「魔王が死んだ⁉」解決編
第17話「謎解きは魔王城の中で」
「ホントか?で、犯人は誰なんだ?」
めんどくさそうにしていたレオポルドの表情が、俺の言葉を聞いて変わった。
「あーそれはだな……」
「あ、ちょっと待って」
と説明をしようとする俺をマリアが止めた。
「なんだよ?」
「謎解きは、みんなを集めてからじゃないと始めちゃだめって本で読んだわ」
さっきからちょいちょい本で読んだ、って言ってるが、どんな本なんだろう?
なんか名探偵のイメージが偏ってる気がする。
俺が止めるのもかまわず、マリアは関係者を呼びにどこかに行った。
「じゃ、謎解きしてもらおうかしら」
場所は先ほどと同じく魔王の間。
俺とマリア、レオポルドにドロシーといった捜査陣。
そしてステューシー、ライ、ミラの三人の容疑者。
さらに五人の男女がいた。一人は受付にいた女の人だが、他の四人は見たことがない。
「おい、あれは誰だ?」
連れてきたマリアに聞いてみる。
「ん?えーっと、右からジョセフさん、シルバーさん……」
「いや、そうじゃなくて、どこの誰かを聞いてるんだよ。事件の関係者でこんな人たち居なかっただろ?」
魔王城にいるモンスターならともかく、見るからに普通の人間しかいない。
「事件解決は関係者たちを全員集めて行うものなんでしょ?でも今回は容疑者も三人だけで、人数が少なくて盛り上がらなさそうだから、観客の人を呼んだの」
「は?」
「ジョセフさんは木こりで、シルバーさんはカフェのマスター、キャサリンさんは主婦、ミッシェルさんは教師よ。それと受付のルナさん。さ、謎解きを始めちゃって」
「さ、じゃねーよ!つーかどういう人選だよ⁉無関係な人たちを巻き込むんじゃない!」
五分後。無関係の四人を帰し、(受付のお姉さんはまあ、容疑者ではないけど一応関係者として残っている)気を取り直して謎ときをする。
「えーっと、この事件の犯人だけど……」
「ちょっと待って」
またマリアが止めた。
「……今度はなんだよ?」
「初めの言葉。本で読んだわ。名探偵、皆を集めて、さてと言い。っていう言葉があるって」
なんだその川柳。それ常識なのか?
「謎解きの一番初めの言葉は、『さて、』で始めなくちゃいけないんだって」
そんな決まりは聞いたことないが、これを言わなきゃまたなんか言われるだろうし、仕方ない。
「――さて、今回の事件だが、魔王城で魔王が殺されるっていう前代未聞と言えば前代未聞の事件だ。だけど、事件そのものは単純なものだったと見ることもできる」
そう、レオポルドが言ってたように。
「何かの拍子でカッとなった犯人が、近くにあった剣で魔王を刺した……ただそれだけだ」
「……まあ、言ってしまえばそうかもしれませんが……だからこそ犯人は誰か分からないのでは?……まあ、私たち三人の中に犯人がいるのは分かっているんでしょうけど」
とステューシー。
「まあそうだね。魔王の間に入れるのはあの扉のみで、あの扉は映像石によって監視されていた。魔法が使われた形跡もなく、犯行が可能なのは魔王の間の奥の居住スペースにいたあんたたち三人だろう。これは、魔王が全く警戒することもなく背中を刺されていることからも言えるだろう」
レベル100を超える魔王があっけなく刺されていることからも、犯人は魔王と顔見知り、それもかなり親しいはずだ。そして人づきあいの少ない被害者と一番関わりがあるのがステューシーたちだ。これは本人たちも認めている。
「でも、三人のうち誰が犯人かが問題なんでしょ?誰にでも可能性があるわけだし」
マリアの言葉に俺はうなずき、
「まあな。でも単純に考えればいい。指紋とかいった証拠はこの際考えなくていい。犯人は魔王の背中を一突きした。これは当然魔王の後ろから刺したんだろう」
「だろうな。魔王の視界に入っていたら、刺されるはずがないだろう」
腕を組み、壁に寄りかかりながら、レオポルドが同意する。
「ここでよく考えれば、犯人は一目瞭然じゃないか」
「「え?」」
俺の言葉に、何人かが思わず声を出したみたいだ。
「いいか?魔王は背中を刺されたんだぞ?だったら、魔王が刺された瞬間、魔王はどこにいたと思う?」
「どこに?……それはやっぱり倒れてた場所でしょ?血とか死体の様子から、殺されてから動かされた形跡はない、って言ってたし」
そう言って、マリアは魔王の間のじゅうたんの上――魔王の椅子から、少し離れた場所指さす。
「そうだ。魔王が刺されていた時、魔王は確実に椅子に座ってはいなかっただろう。椅子に座った魔王を――しかも魔王の座高より高い背もたれがある椅子に座っている魔王の背中を刺すことは出来ないだろう」
もしそうなら、椅子に剣による傷とかがあるはずだ。
だが、俺たちが死体を発見したとき、椅子はいたってきれいなものだった。
俺の言葉を理解し始めた人たちはしだいにある人物の方を見始める。
「そして。これまでの話から、魔王はずいぶんのものぐさで、魔王城にいる時は、特に冒険者が来るような日は、一日中椅子に座ってだらだらしているって言うことが分かっている。トイレですら椅子に座って魔法で済ませるようなものぐさだ。しかも、火事が起きて、すぐそばまで炎が迫って来ても、だるそうに椅子に座って火を消し止めるようなやつだ。……ということは、そもそも魔王が背中を刺されて殺されるということ自体おかしいことに気づく。だって、椅子に座ってるやつの背中を刺すことは出来ないからな」
俺はここで一息つく。
「だけど、そんな魔王が椅子を離れるタイミングがある。そう、魔王が座っている椅子のシーツを変えるタイミングだ。このときばかりは、椅子から立ち上がらないといけない」
犯人をのぞく全員が、ある人物を見つめる。
俺もゆっくりとその人物の前に立ち、静かにこう告げる。
「というわけで、犯人はライ、お前だ」
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