第15話「まだまだ捜査は続きますか?」

「で、とりあえず事情聴取が終わったんだが、どうだ?」

 三人を別の場所で待機させ、レオポルドが俺の方を見て聞いてきた。

「どうだ、って言われてもなぁ……」

 名探偵なら、もうすでに解決編に入ってるんだろう。が、俺は『名探偵』っていう職業なだけで、別に推理能力があるわけじゃない。“名探偵スキル”も、こういう事件で役に立つ感じもしない。どうせなら、一発で犯人が分かるスキルとかあればいいのに、と思う。

「で、マリアはどうなんだよ。さっきから結構黙ってるけど」

「私?いやー黒幕は、ガンバルンジャーたちの本部の隣にある、肉屋のおじさんが怪しいなーって」

「まだそれ考えてたのか⁉もう《魔法戦隊ガンバルンジャー》の話はいいよ!」

 っていうか、肉屋のとなりにある本部ってなんだろう。商店街の中にあるんだろうか。


「レオポルドさーん……映像見終わりましたー……」

 なんだか疲れた様子のレオポルドの部下の女性が戻ってきた。

「ああ、そう言えば、魔王の間の入口が映っている映像石を調べるように言ってたっけ」

 すっかり忘れた様子のレオポルドを見て、

「忘れてたんですかぁ?結構見るのしんどかったんですからー」

 口を尖らせて抗議する部下を軽くいなし、

「ああ、悪い悪い。で、どうだった、なんか映ってたか?」

「いえ、特には。まず初めの冒険者たちが入って来て、数十分後に魔王の間から出てきたのを確認しました。そこから時間が過ぎて、次に魔王の間に入ったのはマリアさんとトウマさんの二人でした」

 つまり、外部から入ってきた不審者はいなかったと言う事か。

「……今思ったんだけど、魔法で外から侵入とかできるんじゃ?」

 そう、ここは異世界だ。たまに異世界に来たことを忘れそうになるが、この世界には魔法という物理法則を無視したものが存在する。

「ああ、転移魔法とかのことか。屋内じゃ無理だな。天井に頭をぶつけるな」

 ある場所から遠くの場所へ、一瞬で移動できる魔法が存在するが、空を飛んで移動しているらしく、屋内でやると天井に頭をぶつけるらしい。

「でも、透明になる魔法とか、幽体のように、壁や床を通り抜けられる魔法とか使えば、映像石に映らずに魔王の間に入れたりとかは?」

「それも色々な理由で否定できるけど……手っ取り早く、魔法が使われたかどうか確認できるわよ」

 とマリアはなにやら黄色い招き猫を取り出した。

「それは?」

「マジックキャットよ。この道具を使えば、魔法が使われたかどうかが分かるの」

 そう言いながら、マリアはその招き猫を赤いじゅうたんの上に置いた。

「で、この頭を二回なでてあげると、このマジックキャットが魔法の痕跡を調べるの。魔法の大きさによるけど、一日前くらいの魔法の痕跡が分かるわ」

 この世界にはほぼ無数の魔法が存在するが、それが使われると痕跡が残るらしい。それこそ俺の元いた世界でいう指紋やDNAのように調べることができるんだとか。

 魔法によっては、誰が使ったのかかも分かるような魔法もあるらしいが、せいぜいだれかが何かしらの魔法を使った、使わなかった、というようなことくらいしか分からないらしい。

 マジックキャットがグルグルと魔王の間を歩き回り、数十秒後。

「ワンワン!調査が終わったワン!ここで魔法は使われてないワン!」

 とかわいらしい声で調査終了の報告をした。

「犬じゃねーか!なんで猫として作ったんだよ!」

 マリアの持ってきた道具だから、なにかしらおかしなところがあるだろうとは思っていたが、予想通りだった。

「まあ、精度は確かだぞ。あのアイテム、特殊騎士団とか事件の捜査を行う組織ぐらいしか使わないと思ってたんだがな……」

 とレオポルドがマジックキャットの信頼性を保証した。

「……まあ、とにかく、ここで魔法が使われてないってことだな。………ん?でも俺たちの前に冒険者が来てバトルをしたんだよな?そこで魔法とか使ってないのか?」

「ああ、それはリセットされたんだろ」

「リセット?」

「魔王城に特殊な結界が張られているのは話に出ただろ?で、その結界が張られているときに使われた魔法は、痕跡を調べるのが難しいんだ。んで、その結界を切ると、魔法の痕跡がリセットされるんだ」

 魔王が殺されたのは結界が切られた後だから、リセットされたこと自体は関係ないか。

「そもそも、こういう魔法の痕跡を調べる道具は、結界が切られた間の事しか調べられないのがほとんどなんだ」

 まあ、結界が張られてる間は、死んだ人間もよっぽど時間が経ってない限り、生き返らせることができるから、そんなに問題にはならないだろう。

「ただ、このマジックキャットはかなり精度が高くて、結界を切る前の魔法を調べるのは無理だが、結界を張ってる間の魔法の痕跡も調べることができるぞ」

 あのマジックキャットは魔法が使われた痕跡がないと言ってたが、つまり結界が切られてから、俺たちが死体を発見するまでの間で、魔法は使われてないってことだ。


「あの~魔法が使われたかどうかって、捜査に関係あります?……あ、ちなみに私はドロシーっていいます。ピース・メイカー見習いです」

 と、俺たちの会話を横から聞いていたさっきの女の部下が口をはさんできた。

 ドロシーは正式なピース・メイカーじゃないらしいが、その候補として研修中らしい。

「まあ、魔法が当たり前のこの世界の人間にはぴんとこないかもしれないけど、俺からしたら、魔法が使われてたってなると、無数の可能性が考えられるわけで、推理が難しくなるんだよ。でも、魔法が使われてないってことはつまり、いたって普通の論理で謎を解けばいいと思うんだよ」

 そんな俺の言葉を理解してくれたのか、理解できなかったのか、ドロシーはあいまいな表情でうなずいた。


「で、他に何か調べることはあるのか?」

「うーん……そうだな……この城って秘密の通路とか秘密の部屋ってあるのか?」

「ん?そりゃないと思うが……」

 レオポルドは俺の質問の意図があまりつかめてないようだ。マリアやドロシーも似たような感じだ。

「映像石から、犯人は魔王の間の入口…あの扉から入ってないって分かったよな?だから、魔王の間につながる出入り口が他にはないって確定できれば、犯人はあの三人の中にいるっていう前提ができるだろ?」

「前提か……まあ、一応大事か。よし、じゃあ、魔王の間と奥の三人とかが生活している居住スペースを調べてくれ」

 と軽い感じでレオポルドがドロシー及び他の部下に指示出す。

「えぇ~?ホントですかぁ~?結構広いですよ?指示出すなら、レオポルドさんも一緒に調べてくださいよー」

 と心底嫌そうな顔をするドロシー。

「あーうるさいうるさい。ここでは、ルキナ家のお嬢さんを除けば、俺が一番偉いんだ。俺の指示を聞けばいいんだよ」

 とレオポルドもこれまためんどくさそうに偉そうな発言をする。

「あーパワハラだパワハラ。同じピース・メイカーでも、ホーソンさんはそんなこと言わないですよー」

 とドロシーも負けてない。っていうかホーソンさんって誰だよ。


 それから三十分後。レオポルドも協力して魔王の間と奥の居住スペースの調査が終わった。

 結局、魔王の間につながる秘密の通路や、秘密の部屋、その他不審な人物等は発見されなかった。

 つまり、魔王の間に通ずる入口は、映像石によって監視された扉のみということで、魔王が殺される前後にその中にいたのが、ステューシー、ライ、ミラの三人のみということが確定した。

 

 

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