9 蛍の恋

 蛍の恋


 こんにちは、貝塚さん。


 桜井蛍がいつものように入院をしている病院の一階にある自動販売機のところでコーヒーを買おうとして、その場所に行くと、そこには貝塚菜奈がいた。

(それは、二人が初めて出会ったときと、二人の立ち位置は反対だけど、ちょうど同じようなシュチュエーションだった)

 あのときの蛍と同じように、菜奈はじっと下を向いてじっとしていた。

 そんな菜奈の姿を見て、なにかすごく悲しいことが貝塚さんにあったのだと、蛍はすぐに気がついた。

 なぜなら、まさにあのときの蛍自身がそうだったし、なによりもその証拠として、菜奈の目の下にある病院の真っ白な床の上には、ぽたぽたと菜奈の流す涙がとめどなく落ちていたからだった。


「貝塚さん。どうかしたの?」

 なるべく明るい声で、桜井蛍はそう言った。

「……桜井くん?」

 そう言って顔をあげた菜奈は、顔中が涙でいっぱいだった。まるで、小学校低学年の子が、迷子になって、お母さんを探して、泣きじゃくっているような、そんな顔を、このときの貝塚菜奈をしていた。

 その菜奈の顔を見て、菜奈の言っていた菜奈のお母さんの手術の日が、きっと今日なのだろうと蛍は思った。


 蛍はそっと、菜奈の隣のベンチに座った。(あのとき僕を救ってくれた貝塚さんを、今度は僕が救うために)

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