「開けっぱなしの扉」解決編
第30話「犯人を指摘する 1」
俺は今、応接間で皆の前に立っている。それぞれ神妙な表情で俺の方を見ている。正直言って、自信はないが、犯人を指し示す明確な物証がない状況で、犯人を追いつめるにはこうしてみんなの前で謎解きをした方がいい、ということでこうなっている。
正直言ってこうして謎解きするのは魔王城の事件以来だ。
とりあえずやるしかない。
俺は息を吸い込み、話始める。
「今この段階で、犯人が誰なのか、自分なりの考えがまとまったので皆さんに聞いて欲しいと思います。それを聞いて、思った事があれば何でも聞いてください」
俺が『名探偵』という職業だと聞いているからか、そこまで疑問を持たずにみんなは俺の話を聞いてくれている。
「もちろんですよ。……それにしても、『名探偵』の謎解きですか。初めてで緊張しますね」
グレッチェンが場を和ますように少しおどけて言った。
俺は黙ってそれを聞き、謎解きを始める。
「―――さて、今回起こった事件を考えるうえで、まず大前提があります。それは、犯人はこの中にいるということです」
門番の二人の話など、これまで分かっていることを簡潔に話し、外部の人間による犯行、門番二人の犯行、執事のジョンソンさんの犯行、俺とマリアの犯行の可能性をまずは否定した。
また、現場の様子などから犯人は一人であっただろうと推察できることなどを話した。
「……そうですね。薄々感じてはいましたが、犯人は我々の中にいるのでしょう」
それを聞き、ローレンスは落ち着きながらそう言った。
「そう考えると、ベティーさんも犯行は難しい気がしますね。そもそもジョンソンさんが三十分近く離れるなんて予想できないでしょうし。となると我々男性陣の中に犯人がいると言う事ですかね」
「いえ、私もまだ容疑者の一人だと思います。ジョンソンさんが地下に荷物を取りに行ったのは偶然かもしれませんが、地下室に荷物を取りに行くのなら、三十分近くかかることは予想できますし、立場は皆さんと同じだと思います」
そんなグレッチェンの言葉をベティー自身が打ち消した。
まさか本人からそういう意見を聞くとは思っていなかった。
「ではとりあえず、容疑者はあなた方五人ということで話を進めていきます。……では、犯人が誰かを考える上で次に考えるべきポイントとはなんでしょうか」
ここで一旦話すのを止める。
「……それはやはり、入口の扉を開けっぱなしにしていたことでしょうか」
恐る恐ると言った感じでフレッドが発言する。
「そうですね。俺も真っ先にそれを思いました。わざわざ道具を使ってそんなことをしているんだから、これにはなにか理由があるんだろうと。……それについて考えていたら、ある見落としをしていたことに気が付いたんです」
「それは?」
レオが続きを促す。
「それは、離れの部屋の中……手前と奥の部屋をつなぐ金属製の扉が開けっぱなしだったことです」
「あの扉がですか?」
とホーソン。ホーソンは事件が起こってから離れに入ったから、知らないだろうが、それ以前に入ったマリアやレオたちは気が付いたみたいだ。
「そういえばそうね。あの扉は普通閉じてあるんだったわね」
「ああ。だけど、俺たちがパーカーさんの死体を発見した時、手前の部屋の扉を開けた俺たちは、すぐに奥の部屋の椅子に座らされた死体を発見したよな?。その時は死体発見の衝撃で何も思わなかったが、よくよく考えればおかしいことに気が付いたんだ」
あの扉は押さえていないと扉自体の重さで閉じてしまうものだった。もしその扉が閉じていたのなら、手前の扉を開けた時にはパーカーの死体を見つけることはなかっただろう。
「……ということは、犯人は離れの入り口の扉だけでなく離れの中の扉も開けっ放しにした、ということですね」
ちなみにその問題の扉はロープでくくりつけて開けっ放しにしてあったのを後から確認した。
「じゃあ、犯人がわざわざ扉を開けっ放しにした理由はなんでしょうか」
ぽつりとルドルフが言った。
「犯人の行動を見てみると、犯人は手前の部屋でパーカーさんを置物で撲殺し、その死体を奥の部屋まで引っ張り、奥の部屋の椅子に座らせています。これは、手前の部屋に残った痕跡、死体を調べた結果から推察できます」
「なら、犯人は死体を運びやすくするために、扉を開けっ放しにしたんじゃないの?運ぶの大変だろうし」
とレオが発言する。レオが話せることをついさっき知ったばかりの一同は驚いていたが、早くも慣れつつあるみたいだ。
「そういう一面もあるかもしれない。だが、そもそも死体を移動させる必要があったんでしょうか?」
「それもそうですね。むしろさらなる証拠を残してしまう可能性もありますし、犯人としては余計なことはしたくないはずです」
フレッドの疑問に、ホーソンが俺の言いたいことを代弁してくれる。
「犯人は、扉を開けっぱなしにすることを先にしたかったんだと思います。死体を動かしたのは、中央の金属製の扉が開けっぱなしなのを印象付けたくないからでしょう」
「扉を開けっ放しにしておくことで犯人にメリットがあったということよね。なんなのかしら」
マリアだけでなく他の人たちも考えこむ。
「俺たちが離れに入った時のことを思い出せば、答えまであと少しだぞ」
そんなマリアに俺はヒントを出す感覚で話しかける。
「離れに入った時?……扉が開けっぱなしだったから、廊下の中も寒かったわね」
「そうだ。犯人が狙ったのはまさしくそこだろう。それはもう一つの開けっ放しにしてあった扉の方でも同じだよ。扉が開けっぱなしであることによって、手前の部屋と奥の部屋の空気を行き来させるのが犯人の狙いだったんだよ」
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