第18話「これにて事件解決、お疲れさまでした」
「……い、いや、そ、そんな……」
犯人と指摘されたライは、否定しようとするものの、顔がひきつって、うまく言葉を発せていない。
「……しょ、証拠は?」
「そんなん知らんよ。俺はあくまで誰が犯人かを指摘しただけだし、そもそもこの世界の刑罰というか捜査事情は詳しく知らないし。今の俺の話だけであんたが捕まるかどうかは知らない。……どうなんだ?」
一応この事件の捜査責任者であるレオポルドの方を見てみる。
レオポルドはゆっくりと口を開き、
「そうだな……少なくとも、俺は納得したぞ。そして、おそらくここにいる皆が納得していると思うな。まあ、それは俺たち捜査陣の腕の見せ所だろう。まあ、俺たちピース・メイカーが出しゃばってきたんだ。何も成果なしっていうわけにはいかないからな。まあ、頑張るだろうな」
ニヤリと少し悪い笑みを浮かべ、ライをじっと見つめる。
じっと見つめられたライは、プレッシャーに押しつぶされそうになっている。
次の瞬間。
ドゴッ、と鈍い音。
ライは何かを叫ぼうとして、こちらに向かってきた―――おそらく。
いや、俺にも何が起こったのかよく分からなかった。
気づいた時にはライは壁際まで吹っ飛ばされていた。
「……?」
何が起こったのかよく分かってない俺に、
「ああ。逆上して襲い掛かろうとしたからな。たぶん、人質でもとろうとしたんだろ。だから攻撃したんだが」
レオポルドが何でもないように言った。
吹っ飛ばされたライは、ぐったりして動かないが、死んではないみたいだ。
「じゃ、帰りましょうか。遅くなったし、早く帰ってご飯でも食べましょう」
置いていたリュックを背負い、帰ろうとするマリア。
「え?これ帰っていいの?」
日本だったら、犯人が捕まってもなんやかんやありそうなんだが。
そんな俺の戸惑いをよそに、
「ああ、助かったよ。マリアさんもどうも。お父さんによろしく。後の処理はやっとくから、帰って大丈夫だ」
とレオポルドはそう言いながら軽く手を振っている。
そこまで言うんなら帰るか。そう思い、マリアの後を追って魔王の間から出ようとした時、レオポルドに呼び止められた。
「ああ、そう言えばトウマ。またこんな感じで事件が起こった時に、捜査に協力してもらえたりするか?……もちろん、ただとは言わない。というか、今回の謝礼はまた後程渡すし」
金がもらえるのか。まあ、金銭的なことはマリア頼みだったから、お金に困ったという感覚はないんだが……
「……まあ、無理のない範囲ならいいけど」
少し考えてそう答えた。
『名探偵』という職業のせいで、ろくにクエストとかもできない。つまり、この世界における普通の冒険者たちが、お金を稼いでいる通常の手段が俺には難しいのだ。
というわけで、自分の力でお金を稼ぐ手段を持ってたほうがいいかな、と思ったからこういう返事をしただけだ。
こうして魔王城で起こった殺人事件は幕を閉じた。
後日。
レオポルドが俺に謝礼を届けに屋敷になってきた。
結局あの後ライは犯行を自供し、今は裁判に向けて動いているらしい。
ちなみに、この世界にも裁判はあり、俺と同じような異世界からやってきた人間が裁判制度を確立させたらしく、日本と似たようなものになっている。
「ところで、ライはどんな感じなの?動機とかについては何か言ってるのかしら」
俺とレオポルドが話ているところにマリアがやって来て、開口一番聞いてきた。
「動機か?予想通り、カッとなってって言ってるね。馬鹿にされたんだと」
「馬鹿にされた?」
「ライ曰く、いつも通りシーツを変えに行った時、魔王は椅子から立ち上がり、世間話のような感じで会話をしていたみたいなんだよな。で、ちょうどさっき来た冒険者たちが、男二人に女二人のパーティーだったんだが、カップル二組が臨時でパーティーを組んだそうなんだ。で、そのカップルの話になって、魔王が茶化すようにライを童貞いじりをして、腹を立てたライは近くにあった剣で刺したって言ってたぞ」
応接間のソファーにゆったりと座りながら、事件の顛末を話すレオポルド。
俺とマリアはその動機を聞き、思わず
「「はあ?」」
とハモってしまった。
いや、人の動機に他人がどうこう言うのもあれだとは思うが、魔王城で起こった殺人事件がそんな動機で起こったのは、なんだかできの悪いコントみたいに感じてしまった。
「まあ、ライも殺すつもりはなかったーみたいなことは言ってるけどな。なんというか魔が差したというか。普段別にそんなことを言われても、怒ることもないと思っていたのが、今までの積み重ねか、気がついたら魔王が床に倒れていたんだと。まるで殺意を一押しされたみたいだとも言ってたな」
まあ、それを聞いて仕方ないとは微塵も思わないが、動機なんてそんなものなのかもな、とも思った。
「そういえば、あの魔王城はこの大陸の代表だとか言ってたが、その魔王が殺されたけど大丈夫なのか?」
「まあ、たぶんそのうち、新しい魔王があの城に就任するんだろうな。魔王をやれる魔族は何人かいるし。ま、その辺は魔族のなかで決めるだろうから、俺たちピース・メイカーにはあまり関係ないけどな」
本当に心の底から関係ないと思っているような口ぶりだ。
レオポルドは話を変えるように手を打ち、
「ま、事件の話はこんなもんで、ほい、謝礼。相場が分からんから、足りなかったら言ってくれ」
ぽん、と机の上に札束が置かれた。
「……⁉え、えっと、いくら?」
「ん?とりあえず五十万だが」
ちなみにこの世界のお金だが、日本と似たよった感じだ。単位はセレネと言い、1セレネが日本の一円である。
というわけで、昨日の謝礼で五十万円貰えるということだ。これはすごい。
「充分すぎるな。ほんとにこんだけ貰っていいのか?」
「ああ、もちろん。ま、これからも特に特殊な事件が起これば、捜査の手伝いをお願いしたいし」
まあ、これだけお金をもらえるんなら、手伝っても良いな。
そんな俺の考えを読んだのか。
「で、さっそく手伝ってもらいたい案件があるんだが……」
とレオポルドが切り出した。
いや、確かに協力するとは言ったけども。
こうして、俺の少しイメージとは違った異世界生活が始まることになった。
「魔王が死んだ⁉」終わり
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