「魔法使いが多すぎる」問題編

第55話「名探偵は裁判所へ赴く」

「トウマ。ちょっと来て欲しい場所があるんだけど。どうせ暇でしょ?」

 ふかふかのソファーに寝ころびながら本を読んでいる俺に、マリアはそう声をかけてきた。

「……まあ、暇だけども。で、どこに行けばいいんんだ?」

「裁判所」

「そうか……ついにマリアの悪行が世に知れ渡ったんだな。よろこんで証言台に立つぞ」

「ちょっと待ちなさい。なんで私が捕まるのよ。っていうか、そんな嬉しそうな顔する?」

 マリアはそう言ってこっちをにらむ。

「いや、ポンコツアイテムとか魔法を使って一般の人に迷惑をかけて、訴えられたんだろ?つまり、俺は被害者側として、マリアの罪をより重くしてもらえるように証言しなくちゃな」

「証言するとしても、せめて私の味方じゃない?……というか、私別に訴えられてないから」

「そうか。貴族という立場を活かして、もみ消してきたからか」

「そんなこともしてないから!っていうか、迷惑かけてるのはトウマだけだし」

 迷惑かけてる自覚はあるのか。

「じゃあなんだ?どういう用事で裁判所なんか行くんだ?」

 というか、この世界も裁判所があるんだな。そういえば、俺と同じように異世界に来たやつがその制度を作ったって聞いたことがあるな。

「えっとね、陪審員制度というものが新しくできたのよ。それで、その陪審員として、私に声がかかったのよ」

 陪審員か。これも異世界から来た奴が導入した制度なんだろうな。

「ゆくゆくは一般の人たちにも参加してもらうみたいなんだけど、今は貴族とか有名な学者さんとか、特別な人が呼ばれて裁判に参加してるのよ」

「貴族が参加するとか、不正とかすごい起こってそうだな」

「失礼ね。別に貴族全員がそういうわけじゃないわよ。まあ、有力貴族によっては、派閥とか上下関係とかあるけど、裁判に呼ばれるのはそういったしがらみとあまり関係のない人とかよ」

「つまり、ぼっちの貴族に声がかかると」

「中立っていう言葉知ってる?そんなかわいそうなものを見る感じで私を見ないで」




 異世界の裁判所は、大聖堂というような趣の建物だった。周りは堀に囲まれており、裁判所に入るための入口には、いかつい銅像が二体並んでいる。

「へー結構立派な建物なんだな」

「そうね。かなり重要な建物だからね。で、せきゅりてぃーがしっかりしてるんだって」

「警備がしっかりしてるんだな」

 建物に入ると、入口は空港のセキュリティーチェックのような場所だった。

「……荷物チェックすんのか?」

「ええ。昔の話なんだけど、裁判を受けていた犯罪者を逃がした組織がいてね。それから厳しくなったの」

「へー」

 スーツを着て、サングラスをかけたいかつい男二人組が、裁判所に入ってくる人たちのセキュリティーチェックを行っている。


「……というか、この世界にスーツとかあるんだな」

 この世界に来てから、RPGとかでよく見かける服装しか見ていなかったから、ものすごく新鮮だ。

 まあ、厳密に言えば襟とかボタンとか、ネクタイの感じとかが元の世界のそれとはちょっと違うけど、ほとんどスーツと言っても過言ではない。

「ああ、そう言えばあの恰好ってトウマと同じ異世界から来た人がデザインしたとか聞いたことあるわね。たしか、メンイン○ラックを意識しているとか言ってたっけ」

 とマリア。

 そんな話をしていると、俺たちの番が回ってきた。


「はい、それではまずこちらをつけてください」

 と入口にいる男から手渡されたのは、黒い腕輪だった。

「なんだこれ?」

「それは魔法を使えなくする腕輪よ」

「俺魔法とか使えないんだけどな」

「でもスキルは使えるでしょ?そういうのも使えないようにする装備品なのよ」

 どんな高レベルの冒険者でも、等しく魔力を抑えられるんだとか。

 でも、俺が使えるスキルといっても、見ただけでその人の職業がわかるスキルだったり、その人が死んでいるのかどうかを確かめるものとかだから、別に使えなくなっても困ることはないな。


「では、持ち物検査を行います。お荷物を見せてください」

「荷物つっても何も持ってないけどな」

 財布しか持ってきていなかったが、受付の男は中までしっかりと確認し、さらにはポケットの中にも何もない事を確認し、俺のチェックは終わった。

「では、ルキナさん。こちらをお付けください」

 と、入口の男はマリアにも腕輪を渡し、手荷物検査を始める。ここでは、弁護士も検事も身分の高さも関係なくセキュリティーチェックを受けるようだ。


「えーマリアさん、これは?」

 マリアの持っていたかばんから、なんだかいかつい剣が出てきた。

「これ?これは『聖剣エクスカリバー』だけど」

「お前魔王でも倒しに行くつもりかよ」

「……えーこれは回収させていただきますね。それで、こちらは?」

 続いて出てきたのは真っ黒な壺だった。

「これに呪文をかけると、中から灼熱の炎が半径五キロにわたって吐き出されるっていう壺なんだけど」

「お前破壊神かなんかなの?なんでそんな武器持ってんだよ」

 当然のごとく壺も回収された。帰る際に返却されるみたいだが。

 まあ、別に返してもらわなくてもいいんだけど。


 二十分ほどのセキュリティーチェックを受け、俺とマリアはようやく裁判所の中へと足を踏み入れた。



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「魔法使いが多すぎる」は一日一話ずつ更新していきます(全7話)

 毎日21時頃更新予定

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