「5000年の密室」解決編
第54話「5000年後の君へ」
「それで、どうやって犯人はこの密室から抜け出したの?」
「簡単だよ。犯人は内側から閂をして、紙で目張りをする。そうして、この建物を完璧な密室状況にした」
「ええ、それは分かってるわ」
マリアが先をせかすように言う。
「とするならば、犯人が抜け出すタイミングは、その完璧な密室状況が崩れたときでしかありえない。それはいつだと思う?」
「密室状況が崩れた時?そんな瞬間があるの?」
「あるに決まってるだろ。ローレンスさんたちが壁に穴をあけたときだよ」
マリアたちはまだ首をかしげている。
「魔法やそれに準ずる力を使えない状況で、犯人が抜け出せる出入口は、ローレンスさんがあけた穴しかないだろう。そして、犯人が抜け出すタイミングとしては、ローレンスさんとハワードの二人が、奥の部屋のミイラに気を取られている時しかないだろう」
「……え?」
「犯人は手前の部屋にある用具入れの中に隠れていた。そして、ローレンスさんたちが建物に入り、奥の部屋に入っている間に、壁に開けられた穴から出る」
ローレンスたちが用具入れを調べたのは、奥の部屋に入ってミイラを調べた後だった。
「え、ちょ、ちょっと待ってください。それじゃあ、犯人はずっと隠れてたってことですか?」
「そう。5000年間もの間、犯人は密室の中で誰かが入ってくるのを待っていた。これしか考えられない」
レオポルドは無表情のままだが、他の四人はポカンとした顔をしている。
「まあ、犯人が人かどうかは知らないけど、異世界なんだし、不死の存在とかいるだろ?だったら、5000年間ずっと待っている犯人がいてもおかしくないだろ」
「ああ、いるな。まあ、不死じゃなくても1万年くらい生きる種族もいるからな。その辺が犯人だって可能性もある」
とレオポルド。ちなみに、不死とかそう言った種族は、魔法とかそう言った力で生きているわけではないため、魔法の使えない結界内で生きていける。また、不死の種族は何も飲まず食わずでも大丈夫なのがほとんどらしい。
「以上が俺の考えだ」
「……まあ、確かにそれしか考えられないけど……でも、5000年も待つ必要はあるのかしら」
「別に5000年も待つつもりはなかったと思うぞ。たぶんだけど、犯人は建物を密室にして、誰かが入ってくるのを待っていたんだろう。だけど、ここで予期せぬことが起きた。それは、建物が土砂に埋まってしまったんだ」
「そっか。出たくても出られなくなったのね」
マリアは納得したように声を出した。
「そして、5000年の月日が経ち、ローレンスさんたちがこの密室の扉を開いた……というわけだな」
最後はレオポルドが締めくくった。
ちなみに、5000年間ずっと待っていたであろう人物はまだ見つかっていない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「すごいことを思いついた」
私の目の前にいる男は頬がこけ、顔色はものすごく悪いのにも関わらず、目だけは輝いている。
「……ちなみに何?」
私は仕方なく聞いてあげる。
「ああ。魔法があれば、割と大抵のことができるよな?だけど、そんな魔法が使えない状況で、不可思議なことをやってのけることを考えついたんだよ」
「ふーん。魔法でできないことはいっぱいあるけどね」
例えば、目の前にいる男の不治の病を治すこととか。一年前から不治の病に侵されている男は、日に日に衰弱している。しかし、それをものともせず、死ぬ前に何かをやってのける、と豪語していた。
「ほら、あそこの丘に呪いの盾を封印してある建物があるだろ?あそこって結界があってあるから、魔法が使えないだろ」
「ええ、そうね。それで?そこで何かするの?」
「ああ。あの建物の中に入り、閂をかける。で、さらに中から紙を壁じゅうに貼り付けるんだ」
「そんなに厳重にしてどうするの?誰も出入りできなくなるじゃない」
「それでいいんだよ。……それで、誰かがあの建物に入るんだ。まあ、扉を破るのは無理だろうけど、壁に穴を開けるくらいはできるだろ?」
「うん」
「で、壁に穴を開けた人が奥の部屋に行っている間に、入って来た人が開けた穴からこっそりと出るんだ。そうしたら、どういう事になると思う?」
「……中に人がいるはずの建物に、誰もいない状況ができるわね」
「そうだよ。魔法が使えないのに、出入り不可能な建物から人が消えるんだ。これはとっても不可思議だろ?」
「……そうね」
余命わずかの状況で、この男はこんなことを考えていたのかと思うと、あきれるような、なんだかおかしな気持ちになった。
「でも、そんなに簡単にいくかしら。あそこってほとんど何もないでしょ。奥の部屋にいたっては何もないし」
「そこだよ。そこにとびっきりインパクトのあるものを用意するんだよ」
なんとなく予想がついているけど、念のため聞いておく。
「それは?」
「俺の死体だよ」
「自殺でもするつもりなの?」
「まさか。それに、それだと俺が建物を密閉してから自殺したことになるだろ」
「じゃあどうするの?」
「……俺はあと数日もすれば、たぶん衰弱しきって死ぬと思う。その死体をあの建物の中に運ぶ。……で、ここで重要なのは、明らかに俺一人では実行不可能な状況での死体として見つかるんだ。……そうだな、両手両足を縛って、剣で貫かれるような状況がいいかな」
「……なるほどね。建物に入った人がその死体に気を取られているすきに建物から出るってことね」
「そうだよ」
目の前の男はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「はあ………それで、そのあんたの考えを実行するのが私ってことね」
「ああ。こういうの頼めるのお前しかいないからな」
「結構えぐいことを頼んでるっていう自覚はある?」
「もちろん。すまないなとは思っているよ」
私は少し大げさにため息をつき、
「仕方ないわね」
と言った。それを聞いた男は、優しく微笑みこういった。
「ありがとう」
そして、今私の目の前には、剣に貫かれ、両手両足を縛られている男の死体がある。
結局あれから一週間後に病気で亡くなった。死ぬまで周りを巻き込んで色んなことをやらかす奴だった。
そんな男が今床に冷たくなって横たわっている。
「……さてと……閂はかけたし、あとは目張りをするんだっけ。は~結構大変だな」
誰かが聞いているわけでもないけど、私は結構大きな独り言をつぶやきながら行動に移した。
それから数時間。建物内の壁に目張りを終えた私は、接着材が入っていた空の壺を机の上に置き、一息ついた。
「で、いつ頃くるかな」
男の死体が無くなって、そろそろ騒ぎになってるはずだけど………
ドドドドドドドドド……
音がすると同時に、建物が揺れた。
「今のは……」
建物の外を確認しようとしたが、途中でやめた。
たぶん、この周辺に山が降ってきたのだろう。最近よくそういった災害が起こっているし。
つまり、出ようにも出られなくなったのだ。そうなってくると、この建物が開けられるのが一体いつになるのだろう。
大量の土を掘り起こしてまでして、この建物を見つけようとする人物がいるとは思えない。そうなると、次にこの建物に人がやって来るのは、数百年……いや数千年先かもしれない。
「……まあ、いいか。どうせ死なないんだし」
私は不死の存在として、誰かに殺されない限り、死ぬことはない。病気にかかることもないし、飲まず食わずでも普通に生きていける。
だからこそ、色んな人から迫害されてきたわけだけど。そんな中、あの男だけは違った。あの男は私を一人の人間として見てくれた。あのときだってあいつは………
とにかく、たとえどれだけ年月が経ったとしても、あいつが考えた不可思議な状況をつくってやろう。
だってあいつと約束したからね。
「5000年の密室」終わり
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