第72話「凶器を探せ」

 とりあえず礼拝室を出た俺とホーソンは、廊下で待っていたマリアとクベーラのもとに向かう。


「それで、凶器を探す当てはあるんですか」

「はい。うっすらとですが臭いがするので」

「臭い?」

 ホーソンにそう言われて鼻をクンクンさせてみるが全くにおわない。

「ああ、ホーソンさんの嗅覚は鼻の利く獣人よりも凄いから」

 とマリア。ホーソンのステータスはもちろん、五感も常人の比じゃないくらいするどいらしい。視覚、嗅覚、聴覚などで相手の攻撃も先読みするんだとか。まあとにかくピース・メイカーでナンバーツーの実力者は化け物みたいにすごいということだ。


 ホーソンを先頭にし、入り組んだ廊下を歩き、とある部屋の前に着く。

「ここは?」

「倉庫代わりに使っている部屋です。ここにいる囚人に向けて差し入れを送ってくるものもいるのですが、中には所長などが不適当と認めたものなどをここに一時保管している部屋です。確かに、この部屋なら凶器になりうるものがありそうですね」

 扉には小さいながらも暗証番号を打ち込むボタンまである。このセキュリティーは確実に異世界からやって来たやつが発明したものだろう。

「この倉庫室の扉が開く番号は、****です。」

 クベーラが番号を言い、その番号の通りにホーソンが指でボタンを押していく。ピーっと音が鳴ってから、ホーソンはドアノブを握り扉を引き開けた。

 監獄ということもあってか、ものすごく暗い印象を受ける場所だった。そして物がごちゃごちゃと置かれており、整理はされていなかった。

「ここはそんなに利用していないので、整理は行き届いていませんね」

 別に責任はないのだが、クベーラが申し訳なさそうに言う。

「凶器は……これですね」

 ホーソンは部屋の片隅から身長と同じぐらいの大きさの槍を持ち上げた。片手でもなんとか持てる程度の太さだが、持ち手が鉄製で重さもあり、ホーソンでも両手で持たなければ使えなさそうな武器だ。

「布で血を拭きとっていますが、その程度じゃ消しきれていませんね。はっきりとは見えないでしょうが、持ち手にまでべっとりと血がついていたみたいです。……死体の傷口と合わせて考えても、これが凶器でしょう」

 確かに殺傷能力は高そうだ。

「ところで、どうしてこんな代物が?」

「囚人への贈り物として贈られたものですね。私には理解できませんが、ここにいる犯罪者のファンなどが存在しているんです。そういった者たちからの贈り物にはこういった武器なんかも多いんですよね。できるだけ破棄してるんですが、中には壊れにくかったり、取り扱いにくいもの多くて。この槍はたしか……三日前に刑が執行されたズートへの贈り物だったと思います」

 犯罪者のファン。俺の住んでいた日本ではあまり聞く話ではないが、外国などでそういった例があるのは知っていた。また、部屋の中をよく見ると、剣や鞭、クロスボウなどの武器があった。こうした武器も殺傷能力が十分にあり、フェイオスに使用しても槍と同じぐらいの効果があっただろう。

「ここの倉庫室は鍵がかかっていますが、暗証番号などは誰が知ってるんですか?」

「そうですね……ここで働いていれば、自然と知ってると思いますよ。ここ以外にも倉庫室があり、その暗証番号と同じなんです。万が一のために鍵をつけていますが、特に金目のものもありませんし……」

 それと同時に、囚人や外の人物への情報の流出は考えにくいともクベーラは言う。

「それにしても、被害者のフェイオスってかなり強い獣人じゃなかったのか?強力な武器があるとはいえ、そう簡単にやられるのか?」

「それはあれじゃないの。どのみち死刑だから、被害者は抵抗する気がなかった」

「……まあ、マリアさんの言う事も一理あるかもしれませんが、おそらく神父のかける魔法のせいではないでしょうか」

 ここで俺は刑執行の流れやそれぞれの役職の役割を知る。

「まあ最も、今日いるメンバーであれば、神父の魔法がなくても十分に倒せる実力は持っていると思いますが」

 とクベーラが補足する。

 ちなみに、監獄で使われている結界や、ユピテルが使用した精神を落ち着かせる魔法以外の魔法や特殊な道具を使った痕跡は見受けられなかった。


 容疑者一同が集められている部屋に向かうため、再び迷路のような監獄内を歩いていく一同。その道中、どこからかゴムと油の混ざったような臭いを感じとった。これはいったい何なのかと思っていたら、曲がり角から音もなくロボットが現れた。

「なんですか、これ?」

 俺の腰の高さぐらいの大きさで、動きやフォルムを見ると、○ターウォーズに出てくるあのロボットのようであった。

「これは、監獄内をランダムに動き回って、不審者などを見つけて報告、攻撃するロボットですね。まあ、そんなことはめったにないので、監獄内の掃除をするのがほとんどですけどね」

 実態はル○バのような役割を担っているらしい。

「俺たちって不審者扱いになるんじゃ?」

 ちょっと不安になったので聞いてみる。

「大丈夫ですよ、私が一緒にいますから。監獄内で働いている者の顔が登録されており、それ以外の者が単独行動していたら話は別ですが」

「監獄内にいるこの道具はこれ一台だけですか?」

「いえ。あと二台ありますよ」

「それで、この道具には映像を撮影する水晶っぽいのが付けられているけど、これにそういう監視する役割は?」

「三百六十度全体を撮影していますよ。保存期間は長くありませんが、今日一日程度の記録なら残っていますね」

「そうですか。なら、事件が起こる少し前…午後二時ごろから、死体発見までの午後二時半までの映像を調べて欲しいですね。もしかしたら何か映っているかもしれませんし」

「わかりました。所長に言っておきます」

 力強くうなずくクベーラ。

 俺たちは容疑者一同が待機している部屋に向かい、クベーラはメランプスのいる所長室へと向かった。







 

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