第15話 変わりゆく日常
西暦2019年、4月16日。午前6時11分。
耳元で鳴り響くスマホのアラームを止め、もぞもぞとベッドから起き上がる。
重い瞼を擦りながらリビングに向かい、カーテンを開けた。
「う、眩し」
地平線の彼方から顔を出した太陽の光が真っ直ぐ目に飛び込んできて、余りの眩しさに腕で目を隠した。
テレビを付けて、今日の天気を確認する。最高気温は16度、天気は一日中晴れになるらしい。ここ2日間は曇りが続いていたから、溜まっていた洗濯物も良く乾くだろう。
私は洗面所に向かい、籠に入れたままにしている洗濯物をひょいひょいと洗濯機に放り込む。流石に色が移りやすいものとかは別にするけど、それ以外は一緒に洗ってしまう。
ひょいひょいひょいと洗濯機に放り込んで、液状洗剤と香り付き柔軟剤を放り込んでスイッチを入れる。控えめな音で洗濯機が起動するのを確認したら、次はキッチンへ。
冷蔵庫の中は、まだまだ余裕がある。さて、今日の朝ごはんは何にしようかな?
エプロンをして少し考えてから、和食にしようと決めた。最近はセイヤも自分で料理作り始めたらしく、お昼休みになると私のスマホに作ったお昼ご飯を写真に撮って送って来る。
所々焦げていたり、刻んだ野菜がバラバラだったりするけれど。
(――次の休みの日には、一緒に料理してみようかな。一緒に暮らしているんだし、ね?)
そんな事を考えながら、私は冷蔵庫の中から鮭の切り身を取り出す。3枚をグリルに並べて、余った一枚は冷蔵庫へ。炊飯器にはご飯がまだまだあったから、今日のお昼ぐらいまでは持つだろう。
次に、玉ねぎと油揚げとお味噌を取り出す。鍋に水とだしの素を入れて、コンロにかける。沸騰したら、刻んだ玉ねぎと油揚げを鍋に放り込んだら、再び沸騰させる。
火を止めて、味噌を入れる。セイヤは濃いめの、私は少し薄めの味が好きだから、お互いが満足する味になるように調整する。これが、なかなか難しいんだけれど。
グリルを確認すると、良い感じに焼けていた。鮭をひっくり返してもう片面も焼く。その間に、ほうれん草ともやしとソーセージを取り出す。
ほうれん草は大きくざく切りに、ソーセージは半分に。フライパンに油を敷いて、先にソーセージを炒める。サッと火が通ったら、次にほうれん草ともやしを入れてさらに炒める。野菜がしんなりしたら、塩コショウで味付け。
グリルの火を止めて、出来上がった料理をお皿に盛りつけて、リビングへ。
(セイヤのこと、そろそろ起こさないと)
時計を見ると、時刻は6時50分。いつもの時間よりは少し早いが、朝ごはんには良い時間帯だ。セイヤを起こそうとエプロンを外した時、パチリと頭に小さな稲妻が奔った。
小さな痛みに目を瞑ると、脳内に映像と声が飛び込んで来た。
《――おはよう。今日も遅いお目覚めだね》
これは、私の声だ。寝ぼけ眼を擦りながらリビングに入って来た、パジャマ姿のセイヤに笑いながら声を掛けている。
《おはよう。俺が遅いんじゃない、遥風が早いんだ。一体どうして、こんな朝早く目覚めることが出来るんだ》
《そりゃ、早く寝てますから。それに、昔から早起きはしてたから、もう習慣づいちゃってるし。
《早起きは三文の徳、だろう? 俺としては、好きな時間に起きて、好きな時間に寝るのが良いと思うんだけどな》
映像の中では、私とセイヤがそんな会話をしながら呑気に笑いあっている。
そのまま私達はリビングに行って、二人揃って朝食を取り始める。ありきたりだけれど、いつもの朝のやりとり。客観的に見ると、こんなに恥ずかしいんだ。
訳の分からない状況に、昔の私だったら混乱してパニックになっていたんだろうけれど、今は凄く落ち着いている。だって、もう色々気付き始めている。
遠い
そして、この
今私が視てるこれは、今から起こる未来。私が黄色い宝石を握ったことによって宿った、人類がいつか必ず目覚めるシンカの力。私の能力は、予言。
だから、今私が視ている光景は、恐らく数分後の未来。それも、確実に起こりえる未来。
逃れる術は無く、どれだけ外的要因によって因果律を操作しようとも決して揺らがぬ、宇宙の揺りかごによって約束された刻の巡り。
そのまま続きを見ようとすると、ガチャリと扉が開く音がして、私は我に返る。
「――おはよう。今日も遅いお目覚めだね」
寝ぼけ眼を擦りながら部屋に入って来たパジャマ姿のセイヤは、普段とは真逆にとても子供っぽく見える。そのギャップに笑いながらおはようというと、セイヤも大きなあくびを零しながらおはようと返してきた。
「俺が遅いんじゃない、遥風が早いんだ。一体どうして、こんなに朝早く目覚めることが出来るんだ」
「そりゃ、早く寝てますから。それに、昔から早起きはしてたから、もう習慣づいちゃってるし。
「"早起きは三文の徳"、だろう? 俺としては、好きな時間に起きて、好きな時間に寝るのが良いと思うんだけどな」
そう言いながらしぱしぱと目を瞬かせたセイヤは、顔を洗ってくると言ってリビングから出て行った。
私はその間に2人分のご飯とみそ汁をお椀によそってテーブルの上に置くと、キッチンに戻って大きなカップを2つ持ってくる。
青色のカップにコーヒーを、黄色いカップにミルクティーを並々と入れた頃、セイヤが幾分かしゃきっとした顔で戻って来た。
一度部屋に戻ったのか、首から黄色い鉱石が付けられた紐をぶら下げている。
「それ、最近はずっと身に着けてるね」
「ん? ――ああ、これか。うん、なんだか着けていないと落ち着かないんだ。多分、記憶を失う前は肌身離さず身に着けていたんだろう」
「ま、わざわざあの狭い機械の中に持ちこんでたしね。いいんじゃないかな、アクセサリーに見えなくも無いし」
「男が綺麗な石を首からぶら下げているって、見方によっては成金に見えなくもないな」
「そうかもね。セイヤくんは、成金だった可能性が無きにしも非ず?」
「やめろやめろ。茶化すんじゃない」
セイヤは少しばかり恥ずかしそうにしながら、小さく笑って手を合わせた。
彼の後に続いて、私もいただきますと言って朝食を取り始める。
時刻は7時20分。結果的にいつもより少し遅めの朝食になってしまったが、少し急げば問題ないだろう。
他愛無い話で盛り上がりながら、私は日常が刻々と変化していく様を、肌で感じていた。
次回から、投稿日を指定しない形での投稿とさせて頂きます。読者様におかれましてはご不便・ご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。厄災のアトリア完結に向けて執筆を続けて参りますので、ご理解とご協力のほど、よろしくお願いいたします。
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