菜奈の年齢は十五歳だった。

 学年は中学の三年生。

 蛍が思った通り、菜奈は蛍と同年代の同級生だった。

「桜井くんは、ずっと病院に入院しているの?」

 きっと蛍の病院に馴染んだ雰囲気を見て、昨日今日、入院したばかりではないと菜奈は判断をしたのだろう。

 その、菜奈の考えは当たっていた。

 蛍はもう、この病院に入院して一年以上の時間が経過していた。

「だいたい一年くらいかな?」

 にっこりと笑って蛍は言った。

「一年も?」

 と言って菜奈はすごく驚いた表情をした。

 なんだか菜奈はさっきから驚いてばかりいる。その目を丸くしたわかりやすい菜奈の顔はすごくかわいいな、とそんなことを蛍は思った。

「ごめんなさい」

 菜奈は言った。

 悪いことを聞いてしまったと思ったのだろう。

「別にいいよ」

 蛍は言った。

 蛍は本当に別になにも悪いことを言われたとは思ってはいなかった。むしろ、久しぶりになんだかちょっとだけ楽しい気分に慣れていた。

 それから、あれ? と蛍は思った。

 なんで僕は、こんなに久しぶりに人生が楽しいと思っているのだろう? と疑問に思った。

 でも、その答えは明らかだった。

 それは貝塚菜奈に出会ったからだ。

 このとき蛍は、……出会ったばかりの貝塚菜奈に恋をしていた。


 蛍は自分が菜奈に恋をしていることに、今のところ自分自身では気がついていなかったのだけど、心の奥のほうにある無意識の領域では、すでに蛍は菜奈のことが好きになっていたようだった。

 菜奈は手に持っていたコーヒーを思い出したかのように口にした。

 その行為を見て、蛍も久しぶりに缶コーヒーが飲みたくなった。

 

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