持ってきているけど図書館の地図の方が詳しいから場所の特定に役に立つとも思う。そして何もなければ屋内で死体を発見して幽霊さんとお別れだ。それは少し寂しい気がする。それでも幽霊さんは輪廻転生の輪に戻り、成仏への道を歩んで欲しい。それが僕の出した答えだった。一日しか一緒にいないのに寂しい、別れたく無いと思うほど入れ込むとは自分の調子の良さにもあきれかえってくる。きっと春の陽気のせいだ。強引に答えを絞り出す。

となりにいる幽霊さんを僕はみた。

心なしか元気が無さそうだった。

「はぁ」

ため息をついている。でも見た感じ幽霊さんの姿には影響を与えていないようだった。

弱気は精神力を弱める。幽霊さんは精神力によって魂を維持している。精神力が弱まれば魂は消滅する。霊の世界の約束ごとだ。逆に強い自信や怨念があれば実体化しうる。幽霊さんを現実に止める想いとは何だろう。

なるべく平成を保って聞いてみる。

「疲れた?」

精神力もゆらいでいないのを確認しているのに幽霊さんに疲れたの質問は変だと思う。

「違うんです。ちゃんと占えてすごいなぁと思って」

見え見えの嘘だ。慌てるように取り繕っているのが分かる。

僕は少しうれしく、そしてとても悲しい思いを味わう。

だから占いの事、幽霊さんが見える見鬼の事、僕の一族にかけられた呪いの事を説明しておこうと思う。

「そうでも無いよ。僕は先天性の霊視力欠陥だから」

「先天性の霊視力欠陥?」

幽霊さんは不思議そうに僕の方を向いて訪ねてくる。

「そうなんだ。僕の一族は先天的に幽霊さんや妖怪さんを見る力を持って生まれてくるんだ。名前が無いと不便だから厳密に言うと違うけど見鬼の力と呼ばれる力を持って生まれてくるんだ。そのせいで」

「難しいです」

少し暗い気持ちになりながら僕は話し始める。自分ができない、コンプレックスを話すのはとても嫌な事だから。

「どう言えばいいのかな?」

「今のあなたはなんだか嫌だな」

「どうしたの?」

「嫌な感じがする」

「えっ」

僕は絶句する。

「できない事をうれしそうにできないと言って卑屈になっているみたい。そんなあなたは好きじゃないよ。嫌だよ」

僕はとっさに返答できなかった。

僕はどうしてこうなんだろう。

自分でも自分の事は分からない。

「そんな事は無いよ。確かにコンプレックスなんだけどね」

コンプレックス、そう僕達一族に課せられたコンプレックスだ。

「どうしてコンプレックスになるんですか?」

僕はうつむき下唇を噛む。

「それを含めて今から説明します。基本となる霊視力の事からで良いですか?」

僕は気分を変えるために口調を変えてみた。

「はい」

幽霊さんもこの冗談に乗ってくれる。

「霊視力と言うのは、本来、幽霊とか妖怪を見るための能力じゃありません。物体や霊体の霊的な繋がりを見ていくものです。霊力の繋がりを影響関係と言います。霊力のある人が霊視を行うと存在する微粒子同士の霊的な影響菅家による繋がりまで見る事ができます。霊体や物体は霊的な繋がりである霊力を持っています。それが繋がったりして人や幽霊を作りあげます。複雑に絡み合う影響関係の霊的なつながりを追いかけていけば、未来や過去を見る事ができます。術を扱うための霊力の流れを見られれば、術のイメージを投影して霊力の流れを変えて術を扱えます。海外ではアストラルサイトと呼ばれる事もあるみたいですね」

「はい」

「普通、修行をすれば霊視力は身につける事ができます。まれに幽霊や妖怪を見つけられる目を持つ見鬼の能力持って生まれてくる人もいます。弱い人も含めると10万人に一人と言われます。でも僕たち一族の見鬼は違います」

「うん。それで?」

「僕たちの一族は陰陽師の神、安倍晴明様に呪われて、陰気、邪気、幽霊、妖怪を見られるようになりました」

「安倍晴明って誰ですか?」

「軽く説明すると平安時代に陰陽道を大成させた人で、その後に神様として祭られたんだ」

「じゃ、なんで?呪われたんですか」

「実は僕のご先祖が安倍晴明様の家に使える記録にも残らないレベルの雑用人だったんだ」

「なんで呪われたんですか?」

幽霊さんはちょっと興味が沸いてきたらしい。

「それは陰陽道の神ともなると、呪いやら、自身の力の大きさから陽気や陰気を自宅まで持ち込んでしまうんだ。最初は弟子に陰気を払わせていたんだけど、勉強に支障が出るから、今度は式神に払わせたんだ。それを見た安倍晴明様の奥さんがコワいと言って、仕事の保証はするからと言って僕のご先祖に呪いをかけたんだ。霊視の力を持っていないご先祖に修行しろと言うのは無理だから陰気や幽霊や妖怪を見える呪いを一族に受け継がれる様に呪ったんだ。ややこしいから見鬼と呼ぶね」

「それがどうして霊視力と関係があるんですか?」

「見鬼の力は呪いによって、僕たち人間の少ない霊力を好奇心に変えてしまうんだ。幽霊さんは誰かに見てもらい、認識してもらいたいから幽霊さんになっているんですよね?」

「はい。誰にも見てもらえないのはさみしいです」

幽霊さんが悲しそうな顔をする。

なぜか僕は幽霊さんを悲しめたくないと思い慌てて話を進める。

「幽霊さんたちが持つ見てもらいたいと言う力が現実世界にちょっとだけ影響力を与えて、違和感を現実にあたえます。僕たちの一族はその違和感を好奇心として本能で捕らえる様に呪われています。そして一度見れば、霊的な影響関係ができて、幽霊さんは見てもらえた、僕たちの一族は幽霊さんを見たと言う強い関係性ができます。この呪いの力は霊視力に回る霊力を違和感に使う様に呪われています。だから本来、霊視力に使う霊力が無いのと、霊視力の関係が無くて幽霊さんが見られるので、霊視力が身につきません。霊視力は術を使う基本なので高度な術は使えません。これで説明は終りです」

うん、我ながら自分の能力の低さを説明するのは恥ずかしい。すごい中途半端な能力しか持ってない。自分でも弱音を吐いた気分だと。思う

「でもさっき占えたじゃありませんか?」

なぐさめる様に幽霊さんは話かけてくれた。

「あれはダウンジングと呼ばれる動物の本能が持つ霊力の波動を感じる能力だよ。少し術の事を知っていれば、見つかる可能性を高められるよ」

「むぅ」

納得が行かないという感じだ。

でも僕的には納得している。

「それにしてもきれいな音だったよ。霊力の光が僕を追い越して波動に進んで行くのはきれいだったし、幽霊さんの霊力の流れを感じ取れた時にとても美しいきれいな音がしたよ。霊視力が高ければ美しいものをたくさんみれるんだろうな」

「私もみてみたいな」

幽霊さんはしみじみとつぶやいた。

霊力で周りの環境を感知している幽霊さんがつぶやいた。

幽霊なのに霊視力が無い幽霊さん、術者なのに霊視力を持たない僕。

不思議で愉快な感覚にとらわれる。笑うべきなのか、つっこむ所なのか?

必死に表情に出るのをこらえる。

「どうしたの?」

「ん?」

幽霊さんがとても心配そうな声で聞いてきた。

「とっても変な顔していたよ」

「そうかな?クールじゃ無かったかな?」

「うん」

「誰かに呪われているみたいだよ」

「呪いと言えば、僕を呪わないでね」

「取り付いていますけど、呪われたいの?」

「違うんだ。前に話した三つ目の呪いの効果で、たいていの呪いや呪詛や憑依して魂を壊す事は難しいんだ。僕の家系が持つ呪いの力は安倍晴明様が呪った事により、強力になっているんだ。神様として信仰されたり、テレビや小説の影響で関心を持つ人も多いからね。霊の世界の決まり事の一つに、一人の人間に対して一つの呪いしか受け付けないんだ。力の強い呪いが勝って、弱い方の呪いははじき飛ばされて呪った本人に戻るんだ。僕は安倍晴明様の呪いを受けていて、安倍晴明様は呪いを扱う陰陽道の神で絶大な力を持っているし、神様として崇められているから強い信仰心で安倍晴明様が強化されていくんだ。だから幽霊さんが本気で呪っても反射されて魂に呪いの力がぶつかると思う。強い気持ちを持てば持つほど、反射されて魂そのものを破壊されるよ。気をつけてね。それとは逆に恐怖の感情を持てば、どんなに強い思いがあっても、自分の存在が揺らいで力が弱まるよ。幽霊さんはむき出しの魂だから悲観的になったり、恐怖を感じないでね。魂が霧散する可能性もあるよ。逆に強い自信があれば、幽霊さんは存在し続ける事ができると思う」

幽霊さんはうれしそうな声で話しかけて来る。

「もしかして私の事心配してくれていますか?」

「へぇっ?」

「だって嫌いな人を心配したり、とり殺すとか言う優しい言葉を普通はかけてくれませんよね。もしかして私と一緒にいたいんですか?」

何か茶目っ気で話しかける幽霊さんだけど、僕にはは図星だった。

そして間の抜けた返事しかえせない僕だった。たった半日なのに取り憑いた幽霊さんに心を奪われるなんてどうにしかしているとしか思えない。きっと春の陽気のせいだなと思って言った。

「幽霊さん、捕まって、自転車で行くよ」

そうしたら幽霊さんが背中から両手を首に回しつかってきた。

めっちゃ恥ずかしい。そんな思いかき消す様に自転車をこぎ出した。

        

                第三章 あふれる想いに続く

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